春うららか……ではなく、南出身で北の寒さに滅法弱い祐一は肌寒さ を感じながら小麦粉の入ったボウルを持っていた。

     そして、手早く中に重曹を入れ、塩・砂糖等を入れた後に水を入れ混 ぜる。

     十分に混ぜた後、それを寝かせる。



     もうお分かりだろうが、たいやきの生地をつくっている最中だった。



     カリカリとした食感を出すための重曹。

     作っていてやはりたいやきは生地が命だと散々言われてきたので、も う目隠しでもできるほどのレベルまでスキルを上げていた。



     もちろん祐一は焼かない。

     否、焼けない。



     一度店長が無理矢理に焼かせてみたところ、できたのは金魚焼きだっ た。

     彼が自分は料理音痴だということを改めて確認した時である。











     そして、彼はもう一つの事を知った。











     それは裏表がありすぎる店長の事。




































御代はいくら?

第八話

たいやき屋の悲劇? 体に鞭を打ち集金せよ!』






















    「いらっしゃい! ご注文は!」

    「小豆三つくださいな」

    「はいよ! 相沢くん! 小豆三つ!」

    「はい!」



     店長と同じエプロンをした祐一は焼きあがっているたいやきを手際よ く詰めていく。

     手で掴み取ってもいいといわれているが、客の手前上するわけにはい かないし、如何せん熱い。

     何故かやたらと繁盛するので、ここのたいやき屋は常に焼き立てを提 供できる店なのだ。



    「えーと、小豆三つお待たせしました」

    「ありがとう」



     中年の上品な女性はにっこりと笑うと、袋を受け取り公園を出て行く 。

     その顔はとても嬉しそうだった。



    「……相沢くん、生地……

    「あ、できてます」

    「……合格……

    「あ、ありがとうございます」



     このたいやきの屋台に勤めてはや五日。

     祐一は店長の裏表に嘆息しつつも真面目に働いていた。

     裏表とは何か……それは店長の口調・声の大きさである。



    「すみません、白あん2つ」

    「はい、毎度! 200円だよ!」



     このように客が来ると威勢のいいおっちゃん。

     ほがらかな笑みと、気前のいい親父さんとなる。

     そして、客が去ると……



    「……今日はお客が多いねぇ……

    「そうですね」



     途端に声が小さくなって、ぼそぼそとしか喋らなくなる。

     しかもやたらと圧迫感があり、始めの頃などはこの声だけでびびって いたものだった。



    「名雪の目覚ましもそうだけど……慣れるってことは怖いなぁ」



     祐一はしみじみと語る。

     そう、祐一は店長の変わりぶりにもすでに慣れてしまっていた。

     適応能力が高すぎるのである。

     嘗て眠気を誘うと彼の中で有名だった名雪の肉声入り目覚ましも、今 では眠気を感じない。

     それほどまでに慣れというものは恐ろしい。

     重ねて言うが、彼の適応能力が高すぎるだけではあるが。



    「へぶしょん!」

    「……風邪かね……

    「い、いえ! そんなことありません! きっと誰かに噂されてるんで すよ!」

    「……無理しちゃだめだよ……

    「わかっていますって!」



     店長鋭いですよ、と心の中で付け加える。

     今の彼は体温が38度を超えていて、立派に風邪を引いていた。

     どうやら体の方の適応能力は低いらしい。

     頭もぼーっとするが、彼はバイトを休むわけにはいかず出てきている 。

     もう少しで金が溜まり、あゆにプレゼントを買ってやれるのだ。

     だから少々の病など彼にはどうでも良かった。



    「……相沢くん……

    「あ、はい」

    「……暫く頼むよ……

    「あ、わかりました。何処へ行くんですか?」

    「……お腹痛いから薬局……

    「え? 何か悪いものでも食いましたか?」

    「……相沢くん、仕事……

    「え? え、あ、すみません」



     店長の言葉に祐一は振り向く。

     しかし、その先にはただ噴水が見えるだけだった。

     人がけは見えず、綺麗な噴水だけが公園の中央にドンと立っている。



    「て、店長。お客さんはいませんが……って、店長もいねぇ!」



     再び振り向いた祐一は店長の姿を見失ったことに気づき、叫ぶ。

     店長は祐一を振り切るために嘘をつき、とっとと薬局に向かって歩い ていったのだ。

