時をこえる思い
 第十五話 龍牙作

「素直な気持ち」 










 そして、次の日の朝――


 
「……幸さん……一弥」


 佐祐理は目が覚めてからしばらくの間、夢の内容を思い返していた。

 夢の中で佐祐理の心に生まれた様々な感情、新しい考え。

 それらに不安や恐れを感じるところはある。

 しかし佐祐理にとって今日の夢の内容は、それらの感情を超えるほどに気になるものばかりだった。


「行かなくては…」


 一呼吸置いた後、佐祐理は一弥の元へ出来るだけ早く行く決心をする。

 お見舞いに行くこと自体は昨日と変わりはない。

 だが、今日は夢のおかげで佐祐理の心構えのようなものは明らかにこれまでと異なっていた。

 一弥が入院してからまた日は浅いが、今回の入院で佐祐理の気持ちが揺れていることは事実だった。

 早く退院して元気になってほしい……そして、退院したら優しくしてあげたい。

 そんな願いと思いを持って佐祐理は昨日まで病院に向かっていた。

 だが同時に、自分がお見舞いに行っても一弥は喜んでくれない、元気になってくれない、ということを辛く思う気持ちもまた抱えながら佐祐理は一弥のところへ向かっていた。

 切望と期待と悲しみと辛さ、そんな様々な思いをない交ぜにしてのお見舞いはやはり苦しい気持ちも大きかった。

 でも、今日は違う。

 何かが起きるかもしれないと言う気持ちが全てを凌駕して、佐祐理の病院へ向かう支度を整えるスピードを上げていた。
 
 そして支度が整った後、佐祐理は早速病院に向かうのであった。






 





 さて、佐祐理がそうして病院に向かっているころ、祐一は佐祐理より先に病院に訪れていた。


(ここに来るまで何も言われなかったな……。まあ、今日は来るつもりだそうだし、母さんたちが何かしたんだろう……ごたごたが片付いたら少しこの辺も考えてみようかな?)


 一応一弥の病室は、家族以外は受付を済ませなければ行けないようになっている。

 だが、特に注意されずに祐一は病室に来れたので少し不思議に思っているようだ。

 どうやら、一葉と秋子の今日一日の根回しは完全に整っているようである。

 このことは彼女たちの職業を考える材料にはなるかもしれないが、もう少し成長してから考えようかなと祐一はとりあえず今は考えないことにしたのだった。

 それに今の自分がすべきことは、見えてきた病室のドアの向こうの少年たちのことだとも祐一は考えて、思考を切り替える。

 そして少し歩いた後、一弥の病室の前に着いた祐一はこの部屋でよかったかを確認しながら、ドアをノックし始める。


 コンコン


「よお! 一弥君」

「……おはよう。おにい…ちゃん」


 祐一はドアを開けると同時に元気一杯に呼びかけた。

 そんな祐一に少し驚きはしたものの、うれしそうな表情で昨日言われたとおり挨拶をする一弥。

 言っていた通り本当に来てくれたことが、やはりうれしかったのだろう。


「おお!! ちゃんと言えたな。えらいぞ。こっちも、おはようだ」

「うん。(にこ)」

(いい笑顔じゃないか。佐祐理さん……今回は一回だけじゃなく、この笑顔を何度でも見ような)


 一弥が自分との約束を守ってくれたことうれしく思いながら、祐一は元気に挨拶を返す。

 もとより湿っぽいのは嫌であるし、一弥にも元気な雰囲気と言うものを感じてほしいと祐一は考えているようだ。

 そんな祐一の作る雰囲気に、なんだか心地よさを感じた一弥は純真な笑顔で祐一の言葉に頷く。

 祐一は一弥のまっすぐな笑顔に少し気恥ずかしさを覚えながら、しかし、見ていて心地よく思えるこの笑顔を今回は最初で最後ではなく、何度でも佐祐理に見せてあげたいと思うのだった。


