時をこえる思い
 第十七話 龍牙作

「佐祐理と舞」 













 一つの家族が新たな道を歩き始めた次の日。

 祐一は二人の少女を連れながら、再び一弥の病室へと足を運んでいた。

 今日の目的は――ちょっとした趣向は考えているものの――お見舞い。

 用件も普通であるし、事は順調に進み始めていることもあり、その足取りはやはり心なしか軽いものを感じさせる。

 さて、そうして上機嫌な様子で廊下を歩いてきた祐一は、目的の部屋に着いた。

 そして、連れてきた二人をとりあえず外に待たせてから、ドアをノックする。



 コンコン


「おはよう! 佐祐理さん! 一弥!」

「あ、祐一くんだ」

「おお、 祐一くんだぞ」


 そして、祐一は元気よく挨拶をしながら病室に入る。

 最初に迎えてくれたのは佐祐理。

 そしてこの反応は、祐一にとっては――ただ一点大事なものを除けば――懐かしいもの。

 自分の返す言葉もまたそれは同じ。

 いずれまた学校の屋上で同じことが出来たら良いなと、祐一は微笑むのだった。


「おはよう、祐兄さん」

「おはよう、一弥。昨日よりだいぶ顔色が良くなってきているな。けっこう、けっこう」


 そして、祐一を迎えてくれる人がもう一人。

 歳はずいぶん離れているから、佐祐理のように学校でこの子と一緒になることはないかもしれない。

 けれど、どんな形であっても、佐祐理や、そしてこれから紹介する舞たちと一緒にこの子と過ごす時間を考えると、祐一は本当に未来が楽しみだった。

 そんなわくわくするような未来に思いをはせながら、祐一は一弥の良好そうな体調を喜ぶのだった。


「そうなんです。わたしもうれしいですよ」

「うん。ぼく、早くおねえちゃんや祐兄さんと遊びたいから、早く元気になりたいんだ」

「そうか……、でも、無理しちゃだめだぞ。佐祐理さんはどこにもいったりしないからな」

「そうだよ、一弥。だからちゃんと体直そうね。そして、いっぱいおねえちゃんと、遊ぼうね」

「うん、ぼく、がんばるよ!」


 体こそペットから上体を起こしている姿の一弥だが、その表情はやはりとても明るい。

 元気になりたいという気持ちで本当に満ち溢れていると表現していいような一弥の様子に、祐一も佐祐理も表情をほころばせる。

 元々病弱な体質の一弥ではあったが、今の段階でこれだけ精神的な変化が訪れたのなら、きっと良い方向に進むだろうと、昨日の午後の検査の結果で医者は述べていた。

 その事も思い出して、二人は一弥の様子を快く思うのだった。

 しかしその後、祐一は少し表情を曇らせてから、申し訳なさそうに口を開く。


「ただ……俺はこの町に住んでるわけじゃないから、いないときもあるけど、絶対また来るから。そのときにいっぱい遊ぼう」

「そうなんですか……さびしいですね」

「……さびしいな」


 祐一の方は佐祐理と違い、まだ今はいつでも会えるというわけではない。

 このことを話した後の二人の反応を思うと、祐一は辛い気持ちだったが話さないわけにもいかなかった。

 そして、祐一の思っていた通り、佐祐理と一弥は一転してシュンとなって沈んでしまった。
 
 とても素直な反応だけに、祐一は本当に心苦しい思いを感じながらも、なんとか二人を元気つけようと優しい表情で話しかける。
 

「ごめんな。でもいなくなっても必ずまた来るからな。例え世界が破滅したって来るぞ」

「……あははーっ、祐一くんならそんなことが起きても本当に来てくれそうですね〜。でも、そんなに心配しないでください。祐一くんにも家族の方がいらっしゃるでしょうから、仕方ないですよ」

「……そうだね。ぼくも父さまたちと一緒にいたいとおもうし」


 祐一の言葉を聞いた二人は、寂しさを全部ぬぐうことは出来なかったが、出来るだけ微笑みながら祐一に心配かけないように口を開いた。

 二人とも昨日は素直な気持ちを出したけれど、やはりこの二人は我が侭をそんなに言わない子たちであった。

 
「…すまないなあ……うぅ、二人ともいい子だ。お兄ちゃん泣けてきたよ」


 二人の健気な態度に、祐一は少しジンとくるものを感じていた。

 半ば本気ながらの少し芝居がかった口調で、感動を表現する。

 もちろん内心では、この二人はもう少し我が侭でもいいのではと思う気持ちもあったが、まだ出会って日も浅い今日のところは、素直に彼女たちの気持ちを受け取っておこうと判断したようだ。


