2年前――



とある街の片隅で、祐一が死の淵に立たされていた。

端的に言ってしまえば、路銀が尽き、食糧もなくなった、ということだ。

仕事を探そうにも見つからず、空腹に加えて疲労も溜まっていたため、ふと下ろしてしまった体は、動こうとはしてくれなかった。


「……」


喋る気力もなくし、ヤバいと思ってはいたが、どうしようもなかった。

もはや、見るからに死にかけてる自分に手を差し伸べてくれる人がいるかも……という甘い考えに縋るのみ。



旅に出てずいぶん経っていたが、ここまでピンチになったことはなかった。

比較的平和で、比較的裕福な、という微妙な土地で路銀が尽きたのが、そのまま運の尽きでもあったのか。

微妙に平和なため、護衛の仕事などもなく、微妙に裕福なため、他の仕事さえない。

金もなく、仕事もなく、食糧もなく、やがて体力もなくなってきたわけだ。

本格的な生命の危機。



旅の目的……探し人を見つけ出すまでは、決して死ねない、と、そう思ってはいたが、現状は厳しい。

にっちもさっちもいかない状況……あとは、強盗でもするか、物乞いでもするか。

だが、強盗は絶対にできない。

そんなことをして生き延びてしまっては、探し人にどの面下げて会えばいいというのか?