「きて……くれた…んだ…」

「はっはっは。当たり前じゃないか、お兄さんはうそつかないぞ」

「ほんと…だね」

「うむうむ。さてと…そろそろか」


 祐一が約束を守って来てくれたことがとてもうれしい一弥。

 その自分の気持ちを何とか伝えようと、一弥は精一杯の頑張りを見せながら言葉をその口から紡ぎだしている。

 さすがにまだ上手くは話せなかったが、その頑張っている姿だけで祐一は微笑ましく思えたので、上機嫌で言葉を返す。

 だが、そうやって二人お互いに微笑みを交わしながらも、祐一の方は来るべき人物がそろそろ来るころであろうかとも考えているようである。



 コンコン


 
 そしてそれほど時間は間をおかず、病室のドアはノックされ、部屋のドアは開かれる。


「……一弥…!? 誰ですか、あなたは!!」

「!?」


 部屋に入りながら、一弥に呼びかけようとした佐祐理は見知らぬ人物が一弥と一緒にいることに驚きの声を上げる。

 よほど危ない印象を受けない限り、佐祐理が初対面の人物にここまで驚くことは珍しいことであるが、やはり一弥のこととなると彼女は責任感を強く持っているのであろう。

 そして元々突然の姉の来訪だけでも驚いた一弥は、そんなちょっと怖い姉の雰囲気も合わさって少し怯えたように息を呑んでしまっていた。

 また、姉の知らないこの不思議なお兄さんと一緒にいることを咎められることに、一弥は不安を覚えてもいるようだ。

 昨日、祐一に勇気を持って頑張ると約束したものの、やはり急すぎて心の準備が整っていなかったのだろうから、この反応も無理はないと言える。


「大丈夫だ、一弥君。お兄さんがついている。さあ、お姉さんにもあいさつだ」

「………。 (こくり)」


 そんな少し怯えてしまった一弥を、祐一は落ち着いて勇気付ける。

 すると、祐一のその頼もしい様子に安心したのか、一弥は少し呼吸を置いてから祐一の言葉にしっかりと頷くことができた。

 また、昨日約束したことを思い返す余裕も出来たようで、一弥は昨日褒められた勇気というもの必死にを奮い起こし、頑張ってみようと姉の方に目を向ける。


「……おはよう…おねえ…ちゃん」

「!?」


 そして一弥が言葉を発した瞬間、見知らぬ男の子のことなど佐祐理の意識から外れていた。

 夢のお告げの通り、何かが起こるかもしれないとは思っていたが、これは本当に佐祐理にとって予想外のことであったからだ。 


「一弥……今…?」

「おはよう。おねえちゃん」


 呆然としている姉を見て聞こえなかったと思ったのか、一弥はもう一度はっきり言い直す。


「ほら、お姉さんもしっかり挨拶しなきゃ」

「……おはよう……一弥」


 今まで言葉を話すことのなかった弟が突然言葉を発す。

 その唐突過ぎる現実に、佐祐理は何がなんだかわからなくなっているのだろう。

 祐一もそう思い、やさしく諭す。

 驚きで呆然としていた佐祐理は、祐一の言葉のままに挨拶をしていた。

 そして、知らない男の子のことなど今は頭の中に入ることはないまま、佐祐理の表情は崩れていく。

 弟と挨拶を交わせたという実感だけが彼女の心を満たしいき、いつの間にか佐祐理の瞳からは涙が溢れ始めていた。


「おねえちゃん……?」


 いきなり泣き出してしまった姉に驚き、自分が悪いことをしたんじゃないかという不安を一弥は感じてしまっていた。

 そんな一弥を安心させるべく祐一は彼に話しかける。


「一弥君、大丈夫だ。お姉さんはうれしいんだよ。君が、言葉を話してくれて。うれしい時だって……涙は流れるんだよ」

「そうなんだ。よかったぁ」


 祐一の言葉を素直に受け取り、とたんに笑顔になる一弥。

 とても綺麗な笑顔だった。

 そしてそれを見た佐祐理は――