「ゆ、祐一くん…」

「ゆ、祐兄さん…」


 さて、急にほろりと来た祐一の姿を見て、二人は照れたような戸惑っているような仕草を見せる。

 同時に、本当にちょっと涙ぐんでいる祐一を心配もしているようだ。


「あはは……ごめんごめん」


 祐一は、我が侭は言わないけれど、こういうところはとても素直な反応をする二人を可愛く思った。

 けれど、少し心配させてしまったことは悪いと感じたため、笑ってごまかし、別の話題にしようと思考をめぐらせる。


「あ、ところで佐祐理さん、やっぱり言葉遣い……」

「はぇ〜、ごめんなさい。まだ慣れなくて…」


 佐祐理はすまなそうにしながら、ちょっと困ったように祐一に謝る。

 一弥以外の男の子に敬語を使わないで話すことは、どこか恥ずかしくもあり、なんとなく勇気がいる。

 それに、佐祐理自身よくわからないのだが、何か他の男の方と違うからこそ、祐一には敬語を使わなければいけないような気が彼女にはするのだった。


「まあ、しかたないか。うん、気長にでいいよ。でもどんどん仲良くはしていくからね、佐祐理さん」

「あははーっ、はい、祐一くん」


 そんな佐祐理の心の中の葛藤は知る由もなく、祐一は焦らずにいけばいいと佐祐理に微笑みかける。

 ちょっと頬を染めながら、佐祐理は朗らかに祐一の言葉に頷く。

 今度は少しだけ、佐祐理も自分の気持ちに気づいた。

 この男の子と仲良くしていきたいとは自分は本当に思っている。

 どうやら、昨日のことで、この目の前の人を自分は気になりだしているのでしょうかと、佐祐理は少し照れたような気持ちだった。



「あ……と、ところで、今日は二人に紹介したい人達がいるんだ」


 さて、この話はもういいかと祐一は次の話題に移る。

 と、いうより、そろそろ病室の外からの視線が痛くなってきたので、さっさとこの話題に移らなくてはと思ったのである。

 どうやら、廊下に人を待たせていたことをちょっと忘れていたようだ。


「ふぇ、どなたですか?」

「うん。俺の友達なんだけどね。きっと二人と仲良くなると思うから」

「そうなんですか〜。たのしみですね」

「よし、じゃあ入ってきてくれ。二人とも」


 そして、廊下のほうに呼びかける祐一。

 入ってきたのは黒髪の二人の女の子――川澄 舞と川澄 幸。

 早速未来の親友を引き合わせようと祐一は考えていたわけである。

 だが、紹介にずいぶん間が空いたためか、二人とも少し不満そうな表情を浮かべている。


「ちょっと紹介遅いよ、祐一」

「…そうだよ、祐一」

「……いやあ、すまん、すまん。つい話し込んじゃって」


 最初に幸からその不満をはっきりと述べる。
 
 そして舞も幸に続いて、口を開く。

 言葉は簡単なものだったが、舞はじーっと祐一を見つめている。

 その二様の不満の声に、祐一は冷や汗をかきながら弁解する。

 よっぽど会いたかったんだなとわかり、こればかりは悪いことをしたなと祐一は素直に謝るのだった。
 


「ふぇ、双子さんですか?」

「う〜ん。そうともいえるし、そうともいえない」

「はぇ?」


 さて、佐祐理は病室に入ってきたそっくりな二人の女の子を見て、まず思ったことを口にした。

 幸は、自分の微妙な立場を考えると、どう説明したらいいものかと悩みながら返事を返す。

 そんな的を得ない曖昧な答えを聞いた佐祐理は、不思議そうに首をかしげるのだった。



