ONE 〜輝く季節へ〜 SS
 
『少女よ、大志を抱け』








「ふぅ〜」



公園のベンチに腰掛ける際、つい声をあげてしまう。



「浩平、ジジくさいです……」

「うっ、いいじゃないかそれくらい。茜だって、座るときに『よっこらせ』とか言うだろ?」

「言いません」

「……、じゃあお風呂入ったらまず『プハァ〜』って言うだろ?」

「言いません」

「……」



休日の昼下がり。

穏やかな日の光が差し込むベンチに、茜と二人、並んで座る。

茜は隣で、紙袋からさっき買ったワッフルを取り出して食べている。



「……食べないんですか?」

「あ、あぁ、今はいいや。家出る時に軽く食べてきたからさ」



適当な嘘で言い逃れる。どうもこの甘さは苦手だな……



「あの二人の分も一緒の袋に入れてるんだっけ?」



そう言って視線をブランコの方にやる。

そこでは、ブランコに座った澪に詩子がまとわり付いていた。



「仲がいいですね、あの二人」

「……いや、俺には澪が嫌がってるようにしか見えんが」

「クスクス……」

「あ、そう言えばアレ、茜は何書いたんだ?」

「…アレ?」

「そう、アレ、進路希望表」



先週のHRで、進路希望表なるめんどくさい紙が配られていた。

これに基づいて、これまためんどくさい二者面談が行われるらしい。



「浩平は、何て書いたんですか?」

「俺?とりあえず進学のところに丸付けた」

「……同じですか」

「おい、待てぃ!?今、一瞬嫌そうな顔しただろ!?」

「そんな事、無いです」

「嘘だ、何か『うわぁ〜、やっちゃった〜』的な顔しただろ!?」

「……クスクス」

「ん?」

「……冗談です」



そう言って茜はニコリと笑った。



「……なんか俺、今日遊ばれてる気がするが。しかし……」



視線をまたブランコの方に向ける。

あいかわらず賑やかにやっているようだ。



「詩子って、あいつ将来何する気なんだろうなぁ?」

「……聞いたこと無いですね」

「むー、気になる」



何だか無性に気になってきた。



「何が似合う」

「ん?」

「……何がやりたいかじゃなくて、何が似合うでしょう、詩子に」

「アイツに似合う事ねぇ……」



茜に言われて、考えてみる。

あの生態、性格、性能に見合った将来ねぇ……



「……あ、思いついた」

「何ですか?」

「……漫才師、とかどうだろう?」
















「詩子で〜す」

「……茜です」

「二人合わせてスイートワッフルズで〜す!!……って、茜もやらないと」

「……なんで私が相方なんですか」

「何でって、意外性があるからじゃない。ここで折原くんを相方にしたって面白くないし」

「私の立場は……」

「それにしても秋も深まってきたね〜」

「……無視しないでください」




「……で、この前、歯医者に行ったんだけどね」

「歯医者、ですか」

「うん。そこでひどい事言われたんだよ〜」

「ひどい事……?」

「うん。『こりゃもう、抜かなきゃどうしようもない』って」

「それはそこまで放っておいた詩子が悪いんです」

「まぁそうなんだけどさぁ、そんな毎日手入れは出来ないし」

「手入れ……、せめて夕飯の後くらい……臭くなります」

「臭くなる?それはないよ〜。毎朝かかさずシャンプーもリンスもしてるし」

「……それって髪の手入れじゃないんですか?」

「え?そうだよ」

「え、でもそれって……歯を抜く話と関係ないじゃないですか」

「えぇ〜!?何で歯を抜かなきゃいけないの?」

「何でって……、さっき詩子が言ったから……」

「あぁ、あれね。あれは待合室でおばさんが、人の枝毛を見て『こりゃもう、抜かなきゃどうしようもない』って言ったのよ。失礼しちゃわない?」

「……紛らわしい話をしないでください」



スパーン!!
















「……私にハリセンを振り回させないでください」

「ひ、人の妄想を垣間見ないでくださいっ!!」



売れそうに無い若手芸人みたいだなぁ……



「で、茜はどう思う?」

「詩子の将来ですか?」

「あぁ」

「……」



深く考え込む茜。



「あ、いやそんな真面目に考え込むような事じゃないけど」

「……面白そうなのを思いつきました」

「おっ?」

「……タクシーの運転手」
















「タクシー」



キキィー!!

