『猛者〜、猛者だよ〜。わたしより強いやつに会いに行くよ〜』
「
お前そんなに強かったの?!」
――バシッ――
「名雪め……何のつもりだ?」
朝っぱらから、ずいぶんヘビーなテンションだな、おい。
そもそも、いつからストリートファイターになったんだ? お前は……
ってか、どこに行くつもりだ? どこに?
「やっぱ、あれか? 同じクラスにそういう奴がいるからか?」
主に青色ツインテールの奴。
他にも乙女がどうとか言ってる奴。
1人の気がせんでもないが。
今日、学校で聞いてみるか。
さて、着替えも終わった。
今日という日の始まりを高らかに宣言したい気分だな。
やらないけど。
ふむ、今日はどうするかね?
前回はうぐぅ尽くしだったからな……今回はあぅ〜尽くしといくか?
『ベタ〜、ベタだよ〜。しょせん祐一のボケはその程度だよ〜』
「
大きなお世話だっ!!」
ホントにいらんツッコミだけはしっかり入れやがって……
っていうか、何で止めたはずの目覚ましから……
いや、それ以前に、いつ入れたんだ? こんなツッコミ……
『ネタ〜、ネタだよ〜。余計な詮索してないで私を起こすんだよ〜』
「
どこまで読んでやがんだ! てめぇはっ!」
名雪、恐るべし……これ以上ここにいるのは危険だな……同一ネタは3度まで。
芸人の鉄則だっ!
『……』
「
させるかっ!」
――バシッ!――
よし、止めたか……いい加減にしないと話が進まん。
ムカつくことこの上ないが、名雪を起こすか。
――ガチャ――
「グッモーニン、名雪〜」
今日は英国紳士風に決めてみた。
これでちょび髭生やしてシルクハットかぶってりゃ完璧だったな。
ふむ、いっそ頼んでみるか、夕日の似合う先輩に……って、誰?
ま、どのみち聞くやつも見るやつもいないんだから、気にする必要は皆無なんだがな。
「く〜……」
「おのれが……俺のボケをスルーした挙句、いつまでも寝こけくさりやがって……」
何か、俺の部屋の方で、目覚ましが騒いでる気がせんでもないが……聞こえんなぁ。
くっくっく……いい度胸じゃねーか。
お前より強いやつがこの世にはいくらでもいるってことを証明してやるよ。
「では、いざっ!」
「う〜〜、ひどいよ祐一〜」
「何がひどいか……お前の寝起きに比べりゃ、北極星とミジンコくらいの差があるわい」
「だからって、あんな起こし方しなくても〜……」
「起きないお前が断じて悪い」
そう、お前が悪い。
っつーかむしろ感謝しろ。
わざわざ起こしてやってるのに、恨み言聞かされてたまるかっての。
「だからって、あんな……」
「本当ならSTFをやってもよかったんだぞ? それがかわいそうだから止めてやったのに……何が不満なんだ?」
「結局、フィギュアフォーレッグロックされてたんじゃ意味ないよ〜」
「素直に4の字固めと言え」
わからない人だっているかもしれないだろ? ったく、配慮の足らんやつだ。
「そんなことどうだっていいよ。すごく痛かったんだからね」
「どうでもよくはないぞ」
大体よ、完全に極まってるのに、なお寝言ほざいてたやつが何を言うか。
うにゅ〜だの、だお〜だの、ぐぇ……だの。
「最後の1つは悲鳴じゃないかな……」
「おぉっ! いつの間にこんなところにいたんだ? あゆ」
正式名称は、月宮=タイヤキスキー=あゆだ。
ミドルネームにそこはかとなくセンスを感じるぜ。
「むしろゼロだよ」
「黙れ名雪」
そういう時は、嘘でも同意してくれるもんじゃないのか?
「うぐぅ……何か無視されてるよ」
「おぉ、すまんなあゆ坊」
「
坊って何なの?!」
「じゃあ、あゆ某?」
「
だから何であゆで止めてくれないの?! っていうか、何で疑問系……?」
そんな朝のエスプリの効いたハイセンスなギャグを堪能しつつ食堂に向かう俺達。
「自分で言ってて空しくない?」
「ない」
嘘。
ホントは少し寂しかったり。
ウサギは寂しすぎると死ぬ生き物らしいが、俺もそうなのかも。
「大丈夫だよ、祐一。憎まれっ子世に憚るってよく言うし」
「
フォローになってねぇっ!」
「え、えっと……フォローする気がなかっただけじゃないかな?」
「
もっとひでぇ!」
あゆにまでおちょくられると言うのか?
