――チュンチュン――



時刻は早朝。

鳥の声が空高く響いている。


「ふわぁ〜……」


と、街道沿いに並んだ2つのテントの片方から、祐一があくびしながら這い出てくる。

ちょこんと寝癖が立ってるが、それもまぁしょうがないところ。

目をこすりながら、伸びを1つ。


「ふぅ……」


目に飛び込んでくる朝日が、少しずつ祐一を覚醒へと導いてくれる。

天気は快晴。

風は南向き。

何とも気持ちのいい朝だ。


「詩子〜、起きてるか〜」


徐にもう一方のテントに声をかける祐一。


「まだ起きてくれないよ〜」


返事が1つ。

返事があるのに起きてないとは、これいかに?


「腹減ったんだよ〜」

「わたしだって〜」


脱力するよな弱っちい声。

どうやら食事をご所望で。


「何とか急いでくれよ〜……」

「りょ〜かい。あっかね〜、あっさだよ〜、あさごはんたべたいよ〜」


まぁ、こういうこと。

食事を作ってくれる人がいなかったわけだ。

料理を作れるのは茜だけ。

朝食食べたいそんな時、茜がいなくちゃ始まらない。

そんなこんなの悪戦苦闘。

これもまた、いつものことだった。




















のんびりお気楽夢紀行


3ページ目  街はまだか?




















「「め〜し♪ め〜し♪」」

「……」


ふぅ……とため息。

朝っぱらから何ともご苦労様である。

茜の一日は、いつもため息で始まってる気がする。

それでも動かす手は止まらない。

自分だってお腹が空いているのだから。


「「は〜やく♪ は〜やく♪」」

「……はいはい」


おざなりな返事。

けどまぁ、それで空気が変わるわけもなく。

楽しそうにハモってる祐一&詩子は、やっぱり楽しそうで。

ため息ついてる茜にしても、まぁいつも通りで。










そんなこんなで、少しずつ朝食の準備が整いつつある時に。

近くの茂みでガサゴソと物音が。

途端に厳しい目を向ける祐一&詩子。

それも当然だ。

けれど、魔物がどうとか、盗賊がこうとか。

んなこたどーだっていい。

いや、よくはないけど……でも、それは二の次三の次。

何より一番許せないこと……それは……


『キシャァーッ』

「「食事の邪魔をすんじゃなーいっ!」」


茂みから飛び出したのはサーベルタイガー。

とりあえず、その鋭い爪と牙が脅威の、割かし手強い魔物のはず。

それなのに。

叫んだ瞬間、剣で一閃、炎が炸裂。

哀れサーベルタイガーは、あっという間に冥府行き。


「……はぁ」


茜のため息再び。

それは間の悪い時に襲い掛かってきたサーベルタイガーに向けたものなのか?

はたまた食事にそこまでの情熱を傾けられる2人の仲間に向けたものなのか?

