時をこえる思い 第三話 龍牙作
「旅立ち」
一つのビジョンに心救われた祐一は見違えたように調査を黙々と続けていった。
もちろん、躓くことは何度かあったが、挫けることなく彼の大切な人の思いに報いる――本人曰く負けないために乗り越えていった。
そして、通常世界でならば数年と言える歳月が流れ――
「ふぅ……やっと全部そろったなあ」
彼はなんとか必要なものをそろえることができていた。
姿こそ変わっていないがどこか達観している部分も垣間見えるのは、やはり本来ならそれだけの年月がたっているということなのだろう。
「あーしかし、誰かさんじゃあるまいし、この姿のままおっさんくさくなってなきゃいいんだが…」
ピク (ふがふが)
「……なんか今冷たい視線を感じたような…まさかな〜」
こんな書庫のような所でかなりの年月を過ごしてきたことは、さすがに祐一にも自覚がある。
そのため、ちょっと困った顔を作りながら自分の心を救ってくれた少女を引き合いに出して、独り言を彼は言ってみた。
すると、感じたこともある冷たい視線を感じて祐一は少し冷や汗をかきながら周りを見渡し、しかし、誰もいるわけはないので気のせいかなと思うことにしたようだ。
祐一は最後まで知らなかったが、本当はこの時の間には時の番人以外の存在もいたのだ。
その人物は時の番人に口を塞がれて今、奥に連れて行かれている。
「しかし、まさかこんなに早く見つけるとは思わなかったよ」
「…また、いきなり現れるなあ、お前も」
しばらくして、時の番人は素知らぬ顔で、祐一のいる場所に転移してきた。
もう何度かあったことなので、祐一はそれほど驚きもせずに応対する。
「やっぱり、思ったより頭が切れたんだね?」
「またかよ…いったいお前は俺のことを何だと思っているんだ?」
「はは、ごめんごめん。さてと、ここで覚えたことは忘れないようにする方法も見つけたみたいだし、安心していけるね」
「まずはそこからなんだもんな…苦労したぞ。精神に記憶を封じ込める方法とか、まったく大変だったぞ」
「ははは、だから大変だって言ったじゃないか。過去に戻るといっても同じ時間軸に同じ存在が二人いるのはよろしくないなのでね。精神だけ過去に戻って融合してもらうのが一番だから」
「持ち帰りは精神だけなんだもんな……しかも融合術まで自分で調べろなんて酷いぞ」
「私はそこまで甘くないよ」
「このやろう…」
けろっとした顔で言ってくれる時の番人に対して祐一は苦笑を漏らしながらも、ここで自分が得たものを振り返っていた。
そして我ながら、大切な人たちを救う直接の方法だけでなく、こんなところまで調べることがよく自分に出来たものだと思っていた。
正直、知能をあげる術を幸運にも初期に見つけたものの、無我夢中だったんだなと祐一は自分を振り返っていた。
「まあ、体と精神のアンバランスは如何ともしがたいだろうけど、疲れないようにする特訓もしたみたいだね。それに、過去の君の部分が君に年齢らしい行動をとらせてくれるかもしれないし、これからの君の行動自体見ものだよ♪」
「あんた……本当にいい性格してるよな」
「ははは♪ もっとも、過去に戻ってやり直すなんて普通体験しないだろうから、色々未知数だけど、私も出来る限りのことはするよ。せっかくの知的好奇心を満足させる人物を初っ端から躓かせたくはないからね」
「この場合はありがとうと言うべきだな。わざわざすまん」
「ま、気にしないでいいよ〜」
(本当に調子狂う奴だよなあ……)
そして、この時の間で過ごすに当たって、一緒に過ごしてきたこの男のことも思い出してみると、やっぱり普通じゃないなと祐一は思い返していた。
資料探しの手伝いはしてくれなかったが、1年くらいここで過ごしてからだとは思うが、いきなり現れてせっかくだから一緒に食事くらいしようとか言って、自分にこの男は接してきた。
