――ザアァァァ……――



「雨だなー……」

「雨だねー……」

「そうですね……」


たっぷり眠って、3人とも朝食はとれなくって。

昼食の時間に、ようやく食事をとることになって。

宿の一階にある食堂で、そんな朝食兼昼食といった食事を堪能している3人だったが、その表情は少し曇り気味。


「何だかなー」

「あーあ……」

「まぁ、しょうがないですけど」


3人とて、別に雨が嫌いなわけじゃない。

ただ、街をのんびり見て回ろうかと思っていたのに、雨に降られてがっかりしてるだけ。

やっぱり、晴れの日に回りたいから。


「そーいや、折原達って、この雨でも今日出るのか?」

「どうだろね?」

「もう出発してるかもしれませんよ?」


何せもうお昼。

出発しててもおかしくない。

けれど。





「メシだーっ!」

「うるさいっ!」



――ガツンッ――



「だいじょーぶ? こうへい」

「はぁ……」


食堂の入り口付近で起こった出来事が、そうではないことを物語っている。

ちらりとその方向を見て、3人でくすりと笑う。

どうやら染められてしまったようだ。

楽しいからいいけれど。















のんびりお気楽夢紀行


10ページ目  雨の日















「雨降ってんのに、ホントに行くのか?」

「そうだよ、折角だからあそぼーよ♪」


祐一と詩子の発言。

ちなみに今は、食堂で昼食を共にしているところ。

茜はみずかとお話中。

浩平は食事に無我夢中。


「まぁ、お誘いは嬉しいけどね。先輩に会いにいかなきゃならなくなったから」

「うん、ごめんね」


ちょっと申し訳なさそうな2人を見ては、祐一も詩子も強くは出られない。


「先輩? それって、あの魔術グッズを作った人のことなのか?」


ふと祐一が思い出す。

あの便利な道具。

あれのおかげで命が助かったとも言えるのだ。


「うん、そうだよ。川名みさきっていう人なんだけどね」

「すごいのよ、ホントに」


瑞佳と留美が、笑顔で話す。


「そりゃあ、あんなモノ創れんだからなー」

「ホントホント。あー、私も会ってみたいな〜」


祐一と詩子も、笑顔で返す。


「うん、まぁ、そっちもそうなんだけど……」

「魔術もすごいんだけどね……」


今度はちょっと苦笑気味。

首を傾げる祐一と詩子。


「あっ、気にしないでね、大したことじゃないから」

「そうそう。で、相沢君達はいつ出るの? この街を」

「ん? 明後日には出るつもりだけど」

「一応目的地があるしね」

「どこなの? それ」


興味をひかれたような表情で、留美が聞いてくる。


「ヴァラヌールっていう街。そこで、俺達の探し人を見たって情報があってさ。まぁ大分前だから、もういないだろうけど、何か分かるかもしれないし」

「探し人? 人を探して旅してるんだ」

「うん、なかなか見つからないんだけどね」


詩子は、言葉のわりに明るい表情だった。

それは作ったものではなく、本心からのもの。

旅を楽しんでいることは間違いなさそうだ。

だから、瑞佳も留美も、同情を抱いたりはしない。





「ふーん、探し人かぁ……」

「まーな。けど、ホント情報からして少ないんだよ、これが」

「どんな人なの?」

「あぁ、それは……」


祐一と詩子が、それぞれの探し人の身体的特徴を話し、似顔絵を見せる。


「う〜ん、ごめん、見たことないわ」

「私もだよ。力になれなくてごめんね」

「いや、気にすんなって」

「そうそう。謝ることじゃないよ」


そう言うと、4人で少し笑った。

そして、食事の再開。

何だかんだ言って、朝食を抜いているのだ。

たくさん食べずにはいられません。

楽しく会話しながら、のんびりと食事。

これも1つの幸せだ。















「それじゃ、色々世話になったな」

「それはお互い様ってことだ。じゃ、元気でな」


祐一と浩平が、がっちりと握手をする。

お互いに笑顔。

ちなみにここは、街外れ。

旅立つ浩平達のお見送り。

男の友情を確認している向こうでは、女の友情の確認も行われていた。


「それじゃ、元気でね♪」

「お気をつけて」

「うん、元気でね」

「えぇ。また会いたいわね」

「お姉ちゃん達、また会おうね」


微笑みながらの会話。

ほんの3日だけの付き合いだったけど。

それでも、まるで旧知の友のような、そんな気がしていた。

それ故に、別れを惜しみたくもなる。

この3日は楽しかったから。

魔物の巣での攻防戦は大変だったけど、それもまた1つのスパイス。

思い出のページに刻まれる出来事だった。



けれど、それぞれに旅の目的がある以上、いつまでも一緒にいるわけにはいかない。

名残惜しいが、これも定め。

何も、今生の別れというわけではないのだ。

旅を続けていれば、いつかまた会える日もくるだろう。

その日まで、しばしのお別れ。

だから笑顔。





「それじゃ、そろそろ行くかぁっ!」

「おーっ」

「そうね」

「うん、それじゃ、相沢君達も元気でね」


そこで、全員が握手を交わす……友情の確認と、再会の誓い。

傘を差しながらだから、ちょっと握手はしにくいけれど、やっぱりやっておきたかった。


「あぁ、元気でな、4人とも」

「きっとまた会えるよ♪」

「はい、きっと」


笑顔で旅立つ4人と、笑顔で見送る3人。

街の入り口に、傘の花が満開だ。


「じゃーなー! あっ、相沢ー、頑張れよ〜」

「うんうん、頑張んなさいよ〜」

「祐一お兄ちゃんも茜お姉ちゃんも詩子お姉ちゃんも元気でね〜」

「探し人、見つかるように祈ってるよ〜」


街を離れる4人の声が、雨音にも負けず、祐一達の耳に届く。

どこか楽しそうな響きを、余韻として残しながら。

それは心地よいことだけど、若干気になるフレーズが。

頑張る……何を?