答えは茜の心の中に。


「「め〜し♪ め〜し♪」」


再び始まる食事コール。

そんな2人の高めの声が、朝の澄んだ空へと消えていった。










「「ごちそーさまでした」」

「はい」


笑顔の3人。

美味しい料理に大満足の2人と、そう思ってもらえて大満足の1人。


「え〜っと……」


祐一が、自分の寝ていたテントの傍にしゃがみこんで、何やらゴソゴソと。



――ボンッ――



と、テントがあっという間に小さな箱に収まってしまった。


「う〜ん、やっぱり便利だな〜、圧縮テント」

「ホントホント。値段が張るだけはあるよね♪」


隣で同じく小さな箱に戻した詩子と雑談する祐一。



圧縮テント。

物質を圧縮する魔術を応用し、魔術を使えない人でも利用できるように作製された圧縮グッズの1つ。

旅のお供に欠かせません。

お値段が高めなのがちょいと難点だけど、でも、持ち運びが楽ちん、というのはポイントが高い。

長旅をする者は、最低ランクであろうとも、1つは買っておくべきものだ。

祐一が使っているのは、1人用のランクの低いテント。

茜と詩子が使っているのは、2人用の、でもそれを抜きにしても少しお値段高めの代物。

レディーファーストとも言えるし、3人の力関係の賜物とも言える。



「さ〜て、そろそろ行こっか♪」

「りょ〜かい」

「そうですね」


食後の休憩もほどほどに。

目的地までは、まだもうちょっとかかる。

少しでも早く、ちょっとでも近くへ。

千里の道も一歩から。


「明日には街に着けるんだっけ?」

「はい。順調にいけば、ですが」

「その街はどうするの? 素通り? 滞在?」


街から街へ。

商売ではなく、極めて個人的な理由で旅を続ける3人だから、1つの街に留まることはあまりない。

それでも、例えば路銀が乏しい時や、旅に厳しいシーズンならば、滞在する事だってあるのだ。


「そうですね……」


そう言って財布を覗き込む茜。

その額は、決して少なくないけれど、さりとて多いわけでもない。


「2,3日滞在して、仕事を探してみましょうか」

「見つかったらいいけど、見つからなかったらどーすんだ?」

「その時は見限ります」

「うん、わかった」

「りょーかい」


旅の計画は、基本的には茜任せだったりする。

財布の管理に、計画立案、お料理担当、戦闘要員……何とも多彩なこと。

まぁ、そんな茜がいるからこそ、この3人が旅を続けられるとも言える。

けれど、茜はそのことを重荷にも苦痛にも感じていないらしい。

祐一も詩子も、感謝はしても、申し訳なく思ったりはしない。

旅の仲間に遠慮は不要。

自分のできることをちゃんと見極め、自分の仕事を完全にこなす。

コレが一番大事。

今日も今日とて3人は、仲良く笑って道を行く。















「「たっ、助けてくれぇっ!」」


しばらくのんびり歩いていると、前方より、慌てふためきながら走ってくる2人組みの男達。

見れば、その2人の後ろから、サーベルタイガーが3体迫っているのが見える。


「千客万来だね」

「だな」

「違います」


言葉の使い所が間違っていても気にしない2人と気にする1人。

とりあえず、落ち着いていることは間違いなさそうだ。


「とりあえず片付けるか」

「だね」

「2人でいけますよね?」

「「もちろん♪」」


茜は一休み。

立ち止まって2人にお任せの様子。



2人組みの男は、祐一達に見向きもせずに逃げていく。

どうやら自分達に押し付ける算段のようだ。


「……」


何やら詠唱する茜。

その表情は、少しご機嫌斜めの感じ。

何も言わずに逃げていく礼儀知らずに怒っているらしい。


「詩子! 援護よろしく!」

「まっかせなさい!」


2人組みは茜にお任せ。

詩子が適当な距離で立ち止まり、祐一は勢いそのままに3体のサーベルタイガーに向かう。





「だぁぁっ!」


それに驚いたのはサーベルタイガー。

それもそのはず。

自分達が狩る側なのに、いきなり向かってこられたのだから。

そして、そこにできた一瞬の隙を見逃すほど、祐一は愚かではない。

大声を上げたのも、その隙を作り出すため。



