――カシャァッ――



「うむ、天気は快晴、五月晴れ! 気持ちいいねぇ」


ご機嫌な様子で、開けたカーテンから外の景色に目をやるのは、我らが祐一。

さんさんと降り注ぐ太陽に目を細めながら、それでいてはっきりとわかる笑みを浮かべている。

そして、そのまま視線を室内に移す。

眩い陽光を目に浴びたため、室内が何となく薄暗く感じる。

だが、それは祐一だけ。

他の2人は……





「眠いよ〜……」

「眩しいです……」


ガバッ、と布団を頭からかぶって、起きるのを拒否。

折角のんびり寝てるのに。

どうしてこんなに眩しいの?

そう言わんばかりの態度だ。


「えぇい! いつまでも寝てんじゃないッ! 茜はともかく詩子まで!」

「だって眠いんだもん……」

「私ならともかくとはどういう意味ですか……?」


もそもそ、と。

布団がうごめいているのは、少し不気味かも。

加えて、その布団の中から響く低い声。

祐一、思わずため息。





「とーにーかーくー! ほら、朝メシ食いに行くぞ」


祐一が呆れたように言う。

その言葉に反応したのは詩子。


「んぅ〜……朝ごはん〜」


もぞもぞ、と。

布団の中で動く音がしたかと思うと、枕元から、詩子が顔だけを出す。

まだ目もちゃんと開けておらず、半分くらい寝てるように見える、そんな表情。


「起きろって、いい加減。もう腹へってんだよ、俺は」

「わかったよ〜……」


そんなやり取りを経て、ようやく詩子が布団から出てくる。


「ほれ、さっさと着替えてこい」

「りょ〜かい〜……」


ふらふら、と頼りない足取りで、洗面所の方に歩いていく。

まだまだ頭はお休み中。

完全起動はも少し先か。

何はともあれ詩子は起きた。

後は茜を起こすだけ。





「ほら、起きろって、茜……」


ユサユサ、と。

祐一が茜を揺らす。


「地震です……」


寝ぼけてるのか時間稼ぎか。

判断は難しいが、起きる様子を見せないのは確か。

しょうがないので震度を増やす。





「あ〜か〜ね〜!」


ガシッと茜の肩を掴むと、祐一は思いっきり揺らした。

それはもう遠慮なく。

その結果、頭がシェイクされてんじゃないの? ってくらいに揺れる茜。

これにはさすがの茜も耐えられなかった。


「お、起きますから……だから、止めてください〜……」

「ったく……」


ようやく布団から顔を出し、ゆっくりと体を起こす茜。


「……頭がクラクラします」

「とりあえず着替えてこい」

「……ひどいです、祐一。もう少し優しく起こしてくれてもいいじゃないですか」


まだちょっとぼんやり眼の茜が、少し睨むような感じで祐一に文句を言う。

気持ちいいはずの朝の一時が、強烈な振動で崩壊してしまったのだ。

それは文句も言いたくなるだろう。

けれど。


「優しく起こして起きなかったからそうなったんだ」


祐一の返事はコレ。

確かに、最初は声かけ、次に軽く揺らして、んで止めでようやく強烈振動だったのだ。

起きない茜が悪いっちゃ悪い。

でも、それで納得できないのが人情。


「ひどいです……」

「あのな……」


少し拗ねた茜と、少し呆れた祐一。

それでも、別に本気で怒ってるわけじゃない。

まぁ、いつもの朝の光景だ。

それが証拠に、その後、詩子に続いて茜も着替えて、3人揃って食堂に向かう頃には、茜も機嫌が直ってました。

さてさて今日は、どんな日に?















のんびりお気楽夢紀行


11ページ目  旅立ちの前に……?