どうしても、昨日の夜の会話が思い出されてしまう。


「頑張るって何だろ?」

「さぁ……祐一は心当たりあるんですか?」


知らぬは2人ばかりなり。

祐一の心臓が少し跳ねる。


「あ、あぁ、アレだよ。もっと強くなれよーってヤツだって」


とりあえず、嘘はついてない。

あの2人のことだから、多分こっちじゃないだろうとは思うけど。


「う〜ん、そりゃ、あの人達は強かったけどね」

「祐一、ムリはダメですよ?」


とりあえず、茜も詩子も疑ってはいないらしい。

何だかちょっぴり後ろめたいかも。


「あ〜……まぁ、な」

「茜の言う通りだよ? 強いとか弱いとか考えなくてもいいの」

「そうですよ。私達が一緒にいてほしいのは、強い人とかじゃなくて、祐一なんですから」


柔らかい微笑とともにかけられた言葉は、祐一の心に静かに響く。

何よりも、その優しさと想いが嬉しくて。

ちょっと頬が朱に染まっていることを自覚しながらも、だから、祐一も微笑んで。


「ありがとう」


そんな感謝の言葉を紡いだ。

茜も詩子も、祐一と同じようにしながら、どういたしまして、と紡ぐ。

それは何だか儀式のようで。

こみ上げてくる笑いを止めることなんてできなくて。

街の入り口で、3人は、しばらくの間、声を上げて笑っていた。















「美味しいです……」

「……」

「……もういいだろ?」


何も言えない詩子に代わって、祐一が制止の声をかける。

でも。


「嫌です」

「「はぁ……」」


2人揃ってちょっとため息。

茜はそれを、聞かぬフリ。



あれから、どうやって時間を潰すか、という話になり、目を輝かせながらケーキ屋を主張する茜に押し切られた祐一&詩子。

そしてそれからずっと、茜は至福の表情でケーキを頬張り続けていた。

詩子も祐一も食べなかったわけじゃないけれど。

それでもその数は少なめで。

再び完全制覇を狙う勢いの茜には到底勝てません。

これがいわゆる別腹か……そんなことを思う祐一。

それにしても次元が違う。



とりあえず、お姫様が満足なされるまでは、まだまだ時間がかかるご様子。

祐一は、もう何杯目かわからないけれど、コーヒーの追加注文をする。

それに倣って、詩子も紅茶のお代わりを。

祐一&詩子は、顔を見合わせ小さく苦笑。

いつもの光景とも言えるし、それ故幸せそうな光景とも言える。

雨の日だけど、気分は晴れやか。

たまにはこんな日があってもいいかもしれない。

のんびりと過ぎる時間が、3人には心地よかった。















――ザアァァァ……――



「なかなか止まないな」

「ホントだね」

「この地方では、1度降り始めると長いらしいですから」


茜が知識をちょいと披露。

ちなみに今は宿にいる。

街の探索は諦めて、宿でのんびり過ごそう、ということになったわけだ。


「へ〜、そうなのか」

「昨日じゃなくて良かったね」

「はい」


3人揃って窓の外に目をやる。

雨足はそこまで強いわけじゃないけれど、でも、やっぱり景気よく降り続いている。

窓に一条の線を描いては地に落ち、描いては地に落ち。

その繰り返し。

雨に霞む窓の向こう側はぼやけていて、何の風景も認識できない。

ただ、雨が線を描くだけ。


「……何か、久しぶりだよな、こんなにのんびりするのって」

「そだね〜」

「はい……」