バタン



「お客さん、どちらまで?」

「えーと、この先の駅まで。……って、女の運転手さん?」

「珍しいでしょ。お客さん、ちょっと得した気分でしょ?」

「え、まぁ……多少は、な」

「うわぁ〜、やらしぃ〜。明日の新聞に『タクシー乗客、運転手を襲う 折原浩平容疑者逮捕』って載っちゃう〜」

「載るかっ!!……てか何で俺の名前を知ってるんだよ」

「そんな細かいところに突っ込んだらダメだよ〜。所詮は想像なんだから。とりあえず持ち物のカバンに名前が書いてあったからって事にしとこうよ」

「……テキトー」

「あ、折原くん結婚してるんだ〜」

「いきなり客を名前呼びかい。ってだから何で結婚してるって……」

「指輪してるし」

「あ。……うん、確かにしてる」

「こんな夜中に帰ってたら、奥さん怒っちゃうよ〜?」

「ちょっと残業で遅くなっただけだし。ちゃんと連絡もしてる」

「でもお酒の臭いがするけど?」

「そ、そりゃ多少は飲んでるよ。でもこれも上司との付き合いってやつで……」

「あーあ、また週末に山葉堂のワッフルまとめ買いしなくちゃね」

「……って、何で嫁の好物がワッフルって知ってるんだよ」

「女の勘よ」

「……考えるのよそう。どうせ想像だし」




「はーい、とうちゃーく」

「……何かやたら疲れた。いくらだ?」

「3160円でーす」

「……小銭がないなぁ。じゃあ10000円からで」

「はい。ありがとうございました〜」

「うん…………って、ちょっと何発車しようとしてる!!?