「さ〜て、今日はどうするんだ? 一体」

「茜〜、どうするの〜?」

「そうですね……まずは食料品などの買い物を済ませましょうか」


朝食後、部屋に戻った3人は、今後のことの相談開始。

明日出発予定だから、今日どうするかを決めてるとこだ。


「なるほど。で、その後は?」

「折角だから、街を見て回ろうよ♪」

「はい、そうしましょう。ただ、詩子……」


そこで、ちらりと詩子を見る茜。

ちょっとその目は怖いかも。


「な、何? 茜」

「ムダな買い物はしませんからね」

「え〜……」


茜の言葉に落胆を隠さない詩子。

けれどまぁ、茜の注意も一理あったりする。

というのも、詩子は、ついつい衝動買いをしてしまうという困った癖を持っているからだ。

それも愛嬌だろう、と割り切ることは難しい。

なぜなら……





「この前のこと、忘れたとは言わせませんよ?」

「え? な、何のことかな〜、なんて…………ごめんなさい」


視線をさまよわせながらごまかそうとする詩子も、茜の一睨みで諦める。

やっぱりこのチームで一番強いのは茜なのだ。


「まさか、旅をしているのに、勝手に家を買おうとするとは思ってませんでしたよ」

「だ、だって、安かったんだよ?」

「安くても、あんなボロボロな家でどうすんだよ?」

「そうです。おまけに土地は狭いし、立地条件も悪いし。安くて当たり前です」

「うぅ〜、茜も祐一もいじめるよぅ〜」


茜と祐一のステレオ攻撃で、詩子撃沈。

ちょっぴりいじけて、拗ねたような声を出す。

それを見て、ため息をつく茜&祐一。


「……まぁ、でも、少しくらいならいいんじゃないか?」

「また……」


詩子のそんな姿を見かねた祐一が、ちょっと援護。

何だかんだ言って、祐一は甘い。

だから、茜も少し渋い顔。


「やっぱり祐一優しい〜♪」

「わっ!」


その援護射撃を計算していたのかどうなのか。

それはともかく、その援護に感激気味の詩子は、思わず横から祐一に抱きつく。





「詩子……」


ちょっぴり怒った感じの茜の声。

すぐに調子にのるのが、詩子の厄介なところ。


「ね、ね、ね。祐一もこう言ってるんだしさ〜、ちょっとくらいお買い物したいよ〜」


今度は、茜にゴロゴロと甘えるように縋りつく詩子。

ね〜ね〜、とおねだり。

財布を握っているのは茜なのだ。


「はぁ……わかりました、少しだけですよ?」

「やった〜! 茜大好き♪」


感激している詩子と、苦笑している祐一と、少し呆れ気味の茜。

まぁでも、少しぐらいはしゃいだっていいだろう。

それに、大きい仕事を終えたばかりで、懐も大分温かい。

ご褒美と思えば、多少の出費もかわいいもの。

詩子も祐一も頑張ったのだ。

だから3人、笑顔になって。

仲良く並んで、いざ街へ。










「あっ、アレ可愛い! でも、コレも捨てがたいし……う〜ん、どうしようかな〜♪」


詩子が、装飾品を扱っている店先で、あれかこれか、と目を輝かせながら何を買うか悩んでいる。

楽しそうな声が、店先に元気よく響いていた。

見れば、茜も楽しそうに、色々と手にとって品定め。

買う買わないを別にしてもショッピングを楽しめるのは、ある種女性の特権かもしれない。

それを微笑ましげに見る祐一。

ちょっと手持ち無沙汰ではあるが、これも男性の宿命か?