となれば、あとは物乞いだが、成功する可能性もあんまり高くはなさそうだ。

どのみち、もう動く気力もない。

何となく、死神の足音と笑い声が聞こえたような気がした。

癪に障るが、かといって何もできない。

ぼーっと、座り続けるしかなかった。










と。


「……何をやってるんですか?」


目の前には、魔術士らしき2人組みの少女達。

その2人のうち、長い三つ編みの少女の方が、声をかけてきた。

これが、祐一と2人の少女の、ファーストコンタクトだった。




















のんびりお気楽夢紀行



2ページ目  旅は道連れ、世は情け





















「疲れたね〜」

「なぁ、次の街まであとどんくらいなんだ?」

「このペースなら、今日を含めてあと3日というところでしょうか」

「え〜……」

「マジかよ〜……」

「落ち込んでもムダです」


商隊の面々と別れてから数時間後、またしても祐一&詩子が不満を口にし、茜が切って捨てる、という光景が展開されていた。

お約束と言おうか、学習能力の欠如と言おうか。

ともあれ、いつも通り。


「あ〜あ、馬車があればね〜」

「ホントだな〜」

「……馬車がいくらすると思ってるんですか?」


この世界において、移動手段は、基本的に徒歩か馬車かに限られる。

昔は、街から街へと瞬間移動できる、そんな便利な魔術があったというが、今はそんなものなどない。

金がない者は、旅をしたければ歩け。

金があるなら、馬なり馬車なりを買え。

これが鉄則。


「……そーいやさ、俺達の金って、今どんくらいあるんだ?」

「そうだね〜、馬車までいくら?」

「程遠いです」


3人組みの財布は、茜の手にある。

というより、他の2人に任せられない、ということなのだろうが。



出会った時、路銀が尽きるという、旅人にあるまじき失態を演じていた祐一。

ついつい衝動買いしてしまう癖のある詩子。



茜が財布を持ち、金銭を完全に管理しているからこそ、旅が続けられるとも言えた。

それ故、茜の管理は厳しい。

状況はさしずめ、手のかかる子供を抱えた母親というところだろうか。

ともあれ、自分がしっかりしなければ、と考えていることは間違いなさそうだ。


「「……はぁ」」

「大体、馬車と言えば、最低でも金貨200枚は必要なんですよ? どこからそんなお金が出てくると?」


金貨200枚……3人にとってみれば、おいそれとは手に入らない大金。

しかも、これは最低でも、という金額。

実際、長旅に臨むのならば、もっと高級な……高価なものが欲しいところだ。

それに加えて、馬の食費に、馬車本体の維持費……金食い虫を飼っていられるほどの余裕など、3人にはない。


「馬車は夢のまた夢ってとこなのね〜……」

「悲しいなぁ〜……」

「それとも、もっと食費を切り詰めますか?」

「「とんでもない!」」

「では、諦めてくださいね」


微笑みながら言う茜。

笑顔なのに、それを見てがっかりする、というのはいかがなものか。



けれど、それもしょうがないところだ。

祐一も詩子も、実に良く食べる。

まぁ、戦闘においては、茜と違って運動量で勝負するタイプなのだから、それもごく自然なことではあるが。

そんなわけで、食費を切り詰めるか、と問われれば、答えはノー。

なれば、夢の中の馬車は、羽を生やして空高く消え入るのみ。





「……でもっ! いつかは馬車でっ!」

「おうっ! いつかは馬車をっ!」

「……はぁ……」


2人並んで空に向かって吼えている姿を見て、茜がため息。

何とも気苦労の絶えない人である。


「ん? でも3日分も食糧あるのか? さっきの商隊の人達から買っといた方が良かったんじゃないか?」

「大丈夫でしょ? 茜」

「もちろんです。どこかの誰かと違って、食糧を絶やすようなヘマはしませんよ」


少し皮肉気な目を祐一に向ける茜。

詩子も、にやーっと、笑いが顔中に広がっていた。


「ぅ……」

「いやー、あの時は笑っちゃったよねー」

「そうですね。まさか、街の真っ只中で飢え死にしかけている旅人がいるなんて思ってもみませんでしたし」


ここぞとばかりにからかう2人。

祐一は、たらりと冷や汗。


「……しょうがないだろ。まさか仕事がないなんて思ってもいなかったんだしよ」

「普通、ギリギリまで路銀を減らす前に仕事を探しておくもんだと思うよ」

「そうです。路銀が尽きてから仕事を探して、なんて無茶をするのは、祐一くらいのものですよ」


2年前の失態を、ちくちくと突いてくる2人。

だが、事実である以上、反撃の糸口もない。















再び、2年前――



「……見てわからないか?」

「わからないから聞いているんですが」


祐一も、少女――茜も、無表情に言葉を交わす。

まぁ、祐一は空腹のあまり表情も出せなくなってるだけだし、茜にしても、別に他意はない。


「……もしかして、お腹空いてて動けないとか?」

「まさか……」


もう1人の少女――詩子の言葉に、茜が疑いながらも、目を祐一に向ける。


「……そうだよ」


恥ずかしいのか、それとも力尽きたのか……うなだれるようにして返事をする祐一。


「うわぁ……ホントなんだ」

「……」


びっくりした表情の詩子と、コメントを控えた茜。

いずれにせよ、そんな2人の態度は、祐一には痛い。

まぁ、自業自得なわけだが。


「……」


何にせよ、言い返す気力もなく、ついでにその必要もないのでは、祐一も黙り込むのみ。

と。


「……これ、食べますか?」

「あ、茜?」


茜が、どこからか大きなパンと水を取り出す。

それを見て、詩子がまたもびっくり。

一体どこから? とか、どうしてあげるの? とか、そんな疑問がぐるぐると頭を回っているのかもしれない。


「なんで……」

「もちろん、ただではないですよ」


祐一の問いが形になる前に、茜が口を開いていた。


「あなた、剣士でしょう?」

「あぁ……」

「私達と一緒に行く気はありませんか?」

「あ、そっか」


詩子が、納得の表情になる。

茜も詩子も魔術士。

旅をするのに、バランスがとれているとは言い難い。

剣士がいるのといないのとでは、旅の難易度も大きく変わってくるだろう。


「そりゃ願ったりだけど……なんで、俺なんだ?」


仕事を探していて、生命の危機さえ感じていたところに、チームに入りませんかという提案。

諸手を上げての大歓迎と行きたいところではあるが、ふと疑問に思う。

酒場に行けば、それこそもっと大勢の剣士がいるだろう。

何も、街角で飢え死にしかけてる自分でなくてもいいんじゃないのか?

どうして、自分を誘ってくれるのだろうか?