くそっ……全部あの珍妙なタイトルが悪いんだ。
そもそも、何で俺が振り回されにゃならんのだ?
俺に自由を! 俺に平和を! 俺に愛を!
――プルルルル……――
「ん? 電話か? こんな時間に誰だ?」
――ガチャ――
「もしもし……」
「無様ね」
――ガチャン――
「
あんにゃろぅ……!」
わざわざそれだけのために電話してきたんかいっ?!
ってか、何で俺らの会話の内容を知ってるんだ?
「香里ならそれくらい朝飯前だよ」
「そうか?」
時間的に見て、もう朝食は食い終わってるって考えた方が自然じゃないか?
「そういう意味じゃないと思うよ?」
「黙れあゆ」
お前はいつも通りうぐぅ製造工場としての機能を果たしてりゃいいんだよ。
国内のうぐぅ生産の総括としての自覚が足らんな。
「うぐぅ製造工場って何?!」
「お前だ、お前」
「うぐぅ……違うもん……」
「はっ……何を甘えたことを……」
わかってんのか? うぐぅのないお前なぞ、皮のないたい焼きみたいなもんだ。
「
それってただの餡子だよ!」
「つまりお前はその程度ってことになるのさ」
「祐一、あゆちゃんいじめちゃダメだよ」
「これのどこがいじめだ?」
俺とあゆのスキンシップを何と心得るか。
「そんなスキンシップいらないよ……」
どこぞのあゆ1号が呟いているが、無視だ。
まずは飯。
コレ常識。
「
ボク何人いるの?!」
「少なく見積もっても3人くらいはいるんじゃないか?」
「微妙な数字だね」
「うぐぅ……名雪さんまで……」
祐一くん、またまた振り回される
「はぁ〜……食った食った」
「ごちそうさまっ! 秋子さん、おいしかったよ」
「イチゴジャム最高だよ〜」
食後の満腹感に浸りつつ、未だにイチゴジャムを食い続ける我が従兄妹に目をやってみる。
惰眠を貪り、飽食に耽る。
何かあったらイチゴサンデーで、食堂ではA定食。
授業は眠りっぱなしのため、成績は下の方で、日常の動きはトロくさい。
特技といえば、走ること。
コイツの未来を思うと、正直、涙が出てくる。
「祐一君に言われたらお終いだね」
「
お前が言うか?! おいっ!」
食い逃げたい焼き娘の分際で、どの口がそんな面白いこと言いやがる?!
「うぐぅっ! ひどいよ、祐一君! 食い逃げたい焼き娘って何なんだよっ?!」
「言葉通りだ」
「ボクは、たい焼き食い逃げ娘だよっ!」
「
ツッコむとこそこかよ?!」
「そうだよっ! 失礼しちゃうよ、ホントに……」
何でそっちなら受け入れられるんだ?
お前の感性がわからん。
相変わらず謎の生命体だね。
Xとかいうファイルもびっくりだ。
「そんなことにいちいち驚くわけがないよ」
「
ジャムってろ! 名雪!」
イチゴに狂ってる最中に、何でいちいちツッコミを入れてくるんだよ!
「ジャムるって何? 祐一君」
「今年の流行語大賞間違いなしの言葉だ」
「それって、一般人の会話では出てこないってこと?」
「お前も割と遠慮ないな、あゆ」
まぁ、確かに。
流行語大賞とか言ってもよ、実際にその年流行ったのかどうか、割と疑問だもんな。
いい例があれだ、最低でもどうこう最高でもどうこうってやつ。
インパクトはあるけどさ、流行語ってのとは違うだろ、絶対。
大体、どんな場面で使えというのだ? マスメディア以外で使用された例があるのかどうかさえ疑問だ。
聖域なきホニャララとかもそうだし。
これの存続の意義を問いたい気分だね。
「それを言ったらこのSSの方が……」
「
それは言うなっ!」
少しそんな気がしてたりもするんだからっ!