「一弥……」


 ――先ほど『おはよう』と一弥が言ってくれたとき以上とも言える衝撃を受け、そして弟の笑顔から目が離せなかった。

 その瞳にはまだ涙を湛えたまま、佐祐理の心はどんどん溢れてくる思いでいっぱいになる。

 この笑顔は佐祐理がずっと見たいと思っていたもの。

 二人で笑顔でいられれば、どんなに楽しいだろう。

 それが、父に言われたことを正しいと信じ一弥に厳しく接していた佐祐理の心に秘められていた本当の気持ち。

 その本当の気持ち――願いが叶ったことで、佐祐理は正しいと思っていたことは正しくなかったとわかってしまった。

 これほどうれしいと感じるものが間違ったものであるはずがない。

 そんな爆発的な感情、一弥の笑顔を見れたことが本当にうれしいと思う気持ちが彼女の心を満たす。

 しかし同時に、今まで信じてきたことが間違っていたことを辛く思う気持ちも続いて生まれてくる。

 佐祐理はそんな二つの相反するかのような感情が心に溢れてきて、思考が上手くまとまらない時間が続く。






「わたしは……間違っていたんですね」


 自分の気持ちを整理するのにしばらく時間はかかったが、佐祐理は一言、導き出した答えを誰にともなく口にする。

 ただ、その意図は薄かったかもしれないが、佐祐理の一言はこの一弥の変化に関わっているであろう見知らぬ少年に無意識の内に向いているとは言えた。


「そうかもしれない。だが、誰にでも間違いはある。ただそれに気づいたら、直さなくっちゃな」

「でも、何が、間違っていたんでしょう……?」


 祐一はその佐祐理の複雑な気持ちを察しながら、自然に彼女の言葉に返事を送る。

 佐祐理はこの少年が何者であるかよりも、今はそんなことよりも頭の中が衝撃的な出来事を占めていたので、特に疑問なく会話を続けていく。


「そうだなあ……まず、俺は甘やかさないって厳しくすると全く同じだとは思わないぞ」

「!?」


 その言葉は夢で幸が言っていたこととほぼ同じ。

 佐祐理は夢のお告げでここに来たようなものだから、その驚きは大きかった。

 そんな佐祐理を見て、彼女の心をさらに揺さぶっていこうと祐一は話を続ける。


「もちろん、近い意味だとは思う。だがな、微妙に違うと思うぞ。確かに人は甘やかしてばかりじゃ、立派になんてならないさ。でもな。優しさやうれしくなるような気持ち……それだって知らなくちゃ立派な大人になんてならないと思うが、違うかな?」

「それは…違わないと思います」

「だろ? 甘やかさないって言葉には、厳しくするってのも入ると思うけど、厳しくするだけでは教えられないあたたかい気持ちやそういったほかの大事なことも ひっくるめて、教えなきゃいけないことを全部教えてちゃんと育てるって意味があるんじゃないかと俺は思うぞ。間違ってると思うかい?」

「それは……」


 なんとなく間違っていないとは思う。

 だが佐祐理にはすぐ答えを出せるほどの自信はなく、言葉につまってしまった。


「はは、ちょっと難しかったかな。それじゃあ、別のことを聞くね。君は笑顔で楽しく生きることと、暗い表情ばかりで悲しくて苦しそうにして生きること、どっちがいいと思う?」

「それは……笑顔で楽しく生きることです」

「だよね。じゃあ、さらに聞くね。君自身は正しく成長してきたと思ってるんだろ? そんな君だって笑顔の時はあったはずだ。さて、どうだったかな? 笑顔でいることは悪いことだったかい? いや、むしろ正しくて良いことじゃなかったかな?」

「……はい」

「じゃあ、一弥君はなんだったって言うんだい? まったく笑顔を見せずにきた一弥君は正しい育て方をしてきたといえるのかい? 笑顔を知らなくちゃ正しく育ったっていえないんじゃないかな?」

