「おー」

「やっとだね〜」


感涙にむせぶ祐一&詩子。

瞳を閉じれば、これまでの辛く苦しい日々が、走馬灯のように駆け巡る。

そんな長い苦難の日々も、3人だから乗り越えられた……がっしりと2人は手を握る。

良かった良かった……目尻には微かに涙が。

あぁ……翼よ、あれが街の灯だ。


「……ただ、街に辿りついただけなんですけどね」


呆れた声で、2人の演ずる感動ドラマに横槍を入れる茜。

そりゃあそうだろう。

ただ街道を道なりに歩いてきただけなんだから。

まぁ、魔物との遭遇はあったとはいえ、そこまで感激するほどのことなどあっただろうか? いや、ない(反語)


「ノリが悪いよ、茜」

「全くだ。ここは涙の1つでも浮かべて、喜びを3人で分かち合おうとしないと」

「嫌です」


不満げな2人の言葉を一刀両断。

街に到着するたびに感動なんてしていられない。

この世界にどれほどの街があると思っているのか?

大体、街の入り口で繰り返される即興のドラマは、今に始まったことではない。

今日も今日とて、ため息1つ。


「「さ〜、とりあえず、宿を探そ〜う」」

「……そうですね」


そして、3人は街の喧騒の中へと足を進めた。

元気一杯の祐一&詩子のすぐ後を、軽いため息と共に茜が続く。

飽きもせず懲りもせず。

街道だろうと街中だろうと、彼らは何も変わらない。

すなわち、いつも通り。















のんびりお気楽夢紀行


4ページ目  迷子の迷子の子猫ちゃん















祐一達が辿りついた街の名は、アジーナ。

この大陸において、特に大きいわけでもないが、小さいわけでもない、まぁ中程度の街である。

街の近くに存在する鉱山から取れる鉱石が、主要な収入源となっている。

また、温暖な気候も相まって、農作物の生産も盛んであり、良い意味で活気の溢れる街である。





「さ〜て、と……宿もたくさんあるみたいだけどさ、どこにするんだ?」

「私、面白いとこがいいな〜」

「宿に笑いを求めないで下さい」


人でごった返す街並みを眺めながら、3人並んで宿探し。

とにかく人々のエネルギーに満ち溢れている。



道行く人々の楽しそうな笑い声。

店先から響く店主の威勢のいい声。

子供たちの元気に溢れた大声。



喧騒とも表現できるような音が、耳に心地よく響く。

やはり活気のある街はいい。

3人の表情も、楽しそうな嬉しそうな、そんな感じで。


「何かな〜、こう、決め手がドーンとあるとこがいいな」

「うんうん。こう、バーンとね」

「意味が分かりません」


ともかく、さしあたっての目的は、今日の宿。

大通りを歩くだけでも、何軒もの宿が見つかる。

それ故に迷う。

怪しい言葉使いは気になるが、祐一の言葉は的を射ている。

どうにもこうにも決め手がない。

どれも可もなく不可もなく。

どうにも、これだっ、と思えるところはなかった。


「裏通りとかも見てみるか?」

「そだね〜」

「そうですね」


見栄えはしないかもしれないが、何はともあれ全て見て回りたい。

その上でどこにするかを決めるのがいいだろう。

なに、時間はたっぷりとあるのだから。

慌てず急がずマイペース。

これが3人の生き方だ。















「ぐすっ……ぐすっ……」

「ん?」

「むむむっ?!」

「泣き声……ですね」


宿を探してあちらこちらと。

探して歩いているうちに、何やら子供の泣き声が。

これを無視できるはずがあろうか? いや、ない(反語)


「こっちからだな」

「うん」

「行ってみましょう」


結構子供好きな3人は、当然のように泣き声の方へ。

歩く足は少し早足。

走っていくと怯えさせてしまうし、歩いていくのも忍びない。





「ぐすっ……うっ……うっ……」


ほどなくしてついた道端で、小さな女の子が泣いていた。

白のワンピースに長い鳶色の髪が映える、そんな可愛らしい少女。

年の頃は7,8歳といったところか?