「じゃ、止めればいいのに」
「黙ってろ、名雪」
男には引くわけにはいかない時もあるんだ。
「祐一って、ホントに何の役にも立たないことには一生懸命だよね」
「……それは褒めてんのか? けなしてんのか?」
「わかるでしょ?」
「……」
くそぅっ! ちょっと関節技極めただけなのに、今日は朝から毒吐きやがるな、名雪。
祐ちゃん、ちょっぴり泣きそうだよ。
「朝から足痛められた私の方が泣きたいよ」
「それがイヤならさっさと起きるこった」
それができないから名雪って言うんだがな。
「寝雪の間違いじゃないの?」
「おぉ、確かに。ナイスな指摘だぞ、あゆ」
「あゆちゃんまで……」
ふっ……悪はもれなく滅びる運命にあるのさ。
正義は勝つ!
「じゃあ、祐一が滅びるのも時間の問題だね」
「
滅びてたまるかっ!」
何だ、おい? 時間の問題ってよ?
そもそも、死ぬを通り越して滅びるのかよ?
俺、人間扱いされてねーのか? もしかして……
「今さらだよ」
「今さらだね」
冷めたピザより冷たい視線……どうにもこうにもうぐぅだった。
「あら?」
「ん? どうしたんですか? 秋子さん」
「留守録が一件入ってるの。誰宛かわからないから、とりあえず再生してみるわね」
……なぜだろう? 何だか微妙にヤな予感。
――ピー……――
「…………面白くないわ、相沢君。魚類から進化しなおしなさい」
「
お前は神かっ?!」
何で留守録に入ってんだよッ?! ツッコミがよッ!
何かもう、お前のセリフの内容にツッコむ気力もないわ!
「そこで単細胞生物にしないあたりに、香里の優しさがあるね」
「
ねぇよっ!」
「祐一君って、猿にも程遠いの?」
「
お前もかぁーっ!」
最後の良心、月宮あゆ崩壊。
あゆに同情されるなんて……もう、国に帰りてぇ……
「帰ったって住む家もないのに?」
「家なき子?」
「
違わいっ!」
お前ら、そこまで俺をいじめて楽しいか?
大体よ、家だってどうにかしてみせらぁ。
いざとなれば、友達のとこに転がり込みゃいいし。
「そうやって友達失くしていくんだね、祐一は」
「うぐぅ……一人ぼっち?」
「
お前らなぁっ!」
何か微妙にありそうな発言してんなよな!
これでも気にしてんだぞ?! こっちにいる男の知り合いなんて北川くらいだしよ!
「生徒会長の……えっと、久米さんだったっけ? あの人は?」
「
惜しいけど名前違うッ!」
それは、N駅の人だろう! エラい間違いしてんじゃないッ!
そもそも、あいつは友人でも何でもないぞ?
舞の敵は俺の敵。
仲良くしてやる理由なんてないね。
「うぐぅ……自分を敵にまわすの?」
「
何でだよっ?!」
「10年って長いよね」
「7年も長いよ」
「あぅー……」
イタイところを突かれちまったよ……父さん、母さん、俺、もうゴールしていいですか?
「あら?」
「……今度はどうしたんですか? 秋子さん」
「いえ、新聞の間に封筒が挟まってまして……祐一さん宛ですね」
「……」
香里め……浅はかな手を使いやがって。
ふふふ……3度目はねーぞ。
――ビリッ――
「ふふん、どんな文句が出るかね?」
来るとわかってて恐怖するわけもないだろう?
覚悟しとけよ。
「これまでの2連敗を完全に無視するんだね」
「祐一、卑怯だから」
「黙らっしゃい」
無視無視……さってと、中身は……
残念でした。
「
何がっ?!」
意味わかんねーって、マジで。
何が残念なんだ? そもそも、誰が残念なんだ?
べ、別に俺はお前のツッコミを期待してたわけじゃないぞ? ホ、ホントだよ?
まぁそれはさておき、これならまだ、お米券とかが入ってた方がアレじゃないのか?