「………」


 昨日の夢で、佐祐理は正しく育ってきたと思っている自分と一弥に大きな差があることに気付き始めていた。

 そして今、この少年の言葉でその差の意味するところが何であるか、はっきりとわかった。

 自分は厳しく育てられたかもしれないが、楽しいことも教わった。

 しかし、一弥に自分は楽しい事は教えていない。

 その差が生んだ結果として、佐祐理も事実としては気付いていた――自分は笑顔を見せ、一弥は誰にも笑顔を見せない――という結果が出た。

 だが、改めて考えれば笑顔とは、うれしいとき、楽しいとき、自然に表れてくる恐らく良いこと、正しいことだろう。

 自分が笑顔でいれば、両親も喜んでくれたし、他の大人も喜んでくれた時もある。

 つまり、正しいはずである笑顔を見せない一弥は正しく育ったとはいえない。

 正しく育ったはずの自分は楽しいことも教えられたのに、正しく育てていたはずの一弥は教えられていない。

 自分は間違っていたんだと改めて佐祐理は思い、言葉を失って呆然とする。

 だが同時に、何がなんだか分からなくなってしまったがために呆然としているとも言えた。

 父から言われた『甘やかさない』と言うことは厳しいと言うこと。

 だからこそ、自分が本当は弟とやりたかった楽しいことは我慢して今まで過ごしてきたのだ。

 これまではいったいなんだったのか、いや、そもそも、正しいことのためにやってきたはずなのに今、自分は間違ってしまっている。

 その矛盾が佐祐理を余計に混乱させる。

 本当に正しいことはなんだったのか。

 やはり、先程この少年が言っていた通り、自分の考えていた『甘やかさない』が間違っていたのか。

 呆然としながらも自分が間違っていたのならば、正しい答えを導き出そうと佐祐理は必死になる。

 だけど答えは出せそうもなく、助けを求めるかのように、自分の心に問いかけをしてくれた少年を改めて見つめる。

 そんな道に迷ったか弱い少女を思わせる様子の佐祐理を見て、祐一は少し困ったような表情を浮かべる。

 だが、自分が言えることでもって佐祐理の中の混乱を沈められればと、優しげに話を始める。
 

「まあ…そもそも、何が正しいなんてそんな簡単に言えることじゃないかもしれないんだ。君はお父さんの言ったことが正しいことだと思ったかもしれない。そ れでいい時もある。でもね、戦争って知っているかな? あれはどこの人も自分が正しいって思ってはじめてしまうものなんだ。本当に正しいことが一つだけな ら、そんなことはおきないさ」

「………」


 戦争とは二度と起こしてはいけないものと習った記憶はある。

 でも、そういえばそれなら何で起きるのだろうと祐一の話を聞いてふと佐祐理は思った。

 その答えの一つが、祐一の話していてくれていることなのだろうとなんとなくわかったが、やはりまだ少し整理しきれない様子である。

 とにかく正しいと思ってはじめたことが、間違ってしまう――それは、自分が今してしまったことだとは理解しながら佐祐理はまだ少し悩む。


「戦争じゃなくてけんかだってそうなんだ。どっちも自分が正しいと思うから始まっちゃう。そして必ずしもどっちが正しいと言うわけでもないんだ。はは、難しいね。やっぱり、正しいってなんだろうと思い始めたら、今の君みたいに絶対みんな悩むよ」

(……正しいって何なのかな……確か夢で幸さんも言っていましたね……?)