両手を目に当てて泣いている姿に、3人の保護欲はかきたてられてしまう。


「……どうしたんですか?」


泣いている女の子が相手とあれば、祐一はひとまず後退。

詩子もしばらく見守る様子。

まずは泣き止んでもらうこと、そして落ち着いてもらうこと。

普段から騒がしい2人の出番はまだまだ先だ。



そんなこんなで茜の出番。

女の子の傍にしゃがみこんで、目の高さを同じにする。

ゆっくりと柔らかい声音で、微笑みながら静かに語りかける。


「……みんな、いないの……」


真っ赤な目をこちらに向けながら、嗚咽交じりにそう呟く少女。

涙に濡れていても、可愛らしい顔立ちをしていることがわかる……きっと笑顔なら、もっと可愛いはずだ。

茜も内心、『可愛いです……』、などと考えてたりするが、まずはとにかく事情の把握。


「お母さんとはぐれてしまったんですか?」


その茜の問いに、ふるふると首を振る少女。


「ではお父さんと?」


またまた首を振る。


「では、お兄さんかお姉さんですか?」


コクリ、と頷く少女。


「なるほど……ここではぐれてしまったんですね?」

「……うん」

「わかりました。私達が一緒に探してあげます」

「ホント?」

「はい」


まだ不安げな少女に、優しく微笑む茜。

その威力は絶大だ。

少女の顔に、希望の色が広がる。


「この街にいることは間違いないでしょう……一緒に探せば、きっと見つかりますよ」

「ありがとう……」


茜の渡したハンカチで、ぐしぐしと涙を拭い、茜に笑顔を見せる少女。

まだ少し涙は残っているが、笑顔になったらもう安心。


「自己紹介がまだでしたね……私は里村茜です」

「あ、あ、私は、柚木詩子。詩子さんって呼んでね♪」

「俺は相沢祐一だ。祐一って呼んでくれればいい」


それを見て、祐一詩子も名乗りを上げる。

始まりにはまず自己紹介。


「茜お姉ちゃんと詩子お姉ちゃんと祐一お兄ちゃん……えと、はじめまして」


ペコリ、と頭を下げる少女。

とにかく1つ1つの仕草が可愛らしい。

茜も詩子も、その可愛らしさに目を奪われている。

状況が違えば、そのまま抱きしめてしまっていたかもしれない。

そして、そんな2人の気持ちも知らず、顔を上げた少女は、何とか笑顔で自己紹介。


「わたしの名前は、みずか、だよ」















「多分向こうも探してるだろうし、探し方も考えないとな」

「そうだねー。とりあえず、みずかちゃん頼みだし」

「……祐一、みずかちゃんに肩車してあげてください」


とりあえず今後の方針を決めるお話。

茜の提案に、ちょっと驚く祐一&詩子。


「何で?」

「向こうも見つけやすいでしょうし、みずかちゃんも探しやすいでしょう?」

「な〜るほど。茜冴えてる〜♪」

「なるほど。んじゃ……」


方針決定。

善は急げとみずかを肩車。

少しびっくりのみずかだが、別に文句も何もない。

それどころか、少し嬉しそうな感じ。


「じゃ、はぐれたあたりを中心に、色々歩き回ってみるか」

「それがいいね」

「では、みずかちゃん……見つけたら言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


そう言うと、早速周りをキョロキョロ見回す。

祐一はゆっくり歩き、茜と詩子はみずかから聞いた情報を回りの人達に聞いてみる。

てふてふてふてふ。

歩いて歩いて、見て聞いて。

そんなこんなで時間も過ぎる。










「う〜ん、行き違いって感じだね」

「立ち止まってた方がいいのか?」

「どうでしょう?」


聞き込みしてると、当然と言おうか、向こうもみずかを探しているようで。

そんな話を耳にした。

だからなのか、歩けど歩けど遭遇しない。

広い街が、こんな時は恨めしく思える。


「う〜む……」

「3手に別れる?」

「別れても連絡手段もないですよ?」


立ち止まって、う〜ん、と頭を悩ませる3人。

キョロキョロ見回すみずか。

立ち止まっているこの4人は、何だかんだで目立っていた。




















「いたーっ!」




















と、突然の大声。

声の質から考えると、どうやら女の子のようだ。

街中で大声を上げるなんてはしたないけど、理由が理由。

