「あ! おかえりっ、こーへーっ!」
「ただいま、みずか。ちゃんとお留守番してたか?」
宿の浩平達の部屋に入った途端に、みずかが浩平に飛びついた。
そして、双方満面の笑顔で、ただいまとおかえりの言葉の後、浩平がみずかを抱き上げる。
「うんっ! みずか、ちゃんとお留守番してたよ♪」
「そうか。うん、みずかはいい子だもんな」
何というか、はにゃ〜ん、という感じに表情を崩したみずかと、優しい笑顔の浩平。
いきなり無限のほのぼの空間。
祐一達は、やはりびっくり、一瞬硬直。
瑞佳と留美は微笑み浮かべ、いつものことだと3人に言う。
「いや……まぁ、長森の妹かと思ってたんだが……あいつの妹だったのか?」
「ううん、違うよ」
「ま、ちょっと訳アリなのよ」
『わけあり』……そのフレーズを聞き、3人はそれで質問打ち切りに。
踏み込んでほしくない質問とわかってなお質問できるほど、彼らは不躾じゃない。
「ふーん、けど、ホント仲いいんだな」
「うんうん、あの人にもいいトコあるんだね♪」
「……可愛いです」
詩子の意見が少し気になるけれど、ギルドの光景を顧みれば、それも止むなし、しょうがなし。
茜の視線はみずかに釘付けで。
普通の意見は祐一だけ。
何はともあれほのぼの空間。
仕事の話はもうちょっと先か?
そんなこんなのお昼時。
のんびりお気楽夢紀行
6ページ目 魔物退治も楽じゃない
「さ〜て、とりあえず仕事の話をするか」
「もう結構時間経ってるけどな」
「そうだね〜♪」
「そうですね」
浩平の一言に、さり気にツッコむ祐一達。
黙って見ていた自分達もどうかとは思うけれど。
「まぁ、それは置いといて……」
「うん。えっと、とりあえず今回の仕事は、この街の南西5キロ地点にある、タイガーアントの巣の完全殲滅が目的だよ」
司会進行は、どうやら瑞佳のお役のようで。
ギルドでもらってきた資料をテーブルに広げる。
「タイガーアントって、別に特殊攻撃とかはなかったよな」
「えぇ、そうね。注意すべきは強力な顎、それから大きな体を利用した体当たりってとこ」
「体長は1m程度だったと記憶していますが」
「うん、そのくらいだよ。兵隊アリはね」
「何か引っかかる言い方だね」
「女王だけは別格ってことよ」
5人だけの会議……浩平とみずかは何やら楽しげに遊んでいる。
まぁ、みずかを放っとくわけにもいかないし、そう考えると、別に怒るほどの事でもない。
「女王……か?」
「そうだよ。私達の最初の目標は、この女王の撃退」
「そうですね……女王を撃退すれば、少なくともそれ以上増えることもないですし」
「えぇ。その後で、他のやつらを潰して巣を燃やしてしまえば、任務完了ね」
「う〜ん、じゃあ、まずは女王を探すとこから始めなきゃなんないんだね」
6人で巣に侵入。
それから巣の中を探索し、女王を見つけ、これを撃破。
そうすれば、後はただの烏合の衆……1匹ずつ潰していけばいい。
で、最後の仕上げに巣を燃やせ、と。
大雑把だが、計画の大筋はこれでオーケー。
「で、侵入してからはどうするんだ?」
「うーん……二手に分かれた方がいいかな」
「そうですね、分けすぎると戦力に不安がありますし、固まっているのも非効率的ですから」
「それじゃあ、私達とあなた達で別れるってことで」
「それでいいよ……でも、連絡とかどーすんの?」
女王の発見の連絡は、やはり取っておくべきだろう。
そう思っての詩子の発言だったが、瑞佳が、私に任せて、とばかりに胸を張る。
「大丈夫だよ、連絡とることができる道具があるから」
「そういう魔術グッズがあるの。詳しいことは、また明日説明するわ」
「……わかりました」
「……負けた……」
少し落ち込んでるっぽい詩子。
何がどの程度負けたのか……それはあくまでも謎だったりする。
「そんじゃ、明日の正午にここを出るってことで」
「わかったわ」
「了解だよ」
「寝坊するなよ?」
「祐一お兄ちゃん、茜お姉ちゃん、詩子お姉ちゃん、またね〜♪」
とりあえず、浩平の発言の後、留美のツッコミが入ったことだけは明記しておこう。
それを無視して、笑顔でみずかに手を振りながら部屋を出る3人。
とりあえず、明日の朝までお別れです。
「じゃ、俺達の部屋もとらないとな」
「あ、忘れてたね」
「大丈夫です、もう予約しておきましたから」