 祐一の優しげな雰囲気と君だけじゃないみんな悩むと笑っている彼の姿を見て、佐祐理は少しそんな目の前の男の子に可笑しさを覚えた。

 そして、その感じた可笑しさが佐祐理の緊張を少し解く。

 おかげで、悩み続けている佐祐理にもふと思考に余裕が生まれ、再び幸と同じような言葉が出たことにも気づき、そのことを不思議に思う。



(でも、やっぱり答えはわからないです……)


 そして、少し一呼吸置いたところで、この男の子と幸の言葉を合わせてもう一度佐祐理は考えてみる。

 しかし、やっぱりわからないので、結局どうすればいいのだろうと彼女は首をかしげるのだった。


「ははは、やっぱり難しいことだよな」

「はい」

「むむ、俺より頭の良さそうな君にわからないのだから、俺にもわかるはずはないな、む〜」

「あははーっ、そんなことないと思いますけど…」

「いや〜、きっと君の方が頭がいい」

「は、はぇ」

「あはは」


 そんな佐祐理を見て、悩ませてしまって悪いことをしたと祐一は苦笑を浮かべた。

 佐祐理はそんな表情の祐一の言葉に対して、少しずつ和やかに応え始めていた。

 元々、彼女はどんな人とも和やかに出来るおおらかさも持っている。

 一弥のこととなると、立派な姉でいようとその本来の自分らしさが出ないことが多かったが、この不思議な男の子とやり取りをしていくうちに肩の力が抜けていたのだろう。

 祐一も、自分が知っている雰囲気がでてきたことにはきづいたようで少し楽しんでいる。

 同時に、わかりやすい説明と言う点では失敗した感があるものの、気持ちを落ち着かせることは出来たように祐一は感じた。

 ならば、難しいことを抜きにした簡単な結論だけ言ってみるのもいいかなと、祐一は思い始めていた。


「……ま、でもね。そんな難しいことは抜きにしたほうがいいかもしれないよ。だってさ。みんなが笑って楽しくすごせることが、悪いものだとは思わないだろ?」

「……はい」

「そうか、じゃあ君は素直になるべきだよ。君が本当にしたいことをすれば、君も一弥君も笑って過ごせる。それに俺もね。もしかしたら…君の両親もね。それ は決して悪いことじゃないはずさ。今は……それでいいんじゃないかな? ただ、遊びすぎに気をつけて、そして君らのお父さんのようになれる方法をさがしな がら努力をしていけばいい。それでいいと俺は思うのだが、君の考えは如何に!?」

「………。 (くす)」


 佐祐理はそんな簡単なことなのだろうかと少し疑問に思いながら、途中妙におどけた調子で話す目の前の少年が少し可笑しくて表情を崩す。

 そして、少し笑って間を置いた佐祐理の表情は、ちょっとだけすっきりしていた。

 確かに、一弥と二人、楽しく過ごしていけばそれでいいのかもしれないという考えが佐祐理にも浮かび始めていた。

 それに夢では幸、そして今はこの目の前の男の子。

 ちょっと怪しいかもしれないけど、何かあたたかなものを感じる二人に自分が素直になればそれで良いと言われるとそんな気もしてくる。

 少しだけ、素直になってみよう。

 たとえ一回だけ悪い子になるのだとしてもそれはそれで今はかまわない。

 そして一弥のほうを改めて向いてから佐祐理はこうも思った。

 ――この子の笑顔をもっと見たいっ――と






「……一弥」


「うん」


「お姉ちゃんはね、本当はね、一弥と一緒に遊びたかったんだよ」


「うん」


「お姉ちゃんはね、こう見えても運動神経良いんだよ」


「うん」


「たのしいこと、ほんとはね…いっぱい…知ってるんだよ」


「うん」


「だ…か…ら…ね。元…気になったらね…ぐす…いっぱい…あそぼうね」


「うん!」


「……一弥のこと……おねえちゃんね…うく…ほん…と…はね……大好き……なんだよ」


「うん!!」


「……かずや……っ」




 自分の気持ちを素直に吐露していくうちに、佐祐理は涙が止まらなくってきていた。

 ずっと言いたかった事、それが言えた。

 ずっと見たかったうれしそうな笑顔、それが見れた。

 佐祐理はもうただうれしくて、どうしようもなくて、流れ続ける涙をぬぐうことなく、力いっぱい大切な弟を抱きしめていた。

 


(やっと言えたな、佐祐理さん……今度は……最期じゃなかったよ)




















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