それでも不快にならないのは、そういうことだろう。

旅を続けて溜まった疲労が、抜けていく時間。

そこに潤いとアクセントをつけてくれている、と思えば、雨の音も、窓に描かれる軌跡も、素敵なものに思えてくる。

単調な音。

単調な軌跡。

それが何だか心地よい。

癒される……そんな感覚。

気付けば、3人とも同じような表情をしている。





3人並んでソファーに座って。

3人並んで穏やかな表情を浮かべて。


「何か、今、ちょっと雨に感謝したい気分だ」

「あ、私も」

「私もです」


そして顔を見合わせて、くすりと笑う。

小さな幸せ。

素敵な時間。

傍から見れば退屈な時間かもしれないけれど。

3人は、幸せそうな表情で、窓の外を眺めていた。










――ぐー……――



と、そんな雰囲気の中で響く無粋な音。

茜と詩子が、それぞれ左右から、祐一のお腹の辺りをじっと見る。


「いや、もう何つーか、ほら……」


左右の2人にちらちらと視線を送りながら、ごまかすように言う祐一。

それを見て、茜も詩子も笑いがこみ上げてきて。


「あははっ、そー言えばそろそろ夕食だもんね」

「仕方ないですね、祐一は……」


からかうように言う2人に、罰の悪そうな顔を見せる祐一。

お腹が空くのはしょうがない。

音が鳴ったのが致命的。

こればっかりはお手上げで。





「ま、まぁ、食堂に行こうぜ」


勢いよく立ち上がり、2人に向かって宣言する祐一。

それを見て、微笑みながら、2人も立ち上がる。

そして、3人仲良く並んで食堂に向かう。

今日の夕食は何にしよう?

明日は何をしよう?

そんな会話をしながら。



3人には、やっぱり笑顔が似合う。

それも当然……3人一緒にいられれば、それだけで幸せなんだから。

だから、笑顔でいられる。

そして、いつも笑顔だから、それが似合うようにもなるのだ。










雨はまだ降り続いていた。

今日は、お月様もお星様も休業日らしい。

でもまぁ、たまには休みも必要だし。

今日の休息、明日の活力。

それでは皆様また明日。

明日はきっと……


















後書き



最後の言葉が気になるかもしれませんが、まぁ深い意味はありませんので、あしからず。

ども、GaNです。

とりあえず二桁達成! おめでとう、自分! よくやった、自分!

……空しい(激爆)



や、とりあえず、10話まで行ったのに話が進んでないことが気になったりするかもしれませんが……

まぁ、タイトルがタイトルですから。

むしろ、のんびり行ってない方が問題だったりします。

のんびりまったりが最重要テーマですし(笑)

そういうわけで(どんなわけだ?)、これからもこんなペースで話を進めていきたいので、どうぞよろしくです。



さ〜て、次回は……まぁぶっちゃけ誰を出すかですね。

とりあえず、仮にもKanonメインを謳うのならば、Kanonキャラを出さねばなりませんし。

浩平も瑞佳も七瀬も、あまつさえみずかまで出てるのに、Kanonキャラ祐一しか出てねーじゃんッ!

やれやれですね、ホントに。

よしっ、次からはKanonキャラも出そうッ!

この意気込みが空回りしないことを願う(爆)

それではこれにて。





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