時を大幅に止めて、今までの過去を記録するのが元々この男の仕事でもあるらしく、暇が出来たら、今までものんびり何かしてきたらしい。
こっちは結構焦っていると言うのにと腹も立った時もあったが、思い返せばいい息抜きにもなったので祐一はちょっとだけ感謝していた。
「さてと、名残惜しいが、そろそろお別れだよ…」
「そうだな」
「むむ、祐一君、あっさりしてるね。酷いじゃないか」
「男同士、そのほうがよかろう?」
「むぅ、人間はそんなものなのか〜〜?」
「あんたは物知りなのか、そうでないのかいまいちわからんな」
「ははは、気にしないで」
「ふっ、何度目だろうな、このやりとり」
「そうだね、あはは」
別れに際して、二人はお互い笑いあう。
どうやら本当に気が合う二人だったようだ。
「さて、最後に少し何か言葉を贈っておこうかな?」
「なんだ? 改まって」
「まずは念のため、ここで得た知識を間違った方向に君が使ったとしたら、君の大切なものはもちろん、時や世界も歪みの中に消えてしまうかもしれない。このことは忘れないでね」
「ああ、全く責任重大だな…」
「それと、迷いは晴れたかい?」
「………」
祐一はこの時の間で多くの知識を得た。
当然『過去に戻る』と言うことに関する論もいくつか知ったのである。
その中には考えさせられるようなものがあったのだ。
「……正直まだ思うところはある。だけど、俺が進める道はひとつ。そして、俺はやはりこの道を行きたいんだと思う」
「うん、それでいいと思う。後は全てをなしえた後見えてくるものもある。君が進む先にできたもの。その全てを見据えた上でまた考えれば、また更に納得のいく考えになるんじゃないかな」
「相変わらず、答えは示さず、か……ホント、その辺は甘くないな」
「ふふふ」
祐一がこの時の間で得た知識で何を考えたのか、その答えは今は二人とも何も言わなかった。
その答えは祐一が歩んでいく道の中で、そして今考えうる全てをなしえた後で分かっていくのである。
「さてと、最後にもう一つ、君やあゆ君の願いが叶うことを祈ってるね」
「お前って微妙にいい奴だよな。ああ、任せとけ」
「微妙ってなんだい?」
「気にしちゃダメだぞ」
「そうなの?」
「そうだぞ」
「そうか〜〜」
「はは」
相変わらずな反応をする時の番人。
祐一はそんな彼を見て笑う。
(さて……代償の果ての奇跡と、多くの努力の果ての奇跡、この少年はどっちを選んでくれるかな?)
しかし、きょとんとしながらも、時の番人は裏ではこんなことを考えていた。
その真意は今はまだわからない。
二人の会話はこれで終わり、二人は時の扉とでも形容すべき大きな扉の前に移動する。
「ホント、寝室や書庫みたいなものもあるは、謎の多い場所だよな」
「何もないところで過ごすのも嫌だしね」
「本当に人間くさいな」
「ははは、我らの創造主はそういう趣味なんだろう」
「笑えない冗談な気もするが……まあいいや、じゃあ、俺は行く」
「ああ、元気でね〜」
「はは、そうだ。時の番人」
「ん? なんだい?」
「色々ありがとな。じゃあな!」
彼はそういって時の扉を潜り抜け、時の流れに入っていく。
「ありがとう……か。ははは、私にもこういう感情があるとは…本当に我らが創造主は何を考えているんだろうなあ。まあ、あんな方々だし…」
ちょっとだけジンときたらしい時の番人は自分の感情を不思議に思いながら笑っている。
どうやら、祐一たちの起こした出来事は、彼に今までにはない何らかの影響を与えているようだ。
その意味するところは、今はまだ誰にもわからないことだが。
(彼らがその生涯を全うした時、かなり寂しくなるだろうな…こんなんじゃ。どうしたものかな〜〜。まあ、それが私のしたことの代償になるなら安いものなんだけど……実際どうなるのかなあ?)