「祐一はどうするんですか?」


と、そこで茜が顔を上げ、祐一に聞いてきた。


「ん? あぁ、俺はコレをちょっとな」


と、背中の大剣を指差す。


「鍛え直してもらう、ということですか?」

「そういうこと。ここの鍛冶屋なら、もうちょっと切れ味良くしてくれるだろうしな」


鉱山がある街なら、それを成すための道具を作り上げる鍛冶の技術は、低いレベルではないだろう。

そんなわけで、折角だし鍛えてもらおう、と考えてるのだ。


「それだけでいいんですか?」


首を傾げる茜。

そんな仕草も可愛らしい。


「おう、問題ない。大体ほしいものないしな、今は」


笑顔の祐一。

それを見て、茜も微笑する。


「そうですか」

「おう。あ、じゃあさ、街出て最初の夕食、大盛りにしてくれよ」

「わかりました。とびきり美味しいものを作ってあげます」

「楽しみにしてる」

「あ〜! 2人だけで何話してんのさ! 仲間外れはダメだよっ!」


と、いきなり詩子乱入。

置いていかれてたまるものか、とばかりに、凄い勢いでやってくる。

そんな様子を見て、茜も祐一も、何となく笑いがこみ上げてきた。


「む〜……何笑ってるの?!」

「いや、違うって。俺は買うものないから、メシをゴージャスにしてくれって頼んだだけ」

「そうですよ」

「あ、ずっこいよ、それ。私だって〜」

「では、買い物は諦めるんですか?」

「う〜……」


少し悔しそうに唸る詩子。

それを見て、苦笑しながら、祐一が詩子の頭に手をやって、軽く撫でる。


「買い物したかったんだろ? ならメシは諦めろって」

「う〜……しょうがないか」


とりあえず、詩子の機嫌も直ったらしい。

再び嬉々として、店先に並ぶ品に心を戻す。

茜もまた店先に戻り、何を買うかで悩んでいる。

どうやら買い物終了まで、も少し時間がいるようで。



再び手持ち無沙汰の祐一。

ふぅ、と。

微笑みながら、ため息1つ。

それから、何となく空に目をやって、流れる雲をぼんやりと眺める。

青い空に、少しだけ散らばった白い模様が、静かにゆっくりと流れていた。

とても単調で単純な光景なのに、見ていて飽きるようなことはなく。

買い物終了までは、祐一はずっとそうやって空を眺め続けていた。















「ふんふ〜ん♪」

「思ったより時間がかかってしまいましたね」

「腹へったよ、さすがに」


ご機嫌な様子の詩子と茜。

空腹を訴える祐一。

結局、昼を大きく回るまで、彼女達のショッピングは続いた。

その後、鍛冶屋に剣を預けに行けば、それは結構な時間になってしまうというもの。

で、今は、何を食べるか、と街を見物がてら、食事処を探しているわけだ。


「折角だから、この地方の特産物みたいなものが食べたいよね」

「そうですね」

「ん〜……お、何か良さそうな店があるぞ。あそこにするか?」

「「賛成」」


祐一が指差した先にあったのは、少し年季を感じさせる暖簾のかかった、ちょっと大きめのお食事処。

派手に目を引くような何かがあるわけじゃないけれど、どこか親しみやすさを覚えるような、そんな雰囲気があった。

そこが気に入ったらしく、笑顔で賛成してきた2人。

そして、3人連なって、店の暖簾をくぐる。





「あ、いらっしゃいませ〜」


3人を出迎えてくれたのは、癖のない艶やかな黒髪を肩の近くまで伸ばしている、まだまだ少女、という表現がぴったりの女の子だった。

祐一達よりも、少し年下だろうか。


「えっと、3名様ですね?」


微笑んだまま、可愛らしい仕草でお辞儀をし、少したどたどしい口調で話しかけてくる。

いかにも少女らしい屈託のない笑顔が、とても印象的で。


「あぁ」

「わかりました。それではお席にご案内します。こちらへどうぞ」


にっこりと笑って、3人を席に案内してくれる。

その笑顔には、人を和ませるような何かがあった。

とても純粋で、とてもきれいな微笑み。

思わず知らず、3人も微笑ましい気持ちになって、自然に笑顔が浮かぶ。

案内されたのは、4人掛けのテーブル。


「えっと、ご注文は何にしましょう?」

「そうですね……」

「う〜ん……」

「あ、ここのオススメは何なんだ?」


悩む2人を他所に、祐一が女の子に店のオススメを尋ねる。


「え? オススメですか?」


少しきょとんとした感じの女の子。


「そ。ここ……えーっと、美坂屋だったよな?」

「はい」

「うん、その美坂屋のオススメ料理とかさ。何かないの?」

「そうですね〜……」


ちょこんと指を口元に当てて、女の子が考え込む仕草を見せる。

ちょっと幼い仕草だが、それが不思議と、この女の子には似合っていた。

あどけない相貌ということもあるだろうが、とにかく1つ1つの動作が可愛らしく映る。

と、そこで考えがまとまったのか、静かにその小さな口を開く。


「やっぱり私としては……「栞ッ!」……あ」