忘れっぽい2人と違って、茜がそんなヘマをするわけない。
少し自慢げな茜と、おぉー、と拍手する2人。
やんややんや。
宿の廊下ですることかどうかは、この際いちいち気にしない。
3人並んでフロントへ。
そして、そのまま手続き完了。
「さてと、んじゃ買出しに行くか」
「うん、朝のだけじゃ不十分だからね」
「はい」
3人仲良く宿を出て、向かった先は商店街。
店を回って、必要な物を必要なだけ購入。
もちろん選ぶは我らが茜。
品質値段に気を使い、絶妙なバランスのとれた一品を選び抜く。
主婦も顔負け、その目利き。
財布の紐は、そう簡単に緩めるわけにはいきません。
「あ、そういやさ、今朝詩子と街回ってた時に、ケーキ屋が……」
「行きましょう!」
「あったんだけどー……」
「さっすが茜、反応早いね」
祐一に皆まで言わせることなく、2人の腕をがっしり掴んで、いつになく強引な茜。
そのまま2人を引っ張るように、ずんずんと歩き出す。
それも当然、理由は簡単。
茜は甘いモノが大好きなのだ。
一日三食、全部甘味モノでも大丈夫というくらい。
けれどけれど、保存の効かない甘味モノ。
旅のお供に持つこともできず、街に立ち寄った時のみ食べられるのだ。
甘いモノ好きな彼女にとって、そういう意味では旅路は大敵。
それでも旅を続ける理由……もちろん目的があるのも確かだが、諸国漫遊食べ歩き的要素があることも無視できない、と2人は主張。
もちろん茜も否定はしない。
地方限定のモノもあるし、何より様々な店を探して回りたいのだ。
懐に忍ばせている茜メモには、美味しかった甘味処が記されているとか。
「どこですか? どこなんですか? 急がないとなくなってしまうかも……」
「っていうか、俺達引っ張ってかれてるってどうよ?」
「甘いモノが絡んだら、ホントに茜は人が変わるね」
引き摺る茜と引き摺られる祐一&詩子。
傍から見れば怪しさ満点だが、別段3人は気にしない。
ケーキ屋求めてあちこちへ。
結果見つけたケーキ屋で、全メニュー制覇した、ということは、示しておこう。
「はぁ……満足です」
「……そりゃ、それだけ食えばな……」
「やっぱり、いつ見てもすごいよねー……」
茜の前には皿の山。
や、それは言い過ぎかもしれないが、とにもかくにも完全制覇。
ふと取り出した茜メモ。
ケーキ1つが銀貨3枚。
安くはないが、味を思えば高くはない。
どれが美味しいだの、どれが限定だの……色々書かれているそのノートに、新たな1ページが刻まれた。
旅が終わればレポート書けば?
詩子がいつか言ったことだ。
茜の答えは単純明快……自分のためのノートですから。
人に教えるつもりはないと。
「ま、いいけど。んじゃ、宿に戻るか?」
「そだね、もう日も暮れそうだし」
「はい……仕事が終わったら、また来ましょう」
「「えぇ〜」」
「……何でそんなイヤそうな顔するんですか……」
あれだけ食べてまだ満足しないのか? いや、さっき満足したと言ったはず。
超甘党の茜にとって、ケーキ屋があるとわかっていながら素通りはできないということか。
少し口を尖らせる茜と、苦笑しながら説得する祐一&詩子。
宿に着くまで続いた会話。
街の人にはどう映っただろう?
何はともあれ、結果は引き分け。
店には行くけど、次回はケーキ2個だけ、ということで決着と相成りました。
「それじゃ、部屋に戻って準備するか」
「りょ〜かい」
「そうですね」
そして、3人の部屋まで上がっていく。
3人部屋だから、割かし広くて快適で。
とりあえずリラックスできるところがポイント高い。
評価は結構高めになって、街を出るまでここにしよう、と。
滞在中の宿も完全決定。
そんなこんなの夕暮れ時。
夕食までに準備も終わり、早めに眠りについたとさ。
「それじゃ、みずか。いい子でお留守番してろよ?」
「うん。みんな、気をつけてね」
宿でお留守番のみずかに対し、浩平が優しく語りかける。
ホントに仲の良いことで。
敢えてノーコメントの祐一達。
浩平と並んで、みずかと話す瑞佳と留美。
手を振るみずかにしばしの別れを告げて、6人が宿を出る。
目指すはタイガーアントの巣。
「にしてもさ、1人にしてもいいのか?」
街を出てほどなく、祐一の問いかけ。
比較的平穏な街とは言え、小さい子を1人きりというのは、果たしてどうか?