「まあ、細かいことは後にするとして、まずは自己紹介だ。俺は相沢――」

「はいはい、祐一のことはみんな知ってるからパス」

「――くすん」


 祐一としてもどう説明したらいいかわからないので、幸のフォローをしようと口を開く。

 しかしながらボケようともしている雰囲気の祐一を察して、幸は適当に祐一をあしらうのだった。

 あまりに簡単に切捨てられた祐一は、本気で悲しそうに佇んでいる。


 幸はそんな祐一らしさを、可笑しさ半分呆れ半分な気持ちで見つめながら、仕切りなおして自分がまず自己紹介をしようと佐祐理と一弥の方に目を向ける。

 その行動の途中、自分と祐一のやり取りを舞がうらやましそうな目で見ていることに気づいた幸は、一瞬複雑な思いを感じたけれど、とりあえず置いておくことにした。 


「……さ、さて、祐一のことはおいといて、あたしの名前は川澄 幸」

「え!? 幸……さん?」

「うん。あなたの夢に出たのはあたし。あたしは普通の人間じゃなくてね……その……舞の……」

「はぇ〜、そうでしたか。では、幸さんは舞さんと一緒にすごしている幸せの妖精さんなんですね」

「「「へ!?」」」


 そして、難しい自己紹介をどう行おうかと思索しながら幸が言いよどむと、佐祐理のほうが簡潔な答えを出してしまった。

 これには本気で驚く幸。

 また、事情を知っている祐一も舞も、急な佐祐理の発言に口をそろえてびっくりした声を上げていた。


「あなたのおかげで一弥と仲良くすることが出来ました。本当にありがとうございますね」

「……え、えっと、驚かないのかな?」


 ちょこんとお辞儀をし、丁寧にお礼を述べる佐祐理を呆然と見つめながら、幸は一言質問する。

 他にも正しい質問はあるようにも思ったが、考えがまとまらないためか、まず思いつた質問はこれだったようだ。


「ふぇ? なにをですか? それに、皆さんのほうが驚いてますね。一弥、おねえちゃん、なんか変なこと言ったかな?」

「う〜ん? ぼくにはよくわからない…」


 しかし、幸の質問の意味が佐祐理にはよくわからなくて一弥に尋ねてみる。

 けれど、一弥に答えがわかるはずもなく、姉弟揃って、首をかしげるのだった。


「は…はは。いや、なんでもないよ、佐祐理さん、そう思ってくれていいさ」


 まだ幼いとは言え、この姉弟の純真無垢な心をいうものを、自分は侮っていたんだなと痛感しながら、祐一は佐祐理に話しかけるのだった。

 そして同時に改めてわかった。

 この人は、たとえ不可思議な力を目の当たりにしても、きちんとそれを受け入れてくれる人間であるということが。

 もちろん、その受け入れ方は年齢が進むにつれて、変わってはいくかもしれない。

 しかし、ただ不思議な力というだけで、それを恐れるようなことは決して行わないだろうと祐一は思った。

 
 彼は、佐祐理には、今回は舞の力の秘密も知った上で一緒に歩んでいってほしいと思っていた。

 それだけ佐祐理は、舞にとって大切な存在になってくれる。

 そんな期待が祐一にはあったからだ。

 だから、事前に舞と幸と3人で祐一は話し合い、佐祐理に全て話そうと決めて、今日ここに二人を連れてきたのである。

 本当に受け入れてもらえるのか、舞には――今回の一件で何かしら佐祐理に感じるところはあったものの――もちろん不安はあったし、佐祐理のことを知っている幸とて、多少の不安はあった。