女の子の声を遮ったのは、別の人間の発した声。

見れば、店の奥の方から、少女が1人、こちらへと少し駆け足でやってきている。

目の前の女の子よりも、いくつか年上だろう、と一目で分かる。

凛とした雰囲気を携えていて、可愛いというよりも、綺麗と評すべき容姿の持ち主。

少し長めの黒髪は、軽くウェーブがかかっていて、それも彼女にはよく似合っていた。


「お姉ちゃん」

「栞、ダメでしょ? 休んでなきゃ」

「でも、誰もいなかったし……」

「それならあたしを呼べばいいの。あなたの仕事は朝だけって言ってるでしょ?」

「はぁい……」


ちょっぴり不満そうな少女だったが、それ以上文句は言わず、奥に下がっていった。

去り際に、祐一達に向かって、微笑みながらピョコンと頭を下げていったのが、ちょっぴり印象的。





「えっと、失礼いたしました。それで、ご注文はお決まりでしょうか?」


そこで、さっと営業スマイルに変わる。

この切り替わりは見事。

思わず拍手したくなる。


「いや、とりあえず、この店のオススメを聞いてたんだけど」

「それなら、この地方の地鶏のソテーなどはいかがでしょうか?」

「あ、それでいいや」

「私も」

「それでは、私もそれを」

「かしこまりました。地鶏のソテーを3つですね?」


そして、少女が厨房へと消える。

そこから始まる話のお題は今の出来事。



姉妹で店を切り盛りしてるのか?

いやいや親の手伝いじゃ?

姉妹揃って看板娘?

ただのアルバイトかも?

それにしてもあんまり似てないね?



最後の1つは少し小声で。

そうやって、とりとめもない話が続いた。





「お待たせいたしました」


そう言って、先程の少女が持ってきたのは、これがまた美味しそうな香りを漂わせたソテー。

絶妙の焼き加減が、視覚からも食欲を刺激する。


「「「いただきます」」」


3人揃って手を合わせて。

一斉に食事を開始。

そんな光景を、ちょっと驚いた目で見ていた少女は、けれど優しく微笑んで、ごゆっくりどうぞ、と言いつつ奥に消える。

そして始まる遅めの昼食。

味は絶品。

お値段控えめ。

3人の中で評価は急上昇。

とかくこの街は、いい店が多い。










「「「ごちそうさまでした」」」

「お粗末さまでした」


3人の唱和する声に返事が。

見れば、先程の少女が、営業じゃない笑顔を浮かべて、そこに立っていた。


「美味かったぞ、ホント」

「うんうん、美味しかった〜」

「えぇ、本当に美味しかったですよ」

「そこまで気に入ってもらえると、作った方としても嬉しいわね」


綺麗な笑顔。

料理人は、自分の作った料理を、美味しいと言って食べてくれる人がいることが、何よりも嬉しいもの。

百点満点の笑顔を見て、このお店の評価がまた上昇。





「ところで……」

「ん?」


と、その少女が、真剣な表情に変わって、祐一達に話しかけてくる。

それを不思議そうに見る祐一。


「あなた達が、あのタイガーアントの巣を壊滅させたって本当?」

「ん〜、正確には私達と、あと3人いたんだけどね」

「はい。私達だけの成果ではありません」

「ん? 何でそれを知ってるんだ?」


祐一が疑問を口にする。

吹聴したわけでもないのに、何でこの街の人間が知っているのだろうか?


「ギルドで聞いたのよ。誰もやらなかった危険度の高いこの仕事を、たった1日で終わらせた人がいるってね」


少女が種明かしをする。

早い話、ギルドで噂になった、ということか。


「でも、何でそんなこと確認するんだ?」


首を傾げる祐一。

これが分かったとて、それが何になるというのだろうか?

そこで少女が1つ断って、祐一達の隣の席に腰を下ろす。

自分達を見つめる真剣な眼差しを受けて、祐一達も居住まいを正す。

少女はしばらく躊躇っていたが、しばらくして、意を決したように口を開いた。





「……お願いがあるの、あなた達に。聞いてもらえないかしら?」


















後書き



や、どもです、GaNです。

ようやくKanonキャラ登場!

まずは栞&香里の美坂姉妹の出演ということで。

何でこの2人にしたかというと……まぁ、特別深い理由はないです。

浅い意味はありますけど。

一応それはヒミツということで。



さて、祐一達の旅立ちが、これでまた遅れます。

べ、別に浩平達に追いついちゃ困る、とかの理由じゃないよ。

ホ、ホントだよ?



とにかく、祐一達が旅立つ前に、もう一仕事やることになるわけです、はい。

まー、これ以上言うこともないですかね。

相変わらず行き当たりばったりっぽいですが、これからもよろしくお願いします。

それではこれにて。





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