時の番人が、このようなことに関わったのは初めてのこと。
その結果が何をもたらすのか。
このこともまた今はまだわからぬこと。
「まあ、今考えても詮無きことか〜〜……さてと、すまなかったね。彼と一緒に行かせなくて…」
「いえ、かまいません。相沢さん同様、貴方には感謝していますから、これくらいは…」
「そうか、なら助かるんだけど、まあ無理しなくていいよ」
「気遣ってくださるなら、最初から会わせてほしいものです」
「それだと面白くないし、彼の試練にもならないと思ったからね〜」
「はぁ…」
時の番人はまたいつものように何事も気にしないような思考になってから、くるっと後ろを向き、違う空間から現れた人物と向き合う。
その人物とは、もう一人の奇跡の担い手である少女――天野美汐である。
彼女もまた、この時の間に訪れていた。
ただ、時の番人の策略から、祐一とは今まで会うことはできなかった。
今はちょっと寂しそうな自分を気遣ってくれる目の前の男だが、会わせてくれなかった張本人なので本当につかみ所がなくて変な方だと思い、美汐は溜息をついていた。
「まあ、君らの場合、たとえ離れていても心は貴方とともにあるというような感じだと思うんだけど♪」
「な、なにを言うんですか、貴方は」
そして、恥ずかしいようなこともさらっと言う。
美汐は本当に困っていた。
「ふふ、さてと、君もそろそろ行くかい?」
「え、ええ、私も相沢さんとの約束を守りたいですし、相沢さん一人だけではやはり大変でしょうし…」
「そうか、だが残った奇跡の力では、祐一君のように舞君と出会う十年前まで君の精神を戻す力はない。つまり、もう少し時が経ったあの束の間の奇跡の時に戻ることになる。覚悟はいいかい?」
「はい」
時の番人は時を戻す力はあっても、人の精神まで過去に送る力は、実はないのだ。
だから、そこはあゆが起因となって起こしたあの力に頼ることになり、限界がある。
故に彼女が戻るのは、彼女が束の間の奇跡を経験した時。
そして、その上で、時の番人は美汐に時を遡ること、すなわちもう一度あの悲しい別れの時に戻る覚悟の有無を問いている。
対する美汐に迷っている様子はなかった。
「私は、相沢さんを信じています」
「ふふ、そうか。なら君にも最後には一言言っておこうかな?」
「なんでしょうか?」
「はは、別段特別なことじゃないが、まあ今後も祐一君には素直に気持ちをぶつけた方がいいと言っておこう。ライバルは多いから、気が抜けないだろうからね〜〜」
「な…!?」
(あの子は先に祐一君に会うだろうしね♪)
時の番人はにやりと笑いながら、こんなことを口にする。
まさか、こんなことを最後に言われるとは美汐は思ってはいなかったので、かなり驚いている。
そんな彼女を、からかいが成功したかのように微笑みながら、今までは秘密な方が面白いと話題にすら上げていなかったが、ある存在が祐一と同じように時を遡るだろうことを彼は思い出し、本当に楽しそうに微笑んでいた。
「気持ちをぶつけるって、ど、どういう意味ですか!?」
「ん? そうだね〜〜あ、こういうのがあったね。言葉どおりだよ」
「答えになってません!」
(う〜〜ん、むやみに反応するな〜〜もしかして、彼に対する気持ちを認識してないとか? ほとんど告白したようなものなのに……人間って複雑なんだね)
「何とか言って下さい!」
(面白いものだね、人間は。……あ、そろそろ彼女を送らないと)
普段の上品な物腰からは想像もできないように取り乱している美汐。
ただ、自分でも無意識の内に取り乱しているような様子である。