     まさか祐一が引っ掛かるとは微塵も思っていなかったのは秘密である 。



    「お、俺があんな手に引っ掛かるなんて……やっぱ疲れてるのかなぁ… …」



     自分でも引っ掛かったことを不思議に思いながらも、取り敢えず体調 のせいにしてみた。

     そうでないと、自分が引っ掛かったことが末代まで悔やまれるからで ある。



     客が来そうに無いので、彼はイスに座って一息つく。

     やはり動きすぎたのか体がだるかった。

     考えてみれば、ここ数週間まともに休んだ記憶が無いのだ。

     あゆにプレゼントをしようと思い立ってから、ひたすらに働いてきた 。



     ……金は溜まらなかったが。



     考えてみれば、その祐一が体調を崩さない方がおかしいことである。

     二週間以上に及ぶアルバイトに節約のための栄養の不摂取。

     更には金がたまらない事による精神ストレス。

     繰り返すが、これで体調を崩さない方がおかしいというものだ。



    「はぁ……店長には悪いけど……ちょっと休むか……」



     イスを簡易ベッドにし、その上に横になる。

     少し固いものの、今の彼にはそれで十分だった。

     疲れている肉体には横になるだけで最高の美酒に匹敵するものだ。



    「相沢、加勢に……って、寝てやがる」



     五分後、潤が現れたとき、祐一はすでに夢の住人であった。

     たいやき屋で働き始めたという情報をとある場所から聞いていた潤は 様子見に来たのである。



    「こんな所で寝たら風邪ひくだろうが……やれやれ」



     彼はそう呟くと、寝ている親友に店の奥にあった毛布をかけてやる。

     むろん勝手に拝借してきたものだ。



    「まぁ……オレにも責任の一端があるからなぁ……店番でもやってやる か」



     どうせ疲労で倒れたんだろう、そう結論をつけると、潤は屋台の中に 立つ。

     途中からは半ばというか完全に自分のせいでバイトを首になっていた 親友に少し引け目を感じていたのだ。

     バイト歴が長い潤は、ここの店長とも知り合いだった。

     だから勝手も知っているし、手伝いもできる。

     更にはたいやきを焼く事だってできた。



    「さぁってと、久しぶりにオレの力見せてやるかね」































     祐一は映像を見ていた。

     楽しい楽しい映像。

     大事な人たちが自分の周りで笑っている映像。













     その映像の中で彼は花見をしていた。

     何のことは無い、桜の舞散る季節に全員でした花見の記憶だった。













     秋子の作った弁当で皆で騒いで。

     潤の持ってきた酒で酔っ払った幸せな記憶。













     あの冬には手に入れられないと思っていた映像だった。













     そこには名雪と秋子がいた。

     二人は楽しそうにパンにジャムを塗っていた。













     そこには舞と佐祐理がいた。

     もしゃもしゃと弁当を食べていく舞に話しかけている佐祐理がいた。













     そこには真琴と美汐がいた。

     喋りながら話す真琴に注意している美汐がいた。













     そこには栞と香里、それに潤がいた。

     酒に酔っ払って絡まれている潤に、絡んでいる香里、それに笑ってい る栞がいた。













     どれもこれも自分が欲していた映像だった。













     そこで彼は一人の少女を探す。













     だが、彼女は見つからない。













     四方八方を見るが見つからない。













     好物を出して呼んでも来ない。













     彼は焦りを覚える。













     自分の一番大切な人が見つからない。













     必死に、必死に辺りを探し名前を叫ぶ。













     だが、姿は見えないし、返事も聞こえない。













     だから走った。













     見つかるかは分からない。













     だけどがむしゃらに走った。













     叫びながら。













     愛する人の名前を叫びながら。

















































    「あゆーーーーーーーー!