「アレって何?」
「気にするな」
「気になるよ」
「あゆに聞け」
「
何でボクなの?」
うるさいぞ、あゆ。
そこは適当に、うぐぅがうぐぅで、うぐぅのうぐぅもうぐうぐうぐぅっ、とか言ってりゃ納得するよ。
「「しないよ」」
「ハモんな」
しっかし、香里め……何だったんだ? 結局。
意味もなく負けた気分だ。
「それこそ今さらだよ」
「祐一くん、香里さんに勝ったことあるの?」
「聞くな、あゆ」
世の中、知らない方がいいこともあるのさ。
「あゆちゃん、あると思う?」
「思うわけないよ」
「
だったら聞くなよ!」
チクショウ……うぐうぐあゆぅの分際で……あ、間違えた、あゆあゆうぐぅだったな……どっちでもいいけど。
「
どっちもよくないよっ!」
「ふふん、ささやかな逆襲というやつだよ」
「祐一って、時々すごく惨めだよね」
「……」
そう思うんならよ、もう少し俺の待遇を良くしてくれてもいいんじゃねーのか?
「このSSのタイトルから考えても、そんなことあり得ないよ」
「……侘しいなぁ」
あれだな、じゃあ俺の伝記書くんなら、タイトルは、『レ・ミゼラブル』で。
「世界的名作を汚しちゃダメだよ、祐一くん」
「そこまで言うか? あゆよ」
お前が俺に抱いているイメージについて、ある晴れた昼下がり、市場へ続く道で、売られてゆく子牛を眺めながら、小一時間問い詰めたいぞ。
「真ん中の部分は全く必要ないんじゃないかな……」
「祐一、もう末期なんだね……」
「
すでに病人かよっ?!」
しかも、末期ってなんだ? 末期ってよ……
「あ、新聞の3行広告!」
「はぁ?」
「とにかく見てみて」
名雪め……何だってんだ? 一体……
「えーと……」
3行広告は……これか? って、
オイッ!
『
M家の居候のY.A君へ
言葉通りよ。
K.Mより』
「
何なんだこれは?! 名雪ッ!」
「香里がね、祐一が家でボケたら見るようにって言ってたんだよ」
「
たかが1回のツッコミのためだけに、どんだけ手間暇かけてんだっ! アイツはっ!」
「なんかルーチンワークとかって言ってたよ」
「うわぁ、すごいんだね、香里さん」
「そこで感心してんなよ、あゆ……」
大体、新聞の3行広告だって、ただじゃないだろう……
「祐一に請求書まわすって言ってたけど」
「
何考えてんだ、アイツはっ!」
よりにもよって、俺の金かよっ?! 面白かったのは認めてやらんでもないがっ!
「じゃあいいじゃない」
「
よかないっ!」
くっそぅ……香里めっ! 覚えてろよ? 今日学校に来て、お前の居場所があると思うな……
イスも机も、焼却処分してやるっ!
「いっつも遅刻寸前の私達が、香里より先に登校できるわけがないよ」
「
遅刻はお前のせいだろがっ!」
達ってなんだ?! 達って!
さりげなく俺までセットにしてんじゃねーよっ!
「学校のイスとか机を粗末にしちゃダメだよ! 祐一くん!」
「マジレスすんな、あゆ……」
ちょっぴりおちゃっぴぃな一発ギャグじゃねーか。
いちいち白けさせんな。
俺にはギャグをかまさにゃならん義務があるんだよっ!
「大丈夫だよ。祐一は、存在自体がギャグだから」
「
お前なぁっ!」
俺を何だと思ってやがる?!
「そんなことより、時間はいいの?」
あゆの指摘。
正しいっちゃ正しいんだが、俺の存在意義とか存在価値はそんなことかよ……?
「「そんなことだよ」」
「そこでハモってんじゃねーよ」
もういい。
とりあえず、動き始めよう。
これ以上無駄話なんぞしてたら、ホントに遅刻してしまう。
あれだよ、そもそもいつの世も天才は世間に認められないものだしな。
「祐一、紙一重だもんね」
「
どういう意味だっ?!」
ちっくしょう……それならいっそはっきり言えよ! 俺がバカだってよ!
「いつも言ってるよ」
「そうだよ」
「お前ら……」
くそぅっ! 世間の風は冷たいなぁ……
何で、俺=バカ、なんて公式が成立してるんだよ。
おかしいだろ? どう考えても。
俺のどこがバカなんだよ……
俺は、俺は、バカなんかじゃないやいっ!