「大丈夫よ、宿の人にしっかりと頼んどいたし」
「うん、時々見てあげてねって、女将さんにお願いしたから」
瑞佳と留美の答えは、はっきりしたものだった。
しかし、心配したのはそれだけではない。
万が一……考えるつもりはなくても、それでも、可能性は0ではないのだから。
「それに、一応知り合いの先輩にもお願いしてる。何かあったらよろしくってな」
それを読み取ったのか、浩平が相も変わらず軽い調子で言う。
発言の内容を考えると、少し不適切な気がしないでもなかったが、まぁ自分達の力に自信を持っているのだろう。
過信ではなく、自信……過酷な旅路を潜り抜けるための力ともなるもの。
経験豊富の言葉に偽りはなさそうだ。
「そういやさ、連絡手段って結局何なんだ?」
「そーいえば、そんなこと言ってたね。何なの?」
祐一と詩子がふと気付く。
確かに瑞佳が言っていた。
「あ、そうそう。はい、これ」
「? 何ですか? これは……」
瑞佳が笑顔で渡してくれた、黒っぽい箱状の物を見て、首を傾げる茜。
大きさは手の平サイズ、重量も結構軽い。
「えっとね、これはコネクターって言って、対になった2つのコネクター同士で連絡を取り合うことができるんだ」
「つまり、1つをあなた方が持ち、もう1つを私達が持つことで、連絡が取れるということですか?」
「そういうことだよ。あ、あと、使うには魔力が必要だから、あんまり頻繁には使わないでね」
「はぁ〜、すごいもんだな……でも、こんな魔術グッズなんて見たことないぞ?」
「それは当然よ。これ、私達の知り合いの人が作ったオリジナルのものなんだから」
「って! 魔術グッズを作れるのか?!」
「すごーい……」
留美の言葉に呆気に取られる祐一達。
並みの魔術士では、魔術グッズを作ることなんてできない。
いやはや、とんでもない知り合いがいるもんだ。
「ふっふっふ……どうだ? すごいだろう?」
無意味に胸を張る浩平。
だが。
「浩平が偉そうにする理由なんてないんだよ」
「あんた何もやってないじゃない」
彼の仲間はやはり容赦なく。
ちょっといじけてしまった姿は、少しだけ同情したくなる。
でも、あくまでも少しだけ。
すぐに浩平から目を逸らし、コネクターについての説明を聞く祐一達。
チームワークが良いのか悪いのか……それは誰にも分からない。
「あれがタイガーアントの巣か……」
「やはり大きいですね」
「うわ〜……大変そうだね」
緊張の面持ちの3人。
まぁそれも無理はない。
切り立った丘から見下ろしたその先にそびえる巣は、さながらダンジョンのように。
数百とも言われる数が生息している巣のために、その広さは、小さな村にも匹敵するほどだ。
広さもさることながら、上下にも何階層かあるようで、これを探索するのは骨が折れるだろう。
「じゃ、行きましょうか」
「私も頑張るもん!」
「おーっし!」
気合を入れる浩平達。
それも当然……大変だからといってヘコんでいたところで、何も解決しないのだ。
できることから確実に。
1歩1歩踏みしめて。
たとえ歩みは遅くとも。
少しずつ進んでいけば、きっとゴールは見えるはず。
地道が近道。
常に気持ちは前向きに。
「……だな」
「はい」
「うん、頑張ろう♪」
3人の士気が祐一達にも伝播したのだろうか……笑顔で気合を入れる。
そして、6人は頷き合って最後の確認。
そこで浩平が徐に剣を鞘から抜き放つ。
「うっし! みんな下がってろ」
「? 何をするんだ?」
浩平の言葉に疑問の言葉をかける祐一。
「景気付けと露払い」
浩平の言葉は単純だった。
何となく想像がつくような、今イチよくわからないような。
とりあえず、5人は後ろに下がる。
「これが挨拶代わりだーっ!」
浩平の叫びと共に剣が魔力を帯び、高められたその魔力が、剣を振り払うと同時に、巣の入り口にいた数匹のタイガーアント目掛けて襲い掛かる。
――ドオオォォン――
大音響と共に、入り口付近が吹っ飛ばされる。
おそらくそこにいたタイガーアントは、塵も残っていまい。
「魔剣士だったのか……」
「すんごいね」
「驚きです」
魔剣士とは、魔術も使える剣士のこと。
剣に魔力を宿すことで、今のように、遠距離攻撃や属性攻撃などが可能になるため、相当強い。
けれど、当然誰でもなれるわけはなく、その数は少ない。
「呆けてる場合じゃねーぞ?」
「今がチャンスだよ」
「さ、乗り込むわよ!」
浩平達の言葉に、はっと我に返る祐一達。
そして、6人で丘を駆け下り、巣へと突入開始。
さてさて、戦闘開始の時が来た。
女王を探して撃破して。
楽ではないけど、やるしかない。
頑張れ頑張れ6人とも。
未来は君らのためにある。
後書き
牛乳パワーはバカにできません(え?)
や、別に深い意味はありませんけどね。
ども、GaNです。
さてさて、とりあえず次回は魔物の巣攻防戦ですね。
当面は祐一サイドを中心にお送りする予定です。
戦闘シーン書くのが大変そうなんですけどねー……
こう、臨場感溢れる戦闘シーンが書きたいんですが、どうにもこうにも難しくって。
要努力ってとこです。
これも練習ってことで頑張りますので、生暖か〜い目で見守ってやってくださいね。
や、ぶっちゃけ言ってしまえば、浩平くんチームはめっちゃ強いです。
祐一くん達は足元止まりですかね。
まぁ、これから成長していってほしいという親心です(え?)
まぁ、次回も頑張って書きますので、どぞよろしくです。
それでは。