    「きゃあ!」

    「うおっ!」



     起きたての男の耳に誰かの声が聞こえる。

     男はその声に目を覚まし、寝ぼけた眼で辺りを見回す。

     辺りは普通だった。

     あの走っている映像ではなかった。



    「ゆ、夢か……心臓に悪い……」

    「こっちの方が心臓に悪いわよ!」

    「ん?」



     あの映像が夢であることに安堵を覚えた祐一は自分の傍で尻餅をつい ている女性を発見した。

     その女性は握りこぶしで怒っていた。



    「香里……? なんでここに?」

    「あぁ、すまん。オレが呼んだんだ」



     自分以外の男の声に彼は首を動かす。

     そこに居たのはたいやきを慣れた手つきで焼いている自分の親友の姿 だった。



    「北川……何やってんだ?」

    「何をやってるとは酷い言葉だな、寝ていた親友のために店番をしてや っているというのに」

    「いや、それはありがたいんだが……俺って、寝てたのか?」

    「ええ、それはもうぐっすりと寝てたわよ」



     少し棘を入れた香里の言葉に祐一は身構える。

     今にでも殴られそうな雰囲気であったからだ。



    「美坂はお前を看病してたんだよ、熱があるのにバイトなんかするんじ ゃねぇよ」

    「そうよ。取り敢えず薬飲ませてあげたから、今は休んでおきなさい」

    「薬……? 俺は薬なんて持ってたか? それにどうやって飲ませたん だ?」



     祐一は疑問に思ったことを口に出す。

     もちろん彼は薬など持って来てないし、寝ている自分にどうやって薬 を飲ませたのかも非常に気になるところだった。



    「薬なら井川のおっちゃんが持ってきてくれたぞ」

    「井川のおっちゃん?」

    「ああ、お前は知らないか。ここの店長だ」

    「そうなのか……ってなんで店長が?」

    「おっちゃん勘がいいからな、お前が風邪引いてたことなんてわかって だろうよ。
     んで、あの人のことだから腹が痛いとか言って薬局に行くとか言わな かったか?」