そんな彼女をまた面白そうに見つめながら、時の番人は祐一に抱いている恋愛感情的気持ちを彼女はまだ自覚してないのかと思いながら、自分とは違う人間の複雑な感情を興味深く思っていた。
そして、彼女の言葉には答えず、時の番人は笑いながら、そろそろ時間だなと考え始めていた。
やはり、マイペースなのだろう。
「さてと、そろそろ時間だね。もう会えないと思うけど、元気でね。幸運を祈っているよ」
「だから人の話を……」
「ほらほら、そろそろ時を戻さなきゃいけないんだから、流れに乗れなくなったら困るよ」
「うぅ……仕方ないですね。それでは私も行きます」
「頑張ってね」
「はい」
そして美汐も時の流れに返り、時の番人は全ての時を戻していく。
「この力を使うのはいつ以来かな……それにしても楽しみ。どんな物語を紡いでくれるかな?」
彼は微笑みながら、祐一たちの未来がどんなものになるか期待している。
ただその心のうちでは楽しみにしつつ、一応覚悟も決めている。
時の流れを見守る番人である彼が、こんな行動をする。
そのもたらす結果のことを彼はちゃんと考えてはいるようだ。
「でも、恋愛模様も楽しみだよねえ……本当に…楽しみなこと満載♪」
だが、やはり、本当に楽しみにしているようだ。
時の番人が記録してきたものとは違う、彼が始めて関わる物語。
その物語が今、始まっていく。
あとがき
龍牙 「今回は対談形式の後書きです」
邪鳳女 「改訂・移転してから初めて読む人は始めまして、こいつの後書き用の相方、邪鳳女(じゃほうにょ)よ♪」
龍牙 「お姿は腰元まである長い紫色の髪に金色の瞳、プロポーションも抜群のなかなかの美人です。お姿だけは美しいです」
邪鳳女 「いい度胸ね(シャキン)」
龍牙 「とまあ、魔剣をすぐ振り回す方ですが、一応邪神と聖神の間の子など色々と事情はあります」
邪鳳女 「とありゃあ」
龍牙 「作品中で創造主云々がありましたが、まずその方は出ないでしょう。
ただ、ともかくこういう女神様なんかが私の作る世界にはいますので(真剣白羽取りをしながら)」
邪鳳女 「それにしてもずいぶん時間がかかったわねえ!」
龍牙 「そ、その辺りはもはや弁解の余地なしですが、なかなか上手くいかないうえに……その…(まだ斬撃に耐えている)」
邪鳳女 「はあ、制裁は後で本気でやるとして、話を続けなさい」
龍牙 「はい…前言ったこと重複ですが一通り手直ししてからだんだんと公開しながら改訂と思いましたが
予想以上に序盤で手間取りましたし
公開してもし皆さんの意見もいただけたら参考になりますし、これから徐々に改訂していくつもりです。
多少手直ししたものもありますし、各ヒロインのエピソード自体はあまり変える気はないですが、
実際どうなるかわかりません(汗」
邪鳳女 「まあ、こんな奴だけど見捨てないで頂けると嬉しいわ」
龍牙 「うう、立場がないのでなんともいえませんね。ですが、時間はかかるかもしれませんが、頑張りたいと思います」
邪鳳女 「それにしても夏余裕なかったからって呆けすぎよ最近!(斬」
龍牙 (言葉もなく喰らい瀕死)
邪鳳女 「調子狂うわね…(回復魔法)」
龍牙 「はぅ、すいません。いや弁解の余地本当にありませんから(涙」
邪鳳女 「はあ……皆さんお見苦しい所をお見せして申し訳ありません(ぺこり」
龍牙 「重ね重ね申し訳ありません(土下座) さて今回、内容は少しいじった程度ですが、
容量大きすぎると感じていたものは今回のように分けることにします。
第一話のように上手く分けられないものも中にはありますけれど(汗
見やすいようになっていれば嬉しく思います」
二人 「それでは〜」