乙女であろうとなかろうと、迷子が見つかりゃ大声も出ます。

そんなわけで。


「な、なんだ?」

「びっくりした〜……」

「あれは……?」

「あ、留美お姉ちゃん」


みずかの嬉しそうな声。

祐一達が視線を声の方に向けると、青色の髪をツインテールにしている剣士らしき女の子が、こちらに向かって走ってくるのが見える。


「あれが探し人か?」

「うん、そうだよ」

「そっか〜、良かったね、みずかちゃん」

「良かったですね」

「うんっ!」


満面の笑顔を見せるみずか。

そうこうしているうちに、件の彼女のご到着。


「みずかっ、良かった……」


はぁはぁ、と、少し呼吸を乱してはいるが、それよりも嬉しそうな微笑みが目に留まる。


「えっと……留美お姉ちゃん、ごめんなさい……」

「謝らなくていいの。あなたは何も悪くないんだから」

「……うん」

「大丈夫よ。そもそもの元凶は地に沈めといたから」


何やら物騒なフレーズ。

と、そこで祐一達の方を向く。


「あ、自己紹介が遅れたわね。私は七瀬留美。みずかを保護してくれてありがとう」

「あぁ。大したことじゃないから気にするな。で、俺は相沢祐一だ」

「はじめまして、私は里村茜です」

「私は柚木詩子だよ」


留美の自己紹介に、3人もまた自己紹介で返す。

祐一の肩車から降りたみずかは、とてとてと留美の傍まで歩いていく。


「今日はありがとう、祐一お兄ちゃん、茜お姉ちゃん、詩子お姉ちゃん」

「「「どう致しまして」」」


珍しく3人がハモる。

それを見て、留美がクスリと笑う。


「じゃ、今日はホントにありがとう。また会えたら何かお礼をするわね」

「別にいいって。でも、ま、旅してたら会うこともあるかもしれないし、また会えたらいいなってことで」

「そうそう。またね」

「はい。2人ともお元気で」


別れる時もやっぱり笑顔。

ニコニコしながら手を振るみずかの姿に、3人も笑顔で手を振り返す。

それから2人の姿が見えなくなるまで、3人は手を振っていた。















大分時間がかかったためか、すでに日は暮れようとしていた。

3人の横顔も、少し朱に染まり始めている。


「じゃ、宿探し再開だな」

「あ、忘れてたね」

「どうしましょうか?」


そこで再び頭を悩ませる3人。

けれど。


「悩んでたってしゃーないか」

「うんうん。とりあえず、今日は適当なとこでいいんじゃない?」

「そうですね。どのみち仕事が見つかるかどうかもわからないのでは、長期間宿泊するところを探す必要はありませんし」





そんなこんなで方針決定。

まずは明日。

明日は仕事を探してみよう。

見つかったなら宿探し。

見つからなければ旅立ちゃいい。

そのくらいの自由はあるんだから。

できればお金はほしいけど、見つからなければしょうがない。

その時はその時。

次の街で探せばいい。



さてさて明日はどうなるか?

それは誰にもわからない。





「あ〜……腹へってきた〜」

「私も〜……」

「我慢です」


早くも弱音を吐く2人。

相も変わらず一言で切り捨てる茜。

歩く速度もゆっくりだけど、まぁそれでもいいだろう。

長く伸びる3人の影は、やっぱりどこか仲良さげで。

まずは宿。

そんで食事。

いつも通りの3人が、街の雑踏に消えていった。


















後書き



どもども、GaNです。

“みずか”登場です。

瑞佳ではありません。

瑞佳の出番はもちっと先です。

ここでみずかが出る理由……ずっと前からBBSを見てた方なら、理解してもらえるかも……

パーティメンバーはそういうことです。

わからない方は、しばらくお待ちを……って、バレバレかもしんない(笑)



乙女志望のななぴも登場。

でも剣士。

や、魔術士ってわけにはいきませんしね、やっぱり。

これから、どこでどう出てくるのか、とかは、作者の自分にもよくわかりません(爆)

いくつか考えてるんですが……ほとんど未知数で。

もう、行き当たりばったりって感じがどうにも拭いきれません。

気長に、生暖かい視線で見守っていただければ、とか希望的観測を。

それでは、また次回にお会いしましょう。





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