――バッ……――



程よい間合いで空高く跳躍。

そして、落下の勢いをのせた一撃を、向かって右側のサーベルタイガーに叩きつけた。



――ズドンッ!――



一瞬の硬直をつかれては、回避も防御もできない。

見事に真っ二つ。


「はぁっ!」


そこでサーベルタイガーも硬直が解け、祐一に飛び掛る

が、祐一もそこで止まってなんかいるはずもない。

掛け声一閃、いささか大振り気味の一振りで、2体を牽制。

しかし、俊敏な魔物の前で大振りするなど、自殺行為でしかない。

事実、その大振りを見切った2体は、自身の攻撃のタイミングをずらし、攻撃直後の隙だらけな祐一を、左右に別れ、一斉に狙う。



――ゴオォッ!――



だが、それこそが2人の狙い。

祐一の派手な攻撃で注意を集め、生じた隙を、詩子が魔術で突く。

極めて単純で、それ故に魔物には非常に有効な戦法。

今回も、祐一の左側に回ったヤツが、その餌食になる。

腹部に命中した炎が、魔物のその身を燃やす。


『グギャアァァッ!』


苦悶の声を上げて地に落ちるサーベルタイガー。

詩子の魔術では、一撃必殺とはいかない。

けれど、無抵抗で腹部を焼かれては、行動不能は間違いない。

となれば、あとでゆっくり止めを刺せばいいだけ。


「らぁっ!」



――ガイィィン……――



ギシギシ……と、ぶつかり合った大剣と牙が互いに押し合う。

詩子が左を狙っていることはアイコンタクトでわかっていた。

だからこそ、右の相手のみに集中でき、どうにかこうにか攻撃を止められた。

いくら大振りの直後でも、その後のことまで考えていたので、何とか間に合ったのだ、とも言えるが。


『ガァッ!』

「させるかっ!」


硬直状態を打破すべく、爪を振るおうとしているのを見て取った祐一は、牙と絡み合う大剣を横に振り払う。

そして、その振り払いざまに、剣に意識を集中させていたサーベルタイガーの横っ腹に、思いっきり蹴りをぶち込む。


『グゥッ……!』


そして、その勢いを利用し、大きくバックステップ。

サーベルタイガーと少し距離をとる。

次いで呼吸1つ後、再び剣を構え直す。


『ガァッ!』


忌々しげに思っているらしい怒りの咆哮と共に、サーベルタイガーも改めて祐一の方を向く。

そして、祐一目掛けて体当たり気味に飛び掛ってくる。

その爪も、牙も、当たればただでは済まない。


「ふっ……!」


それを見て取った祐一は、距離を見極め、その場で一回転。

タイミングを誤れば、背中に齧り付かれるところだが、それを見誤るようなヘマはしない。

そして、たっぷりと遠心力をのせた大剣の一撃が、後一歩で祐一を喰らえたはずのサーベルタイガーに叩き込まれる。



――ドガァッ!――



『ギャンッ……』

「詩子っ!」


その一撃に吹っ飛ばされるサーベルタイガーと、勢いがつきすぎたため、その場でたたらを踏む祐一。

どちらも攻撃手段など最早なかったのだが、祐一にはなお仲間がいて、サーベルタイガーにはもういなかった。



――ドォッ!――



その刹那後、炎の矢がサーベルタイガーに突き刺さる。

瞬間燃え上がり、あっという間に炎がその身を呑み込んだ。

イメージ時間を長くとっていただけに、先程よりもその威力は強力。

さすがにコレを喰らっては絶命せざるを得なかった。


「っし!」


一呼吸して体勢を整えた祐一が、最初に炎をくらって未だに悶えていたサーベルタイガーに止めを刺す。

これで3体完全撃破。


「ナイス、詩子」

「祐一もね♪」


そして2人歩み寄って、パン――とハイタッチ。

互いの健闘を称えるのに、言葉なんていらない。

相手の笑顔で十分だ。

ニッコリと笑い合って、茜の方へと2人並んで歩き出す。















「終わったぞ〜、あっかね〜」

「終わったよ〜、あっかね〜」

「ご苦労様です」


見れば、道端の石に腰を下ろして、水を飲んでいる茜。

2人を見て、笑顔で労いの言葉をかけ、水を手渡す。


「サンキュ」

「ありがと♪」


その水を一気に飲み干す2人。

それなりに手強い相手だったこともあり、少し疲れ気味の様子。

それでも、余裕がなかったわけでもない。