――ガチャ――
無様ね。
ドアを開けた俺を待っていたのはそんな言葉。
「
何じゃこりゃあっ?!」
何で、玄関開けたら2分でごは
「違うよ」……うぐぅ。
気を取り直して。
何で、玄関開けたら2分でごは
「くどいよ」……あぅー。
改めて。
何で、玄関開けてすぐのところに、香里のツッコミが待ち構えてるんだよッ?!
ご丁寧に郵便受けに、んな下らんもん書いた紙貼り付けやがって……
風にはためく
無様ねの一言が、エラい哀愁漂わせてるし。
微妙に泣けてきた……
「泣いてるヒマなんてないよ?」
「俺には涙を流すことさえ許されんのか?」
「血も涙もない祐一が何言ってるの?」
「
そりゃ言いすぎだろ?! いくらなんでもよ!」
「さすがに冗談だよ」
「え?」
「
え? って何だっ?! あゆーっ!」
くそぅっ! あゆ……お前が俺のことをどう考えてるのか、よ〜く分かったよ。
「良かったね、祐一」
「
何が?!」
そこは慰めるべきところだろう? 何が良かったんだよ、何が……
「バカなこと言ってないで、早く行かないと間に合わないよ」
「くそっ! そもそも誰のせいで遅刻寸前だと思ってんだ?」
「祐一」
「
お前だっ!」
お前の寝坊癖のせいだろうが!
なぜにお前は朝すんなり起きられないんだ?
大体よ、夜は9時には眠りについて、学校でも眠り続けて、骨っこ食べて、何が不満なんだよっ!
「私、犬じゃないよ〜」
「質問に答えろ」
「祐一くんが寒いボケを言うから質問にならないんだよ」
「さり気に俺のボケをこき下ろすな、あゆ」
そこで『寒い』っつーフレーズを入れる必然性がどこにあるんだよ?
弁護士呼ぶぞ?
「呼んでどうするの?」
「どうしよう?」
「祐一って、ホントに
バカだよね」
「
強調せんでいい!」
そのネタは前回やっただろうが……芸人失格だぞ、名雪。
「祐一と同一視されるよりもずっといいよ」
「どういう意味だ? おい」
っと、ホントはもっと追求したいところだが、いい加減時間がヤバい。
今日のところは引き分けにしておいてやるっ!
「典型的なやられ役のセリフだね」
「そうやって、祐一は心の安定をとってるんだね……」
「
その同情の視線は止めろっ!」
同情するなら金をくれっ!
「やっぱり家なき子だったんだね」
「うぐぅ……かわいそう」
「
お前らなぁっ!」
何度も言ってるだろ?! 俺は家がないわけじゃないんだよっ!
「でも、海外にしかないんでしょ?」
「祐一くん……元気出して」
「
だから同情してんじゃねぇっつってんだろ?!」
話が進まねーじゃねーかぁっ!
「何も泣かなくても……」
「泣いてねーよ」
って、もう時間がねぇっ!
どうすんだ? どうすんだ? おいっ!
「100mを15秒で走れば間に合うよ」
「微妙な数字だな」
ホントに微妙だ……学校までの距離を考えると、その速度を持続できるかどうかが勝負だな。
むぅ、どうだろうか? やってやれないことはないだろうが、少し難しい気がするな……
「そうやってムダ話してるうちにも時間は過ぎていくんだよね」
「行くぞっ! 名雪」
「名雪さん、もう行っちゃったよ」
「
名雪ーっ!」
くそぅっ! くそぅっ! お前には情けの欠片もねーのか?
何で俺を平気で置いていきやがるっ!
覚えてろよっ! 絶対に逆襲してやるからなぁっ!
結局遅刻した。
名雪はセーフだった。
笑顔で、『遅刻しちゃダメだよ』、とかほざきやがった。
ナメんな!
当然のごとく、アイアンクローをかましてやった後、席に着こうとすると、なぜか廊下に立たされた。
にしてもよ、石橋のヤツ……高校生を廊下に立たせるってどうよ?
「似合ってるわよ」
バケツ持たされて廊下に向かう俺に香里がかけてくれた一言が、めちゃめちゃ効いた。
それは、バケツが似合ってるって言いたいのか? 廊下が似合ってるって言いたいのか?