 けれど、祐一が一緒だからこそと勇気を持って、二人はここにきた。

 すると、この返答。

 どうやら受け入れてもらえないかもしれないという不安は、全く意味のない――というよりそんな次元を軽く飛び越えた――ことだったということである。

 佐祐理という人柄をまだまだ自分は侮っていたような気がして、祐一と幸はそろってなんともいえないような表情を浮かべる。

 舞はというと、自分の力は幸せの妖精さんなのだと、この女の子が言ってくれたことに、ただただ驚きを感じていた。

 そして少し間を置いた後、自分と母も、幸のことをこの女の子と同じように思っていることに気づき、ふと顔をほころばせる。

 それと、自分の中にあるそんなあったかな気持ちと同じものをもてる優しそうな女の子が、目の前にいる事も理解した。

 舞は、なんだかとってもうれしくなってきて、表情を明るくしていく。

 そして、昨日からそのつもりではあったけれど、今、本当に心の底からこの女の子と友達になりたいと舞は思うのだった。



「……あ、あの、わたし、変なこと言いましたか? 幸さんの持っている不思議な力で、わたしの夢に出てわたしに語りかけてくれたんじゃないんですか?」

「まあ、そうなんだけど……」

「すごいですね。やっぱり、幸せの妖精さんじゃないですか」

「えっと……」


 祐一たちのそれぞれの反応を見て、佐祐理はちょっと不安そうに質問する。

 幸はその質問に、少し困ったように返事を返す。

 何の説明もないのに、ここまで想像してくれた佐祐理にどう反応したらいいかわからない様子だった。

 加えて、純粋な綺麗な瞳で見つめられていると、照れくさくもなって幸は困ったように頬を人差し指でかいている。 

 そんな幸を見て、微笑みながら舞は口を開く。
 

「ふふ、そうだね。幸はあたしとお母さんの幸せの妖精さんだね」

「……ま、舞まで」


 とても明るい表情を浮かべて、佐祐理の言葉に頷くように話す舞を見て、幸はどうにも恥ずかしくなっておたおたしている。

 このまま佐祐理に尊敬に近い眼差しと、舞の綺麗な微笑みを向けられていてはたまらなくなってしまうと思い、幸は話を本題に戻そうと必死に頭を振って考えを整理する。


「と、とにかく、あたしは、舞の願いがとても綺麗だから誰かのために頑張れるの!」

「はぇ〜、ということは……。そちらにいらっしゃるのが舞さんですよね? つまり、舞さんにも感謝した方が良いということなんでしょうか?」

「クスッ、舞でいいよ。それと、そんなに気にしなくていいし、かしこまらなくてもいいから」

「では、わたしのことも佐祐理と呼んでください」

「わかった、佐祐理……あたしは、佐祐理の悲しそうな顔が明るくなってほしかっただけ……どうしてかは、よくわからないけれど……」

「はぇ……」


 自分が悲しそうな表情でいたことを、この少女が何故知っているのか?

 それを含めてよくわからないことだらけ……佐祐理だってそう思っていないわけではない。


(でもこの子は……とっっっても優しい子なんですね)

 
 けれど、わからないことよりも自分の素直な気持ちを生かしたいと佐祐理は思う。

 一弥のことがあったばかりだったこともあり、今の佐祐理の思考ではその一点が何よりも勝る大事なものだった。


 自分の気持ちを伝えることなどは苦手そうだけど、この女の子はとても優しい心を持っている。

 それが、舞の少し照れているような仕草の一つ一つから感じた、自分の素直な気持ち。

 それがわかりさえすれば、佐祐理にとっては、後はそれからの話。

 この優しい女の子と仲良くすることから始めようと、彼女は思うのである。



「舞、これからわたしと仲良くしてくれる?」

「はちみつクマさん」

「はぇ?」

「うん、という意味。祐一がこう言ったほうがいいからって……」

「あははーっ、可愛いね、舞って」

「――! そ、そんなこと」

「あ、舞が赤くなりました〜」


ぽか


「痛いよ〜〜、舞〜〜」

「佐祐理が……恥ずかしいことを言うからだよ」

「照れなくてもいいのに〜」


ぽか


「こら、舞、人を叩いちゃいけないんだよ〜」

「…ご、ごめんなさい」

「あははーっ、舞はいい子だね〜」

「〜〜〜」


 佐祐理の言葉に顔を赤くしながら照れまくっている舞。

 そんな舞を佐祐理はとても微笑ましく思い、優しい笑顔を浮かべていた。

 ただ――実際のところは全然痛くはないのだけれど――いきなりチョップしてくる反応には少しだけ困った様子だった。

 そのため、やわらかい物腰でちょっと注意してみたのだ。

 優しいお姉さんが年下の子を諭すように――本当は弟にもこうやって接したかったのかもしれない――注意する佐祐理。

 舞は、まるで母にそうされたかのように素直に謝った。

 そんな保護欲をかきたてられそうな舞の愛らしい様子がいじらしくて、佐祐理は自然と舞の頭をなでながら微笑んでいる。

 同い年の女の子にそうされることは恥ずかしかったものの、気持ちはいいし、どうしたらいいかもわからなくて、声なき声を上げながら舞は頬を赤く染めて佐祐理にされるがままでいるのだった。