とりあえず、笑えているなら大丈夫。


「んで、あの連中は?」

「そだね。貰うもの貰わないと」

「今、追跡させてます」


やんわりと微笑む茜。

それを見て、2人も、にや〜っと、笑いを顔中に広げた。





程なくして、先程の2人組みが、さっきと同じ勢いでこっちに走ってくるのが見えた。

それを見て、笑顔で剣を抜く祐一。

それから道の真ん中で仁王立ち。

脇は茜と詩子が固めている。


「「た、たすけ……」」

「助けてやっただろ?」

「私たちに押し付けて逃げようなんていい度胸ですね」

「さすがに笑って許すことなんてできないな〜」


威圧感を感じさせる笑みが3人に広がる。

それを見て、その場で立ち止まり、身を振るわせる2人組み。

と、そこへ、後方から狼に似た獣が、凄いスピードでやってくる。


「「きっ、来たーっ!」」

「お疲れ様です、フェンリル」

「「……へ?」」


その狼――フェンリルが、茜の元へ一直線にやってくると、茜が労いの言葉をかける。

それを見て、唖然とする2人組み。

そして、フェンリルはそのまま姿を消す。


「「魔術……」」

「そういうこった」


祐一が改めて2人組みに向き直る。


「さ〜って、じゃ、ビジネスの話だね〜」

「「ビ、ビジネス……?」」


もう逃げる気力も尽きたらしい2人組み。

その顔に広がるのは、諦めの色……魔物に追いかけられ、ヤバい時に通りかかってくれた旅人に押し付けたまでは良かったのに……などと考えているらしい。

だが、世の中そんなに甘くない。

礼儀も常識も何もない卑怯な行為のツケは、必ず返ってくるのである。


「魔物退治料に加えて、迷惑料……合わせて金貨5枚。耳をそろえて払ってくださいね」


3人のこわ〜い笑顔に、2人組みは、こくこく、と頷くしかできない。

金貨5枚……安くはない出費だが、それでも命に比べりゃ安いもの。

トホホな表情の2人組みに対して、3人の表情は、してやったり、といった感じだった。















「う〜ん、これってラッキーと言うべきなのか?」

「微妙だね」

「幸運とは言えないでしょう」


思わぬ臨時収入には違いないが、昨日の商隊のケースと違い、敵も手強く、客も卑怯で。

できるなら、こんなケースはお断りしたいところだろう。

昼食をとりながら、そんなことを話す3人。


「ま、でも、結果オーライってことで」

「収入は収入だもんね」

「まぁ、確かに」


この話はここまで。

後はいつも通りの雑談が始まって。

笑顔という最高のスパイスが、料理を引き立ててくれる。

美味しい食事と楽しい会話。

目指す街まであと少し。

3人の旅はまだまだ続く。


















後書き



まだ街につかないのかよッ! というツッコミが怖い……

ども、GaNです。

のんびりという言葉、便利ですね(爆)

まー、あれです。

旅路を急ぐ理由なんてないですから。

1話ずつ、ボチボチやってこうかな、と。



そういや、テント。

何で2人用と1人用なのか、という理由は、男女だからとかじゃないんですね、実は。

3人用テントがめっちゃ高いから、というだけ。

2人用1つと1人用1つの合計よりも、もっと高いのです。

まぁ、人数が増えれば、それだけ作りもしっかりしてる必要がありますからね。

だから宿とかでは、3人部屋1つしかとりません。

経費削減のために。

旅人は貧乏と戦い続けなければならないんです。

全てはお金。

故に、祐一くん達がガメついのもしょうがないことなのです(結局これが言いたかっただけ)



それはさておき、今回、茜の召喚獣みたいなのが出てきてます。

第1号はフェンリルくんで。

第1話のヤツは? と言うと、アレはまた別のヤツです。

姿を見せてないし、まだ名前は秘密で。

大したもんでもないんですけどね。

で、フェンリルくんの能力は特になしで、普通の狼より身体能力が優れてるってだけです。

人間2人相手に、そんな強いヤツはいらないでしょうし(笑)



さーて、では次回もボチボチとやってきます。

ではでは。





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