「言葉通りよ」
「意味分かんねーよ」
「相沢、早く行きなさい」
「はい……」
「無様ね」
ちっくしょう……!
覚えてろよ?! 香里!
いつか、いつか絶対に見返してやるからなぁっ!
「不可能よ」
「……」
どこまでもうぐぅだ。
大体遅刻したのは俺のせいじゃないのに……
結局、俺の主張は通らず、一時間目から四時間目まで、ぶっ通しで立たされた。
今日は土曜日だから、早い話が全授業時間を廊下で立ちつくすことで消化したことになる。
とにかく、俺はこのひどい仕打ちに耐え続けた。
主人の帰りをひたすら待ち続けた忠犬ハチ公のように、ただじっと。
「やめなさい、その暴言は悪質すぎるわ」
「一宿一飯の義理さえ感じない祐一に忠義? そこはひょっとして笑うところだったのかな?」
「そこまで言わなくてもいいだろ……」
ずっと立ちっぱで心身共に疲れ果ててる友人にかける言葉がそれかよ?
俺達の熱き友情はどこに行った?
「昨日は燃えないゴミの日だったから」
「再利用もできないし、燃やすこともできないし」
「
あんまりだっ!」
俺達の友情はゴミ扱いか?!
俺と香里と名雪の美坂チームは永遠じゃなかったのか?!
「
俺の存在がゴミ扱いかよっ?!」
「静かにしてろ、北川」
今はそれどころじゃないんだ。
……泣くな、うっとーしい。
「永遠なんてあるわけがないよ」
「
ONEに謝れッ!」
「ONEって何よ?」
「……何だろう?」
「気にしない方がいいよ、香里。いつものアレだから」
「あぁ、アレね」
「
アレって何だ?!」
勝手に略称作ってんじゃねぇっ!
作るなら作るで、まず俺の許可を得るってのが筋だろう?
「相沢君の許可?」
フンッ、て鼻で笑われた。
香里には優しさが足りん。
某風邪薬でさえ、50%は優しさだというのにっ!
「成分の50%がやましさの祐一よりはずっといいよ」
「
言い過ぎだろ? それは!」
アイアンクローをいつまで根に持つつもりだ?!
「足が痛いなぁ……」
「そっちもかい」
あれは起きないお前が悪いんだ。
「じゃあ、アイアンクローは?」
「愛の鞭だ」
ただし、俺には名雪への愛なんてないがな。
「じゃあ、ただの鞭じゃない」
「そうとも言う」
「う〜……」
……墓穴?
結局、イチゴサンデーを5杯奢らされた。
どさくさに紛れて、香里にも3行広告の料金を徴収された。
あゆの食い逃げの金も払わされた……
って、ちょっと待てぃっ!
……待ってくれませんでした。
財布は空っぽ……うぐぅ。
家に帰ったら、あゆに垂直落下式DDTをお見舞いして、食い逃げ料金も徴収することを心に誓った。
とりあえず1つ言いたい……
次があったら、絶対に誰かを振り回してやるッ!
起きないから奇跡?
ふざけんなっての。
不治の病さえ治す奇跡が起きたのに、何で俺が誰かを振り回すっつーささやかな願いも叶えられねーんだよ?
おかしいだろ? それは!
ってなことを、夕焼けに向かって祈ってみた。
――アホー、アホー――
カラスの声が、こんな風に聞こえるのは、名雪の言う通り、俺が末期だからか?
何か無性に泣けてきた。
俺、出家しようかな……と、少し本気で考えたくなった秋の午後。
後書き
ども、GaNです。
まずは、K9999さんっ! 100000HITおめでとうございますーっ!(ぱちぱち)
お祝いに、と送ることができて、ホッと一息。
さて、振り回されるの第3弾でっす。
正味、活きのいいネタがなかなかないですね。
面白くなかったらゴメンです。
舞を出さなかったのは、別に深い意味はないです。
浅い意味もないです。
あゆに目立ってほしかったんですが……押しの弱いキャラの宿命というか、ムリでした(爆)
とりあえず、もし次回があれば、また別のキャラを出してみたいなーって。
書けるかどうかもわかりませんけどね。
ではでは、また何かでお会いしましょう。