「やっぱり、おねえちゃんは笑っている方が綺麗だね」

「か、かずや!? もう、いきなり変なこと言っちゃ駄目だからね」

「はちみつクマさん、佐祐理は綺麗だよね、一弥くん」

「はぇぇ、舞まで……」

「あはは、おねえちゃんも舞さんみたいに赤くなった」

「佐祐理、あたしと一緒」

「舞〜〜〜」


 しかし、思わぬところからの攻撃で佐祐理は少し取り乱す。

 すかさず舞は反撃とばかりに一弥の援護に回る。

 結果、舞がされるがままであった光景は、今度は佐祐理が顔を赤くさせながらぽかぽかと舞をたたいてお互いにじゃれ合う光景へと変わるのであった。



「…でもね、ぼくはおねえちゃんが笑ってくれると……やっぱりうれしい。今はちょっとしかられちゃったけど……前みたいに全然いやじゃない」


 そして、そんな姉たちを朗らかに見つめて、一頻り楽しんだ一弥は、こんな言葉をもらしてから自身もまた微笑む。

 やっと切望していたものを得ることが出来るようになったことから発せられる、幼さからくるまっすぐな素直な気持ちを込めた微笑みだった。


「はちみつクマさん、佐祐理も一弥くんも笑ってるのが一番だよ」


 舞もまた、一弥と同じように純粋な気持ちを込めて、うれしそうに微笑む。

 祐一、幸、真弥、そして佐祐理と一弥、心あたたかな人たちに囲まれたおかげで、舞も幼いころそのままの明るさが戻ってきたようなかわいらしい笑みだった。


「一弥……舞……」


 佐祐理がずっと望んでいたものと、今日出会ったこれから本当に大切なものになっていくであろうもの。

 その二つが目の前にあっては、佐祐理としてはもうこれ以上ないくらい感無量な気持ちであった。













 ただちょっとたまらなくなりすぎたのか――





「ふぇぇ〜〜、二人とも可愛すぎます〜〜〜〜」

「わわ、佐祐理」

「お、おねえちゃん」 






 ――思いっきり素直に体が動き、佐祐理は二人を心行くまで抱きしめるのであった。








「佐祐理、ずるい、あたしも舞と一弥君抱きしめたい!」

「いや、俺は佐祐理さんも含めてとっても可愛いと思うのだが」

「よし、祐一! 一緒にダイブ」

「待て、俺は男で舞たちは女の子で、一弥という病人も……」

「ここは自分に正直に!」

「いや、気持ちは嬉しいが――」

「じゃあ、問題なし!」

「――うぐぅ」


 佐祐理と舞が再び親友となって行く様子を心の底からうれしく思いながら、邪魔しないように終始祐一と幸はあたたかく幼い子どもたちを見守っていた。

 が、幸もまた舞と一弥がとてつもなく可愛くなってきて、我慢できなくなったようである。

 祐一は佐祐理も含めてこの子達を微笑ましく思っていて、全員の頭をなでてあげたいとは思っているものの、幸ほどに暴走する気はないだが……強引な幸には勝てずに二人揃って三人の輪に入っていく。


 その後、舞と一弥は佐祐理と幸に抱きしめられ、祐一はそんな4人のすぐ後ろで困ったながらもうれしそうな様子で佇んでいた。

 流石に抱きしめあう輪にまでは入らなかったようだ。

 けれど、祐一の幼心は一緒にいたいと純粋に思い、大人の精神はふと感じ始めた部屋の外の視線が気になりつつ、仲のいい妹と弟が四人できたように微笑ましい気持ちでいっぱい。

 なので時々、手は可愛い子どもたちの頭をなでてほのぼのとした心地にもなる祐一であった。











 さて、祐一が感じた視線の先では――


 
「あらあら」

「お母さん? どうしたの?」

「名雪、ちょっと待ってね。今、皆とっても楽しそうだから」

「?」



 ――娘は病室の中を見てないのでわかっていないけれど、その母親はとっても楽しそうに頬に手を当てて微笑んでいるのだった。



















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