「え?」

「お釣りは!?」

「取っておけ?」

「誰もそんなこと言ってねぇ!!」

「つれないなぁ〜。私と折原くんの仲じゃない」

「どー言う仲だよ!」

「あっ、無線だ。こちら6号車でーす。……ふんふん、わっかりました〜!!すぐ行きま〜す」

「……何かご機嫌だな」

「だってお釣りくれる気前のいいお客さんが目の前にいるんだもんね」

「だから誰がそんな事を……」

「それじゃバイバーイ」

「ってコラァ!!行くなぁぁぁ!!」



ブーン……















「嫌だ嫌だ、絶対乗らねぇ!!」

「……浩平のお嫁さんになってました」

「いや、人の妄想を覗き見して赤面しないでください……」



と、澪が一人で俺たちのいるベンチにやってきた。



「お疲れ〜」

『疲れたの』

「……詩子は?」

『ジュース買いに行ったの』

「ほれ、ワッフル。だいぶ冷めちまったけどな」



澪は満面の笑みを浮かべてワッフルを受け取った。



『おいしいの』

「浩平は、まだ食べないんですか?」

「ん、んん……、ちょっとまだ入りそうに無い」

「……食べたくないだけじゃないですか?」

「い、いやそんな事はないぞっ!!」

「……」

「うっ……」



無言で見つめられてるよ……、ある意味睨まれるより怖い。

何か話題を変えねば……



「そ、そうだ澪」

『?』

「詩子って、将来どんな事やったら似合うと思う?」



言われて、考え込む澪。



『難しいの』

「いや、気楽に考えたのでいいから。こんな事やってたら面白そうだな〜てな事でも可」

『面白い事?』



そしてしばらく考え込んだ後……



『思いついたの』

「おおっ、何だ?」



そして返ってきた答えは……



『巫女さん』
















「……いよいよ来週から大学入試か。一応神頼みもしておこう」



パンパン



「よしっ。ん?おみくじがあるな。……ここは一つ、引いてみるか」



「すいませーん、おみくじください」

「はいはい〜、ちょっと待っててね〜」



パサッ



「ん、何この紙?」

「そこに自分の簡単な自己紹介記入してくれるかなぁ?」

「え、おみくじにいるんですか?」

「いらない。私の個人的な趣味」

「は?」

「おみくじ引いた人がどんな人なのかって言うの、やっぱり知りたいからね〜」

「……変わった趣味だな」



書き書き



「え〜と、折原浩平、趣味は夜な夜なフランス人形に向かって会話する事……」

「んなこと書いてねぇよ!!」

「とか書いてたら大吉だったのに」

「って、アンタが決めたらおみくじじゃねぇだろ!?」

「大丈夫大丈夫、おみくじはちゃんと全国共通だから」

「そ、そう……。でも全国共通とか言われたら何かげんなりするな」

「じゃあ、これ振って出て来た棒を渡してくれるかな?」

「うぃ」



カランカラン



「はい」

「え〜と、42番42番……」

「死に番かよ……」

「あー、あったあった。えーとなになに?」

「おい、コラ、読まんでいいから早く渡せよ」

「運勢、大凶。何をやっても裏目にしか出ません。かと言って何もしなくても災難は降りかかってきます」

「って読み上げるなよ!!しかも大凶って……」

「願事、叶うわけがない。待人、もう来ない。恋愛、望み無し。病気、命に関わる……」

「……マヂですか」

「えーと、あとは……学問か。学問、もう一年頑張ろう

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「あー、折原くん泣かない泣かない。ちとせ飴あげるから」

「いらんわ!!」

「そう?おいしいのに。あ、あとそのおみくじ、皆がやってるように木に縛り付けたらダメだからね」

「何故に?」

「君の不幸がみんなに波及しちゃうから」

「……死ねと言う事か?」
















「……その神社には絶対近寄らねぇ」

『何で?』

「間違いなくろくな事がねぇ」




「お〜い!!」



詩子が両手に缶ジュースを持って走ってきた。



「はい、澪ちゃん」

『ありがとうなの』

「それにしても自販機遠い。公園出てからしばらく歩かないといけないし。だからここあんまり人が来ないんだよ」

「公園内に置けばいいのにな」

「ホントにそう。あ、はい、茜」

「……ありがとう」

「ふぅ〜、走ったから余計疲れたわ」



そして、女性3人はそれぞれ手にしたジュースを飲みだした。



「……なぁ、俺のは?」

「え?折原くんも要るんだったの?だったら最初に言ってくれたらよかったのに〜」

「でも茜はジュースが欲しいなんて言ってなかったろ?」

「幼馴染は別。心が繋がってるんだもん。ね〜」



そう言って詩子は茜の肩を抱く。



「……はいはい、どうせ俺は除け者ですよ」

「拗ねなくたっていいじゃない」

「……」



まぁ、いつもどおりの詩子。



「なぁ詩子」

「ん、何?」

「お前って、将来なりたいものとかって、あるのか?」

「将来……、あるよ」

「何だ?」

「えっとねぇ……」
























「みんな、元気〜!?」

ウオォォォォォ〜!!!

「二階席のみんなも、元気にしてる〜!?」

ウオォォォォォ〜!!!

「私は元気だよ〜!!それじゃ、行くよ〜!!」

ウオォォォォォォォォォォ〜!!!



そして『さいたまスーパーアリーナ』内に詩子の歌声が響き渡る。



その様子を、ブラウン管を通じて眺めている俺たち。



「……なぁ、誰がこうなる事を予想できた?」

「……誰も」

『出来なかったの』



あれから5年。詩子はあろうことかスーパーアイドルになっていた。



「これ、明日の分のライブのチケットだけど……」

「……やめときます」

『怖いの』

「……澪、率直すぎ」



ブラウン管からは、詩子の微妙な歌声とファンの大歓声が流れ続けていた。
















劇終







あとがき


どうも〜K9999さん。舞軌内でございます。
リンクも貼ってもらってるのに、SSを送る送ると言い続けてまったくだったので、いい加減送らねばと思い書き上げました。
えーと、今さら『開設記念SS』と言うべきか、『12万ヒットおめでとうSS』と言うべきか分かりませんが……
とりあえずSSです。

まぁ、簡単に言えばバカ話です。
詩子の将来像を浩平が妄想するっていう展開で進んでいくんですが、バカ話です。
一応、設定は茜シナリオなんですが、時期が不明瞭なのは気にしないで下さい(ぉ
詩子も微妙にキャラが変わってる気がするんですが……(汗
とりあえず、私の脳内ではこういうキャラに設定されたと言う事で。

とりあえずSS執筆意欲が戻ってきた今日この頃。
またいずれ、何かの記念だと言って駄文を贈らせていただきます。……多分。
それではこの辺で〜
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