「私、これでも人を見る目はあるんですよ」


微笑みを浮かべながら言う茜。


「それに……あなた、似てますから」

「あ、そう言えば……」


だから信頼できる、と言わんばかりの表情の茜&詩子。

その言葉を聞いて、表情を見て、疑問顔になる祐一。


「似てる? 誰に?」

「私達の探し人だよ〜♪」


笑顔で返事をする詩子。

探し人……そのフレーズに、祐一の表情も柔らかいものに変わる。


「……そっか」

「はい。で、どうです?」


微笑みとともにかけられた言葉に、祐一は同じく微笑みながら、静かに頷きを返した。

その日その場所が、3人の旅路の始まりだった。















「あ〜、まぁ、あれだよ。今となっては良き思い出〜って方向で」

「ま〜ね〜。だからこそ、こうやって3人で旅ができてるわけだし♪」

「飢え死にしかけておいて、良き思い出も何もないでしょう……?」


祐一に同意した詩子に対し、茜は呆れ声。

まぁ、それも止む無き所。

旅人としての心構えを問いたくなるようなヘマをやらかしておいて、思い出の一言で片付けられてはたまらない。



もし、茜と詩子が通りかからなければ。

通りかかっても、声をかけていなかったら。



祐一は、今頃天国の住人だったのだから。

仮にその場をしのげていたとしても、そんな綱渡りな旅を続けていたら、どのみち先はなかっただろう。

祐一が生きていられたのも、生きていられるのも、この2人のおかげ。


「まぁ、そだけどさ。あれだよ、それのおかげで2人に会えたんだし」





だから、祐一は感謝する。

確かに、旅の自由度は大いに減ったし、自由になるお金も少ない。

それでも、旅をしていて毎日が楽しいと思える……それは2人のおかげだろう。

1人じゃないこと。

それだけでも、十分幸せなことだ。

気の合う仲間達と旅を続けられる……これを幸せと言わずに何と言おうか。

加えて、お金の管理も完璧で、仕事を探すのも楽ちんで。

とりあえず、手がかりの少ない旅の目的の完遂はまだまだ程遠いだろうが、楽しい旅路がまずは嬉しい。





「そうそう♪ 1人より2人、2人より3人ってね」

「……確かに、そうですね」





感謝しているのは2人も同じ。

祐一が加わったことで、路銀を稼ぐための仕事の幅が広がった。

剣士+魔術士というバランスのとれたチーム編成もあり、魔物と遭遇した際の対処も楽になった。



けれど、それより何より気が合う仲間だったから。

だから、旅が楽しい。

3人の旅が始まってから、毎日が楽しくて仕方がないのだ。



そりゃ、旅に問題がないわけじゃない。

色々頭を悩ませたりすることはある。

食費だってバカにならない。

おまけに、目的の探し人の手がかりは少ない。



けれど、まぁ。

カリカリしてたって、何かが変わるわけじゃなし。

だったら、せっかくの旅なのだ……楽しまねば損というもの。

そして、旅を楽しむのに、2人ではちょっと寂しい。

今、3人でいるからこそ、旅が心底楽しいのだろう。

そして、それが自分達にとっての幸せなのだ、と。

そんな風に思う。





「とりあえずはあれだな……」

「ん? な〜に〜?」

「?」


そこで、少し表情を変える祐一。


「……そろそろ、メシの時間が……」

「さんせ〜い♪」

「ダメです」


結局、話はそこに。

腹が減っては戦はできぬ。

そうは言っても、食ってばかりじゃ話が進まない。

笑顔でダメ出しする茜に、祐一と詩子が、少しヘコむ。


「はぁ〜……」

「ふぅ〜……」

「我慢です」


てふてふ、と。

いかにも元気なさげに歩く祐一&詩子。

でも、それが演技であることは、バレバレだったりする。



どうにもこうにもいつも通り。

気ままに気楽にのんびりと。

3人の旅は、まだまだ続く。



「日が山に隠れるまで歩いたら、晩御飯にしましょうか」

「「よっし!」」


パン――とハイタッチ。

途端に元気に歩き出す祐一&詩子。

苦笑交じりの茜。

昨日も今日も、そして明日も。

3人はやっぱり、こんな感じなのだろう。



明日の風はどっち向き?

そんなことはどーでもいいから、さっさととっとと日よ沈め。

食事の時間はすぐそこだ。


















後書き



ども、GaNでっす。

や、とりあえず、連載第2回です。

……言うこと、何もないなー(え?)


まー、とりあえず、3人の出会いは、こんな感じで。

祐一と茜&詩子は、旅の目的が違うんですよね。

じゃ、何で一緒の旅を続けてるのかというと……これはまだヒミツで。

とりあえず、気の合う仲間だってことが一番大きい理由なんですけどね。


何と言うか、ほのぼの〜って感じのお話にしたいんで、難しいことは当分なしの方向で。

早い話が、旅の目的を完遂させてあげる気なんて、まだまだないよってことです。

お付き合いいただければ幸いです。

それでは、また次回に。





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