    「……あ」



     そこで祐一は、店長が確かに腹が痛いといって薬局に行った姿を思い 出した。

     店長はいち早く祐一の不調に気づき、彼の体調を心配した。

     あれは祐一を歩かせるのは辛いだろうと判断し、風邪薬を買いに行っ ていたのだ。



    「全く誰かさんに似ておっちゃんは照れ――がっ!」



     笑ったまま祐一の方を向いた潤の顔に黒い物体が飛来し、小気味良い 音を立てて潤は沈没した。



    「……余計なことは言わないよう に……

    「おっちゃん! フライパン投げるなよ!」

    「……………」

    「いえ、冗談です。さぁって、仕事仕事!」



     再び黒い物体一号さんが店長の手に握られたのを確認した潤は振り返 りたいやきを焼き始める。

     人は辞めてないので、わざわざ痛い目なんかに会いたくは無かった。



    「んで、どうやって薬を飲ませたんだ?」

    「ああ、それはあたしが鼻をつまんで、口をあけ――」

    「もういいです」



     解けていない疑問を口に出したが香里の答えにより口を紡ぐ。

     その先が容易に予想できたのだ。



    「――てね、薬を入れて水を流し込んだわけよ」

    「いいって言ったじゃないか! それに殺す気か!」

    「知らないわよ。あたしは言いたかったんだから」

    「……性悪女

    「何か言ったかしら?」

    「なんでもないです」



     性悪女という言葉と共に香里からどす黒いオーラが巻き上がったのを 見て、祐一は寝たまま話をはぐらかす。

     そして、あの小さい声で聞こえた香里に対して恐怖を覚える。

     祐一の頭には香里は地獄耳という項目が追加された瞬間だった。



    「……相沢くん、大丈夫かね……

    「え、あ、はい! いけます!」



     こちらを心配そうに見下ろす店長に、祐一は起き上がり胸を叩いて返 事を返す。

     まだ少々きつかったものの、薬のおかげか楽になったもの事実だった 。



    「……じゃあ生地作ってもらおう か……

    「わかりました!」









































     栗色の髪にカチューシャをつけた少女が嬉しそうに商店街を歩いてい る。

     手には天使のバックではなく、小さなバックを持ち、今にもスキップ をせんばかりの足の動き。

     どれだけ上機嫌かは端から見てもすぐに分かるだろう。



    「えへへ……嬉しいよ」



     幸せそうな声を出して少女は歩んでいく。

     その嬉しそうな顔は見た者を幸福にさせるかもしれないような笑顔だ った。



     そして、彼女が喜んでいる理由は、大好きなたいやきが食べられると いうこと。

     自分の居候している家の家主から少量の金を貰ったのだ。

     彼女は今まで丁重に断っていたのだが、私の子どもですよ、という言 葉に逆らえようはずも無かった。



     少しも金を貰うことに乗り気ではなかったのだが、実際にもらえたら 話は別である。

     もう何日も金の不足で買い食いなどしていないので、大好物のたいや きを食べられるのは幸せだった。



     それに彼女にはもう一つ目的がある。

     それは焼きたてのたいやきを祐一と共に食べるということだ。

     自分がたいやきを持って、彼に少し我侭を言えば話をしてくれるに決 まっていると彼女は考えたのだ。

     そして、たいやきは二人の思い出の品。

     コレだけの条件を揃えれば、話をしてくれるに決まっているという結 論だった。



    「うん、完璧な作戦だよ」



     あゆは拳を握り締めると、自分がいつも行っているたいやき屋の屋台 へと歩みを進める。

     いつも歩きなれている道を歩き、見慣れている風景を見る。

     期待に胸を膨らませている彼女には、そんなものでも心をときめかせ た。



    「おじさ〜ん、たいや……」



     曲がり角を曲がって、開口一番に久しぶりの挨拶と注文をしようとし た彼女の目に映ったもの。





















     それは自分ではない女性と楽しそうに話している祐一の姿だった。





















    「……そうだよね……ボクなんかじゃ名雪さんには勝てないよね……」



     公園の入り口で立ち尽くしたままあゆは呟く。



    「ボク子どもっぽいもんね……名雪さんは大人で格好いいもん……」



     視界が歪む。

     涙が流れていることは彼女にもわかった。



     哀しかった。

     そして、理解した。



     やっぱり自分は避けられていたのだと。

     視線の先には楽しそうに笑っている祐一がいる。

     最近自分の前には見せてくれない表情の祐一がいた。

     そして、祐一の周りには楽しそうに笑っている皆がいた。

     自分は、あの輪の中にいないことが……元々いられないことを知って いた。

     学校にも行っていない、血を分けた肉親すらいない。

     あゆはそれで引け目を感じていたのだから。



     特に学校に行っていないということは彼女にはもの凄い負い目だった 。

     流行にも詳しくない、友達も増やすこともできない。

     そんな自分を取り合ってくれる祐一の事は嬉しかったし、同時に哀し かった。

     彼女は自分が祐一には相応しくないと思っていたから。

     自分より魅力的な人は、祐一の周りに一杯いた。

     今、目の前で行われている事がその証明だと彼女は考えていたから。



    「そうだよね……ボクなんか……ボクなんか」

    「あゆさん? そのような所でなにしてるんですか?」



     突然の後ろからの声にあゆは振り向く。

     その衝撃で目から涙が零れ落ちた。



    「……栞ちゃん?」

    「どうしたんですか? なんで泣いてるんですか?」

    「な、なんでもないよ! こ、転んだだけだもん!」

    「あ、あゆさん」

    「なんでもないから……なんでもないから!」

    「ちょ、ちょっと! あゆさん!」



     目から涙を流しながら走るあゆを……栞は呆然と見つめていた。











































    「祐一さん!」     「うん? なんだ、栞じゃないか? どうしたんだ?」

    「どうしたんだ、じゃありません! あゆさんに何をしたのですか!」

    「ちょ、ちょっとまて栞。話が分からないぞ!」



     走ってきたかと思いきや、いきなり食って掛かってきた栞に驚きなが ら声を出す祐一。

     彼には彼女が何故怒っているのかなどがまったくわからなかった。



    「そうだぜ、栞ちゃん。ちょっと落ち着いて」

    「そうだよ、落ち着いて」

    「落ち着きなさい。何を言いたいのかがわからないわよ」



     息を荒げながら叫ぶ栞に周りの者たちは落ち着くように薦める。

     だが、栞はそれを聞くと……



    「落ち着いてなんかいられません!」



     と力の限り叫んだ。

     その声は公園中に響き渡り、近くにいた名雪は耳を押さえ苦しんでい る。



    「答えてください! あゆさんに何をしたんですか!」

    「ま、待て話がわからん! 俺はあゆに何もしてないぞ」

    「嘘をつかないでください! じゃあ、なんであゆさんは泣いていたん ですか!」

    「あゆが……泣いていた……?」



     そんなバカな、と彼は心で付け加える。

     そして、彼はあゆに何かしたのかを頭を捻る。

     栞がここまで強い言ってくるということは、あゆが泣いていたことは 真実だと彼は思っていた。

     だが、思い出そうとしても彼はあゆに何かをした記憶は無かった。

     何もした記憶が無いのだ。



    「本当にあゆが泣いていたのか……?」

    「そうです! 何をしたんですか!」

    「俺は何もしてない!」



     バンと大きな音を立て、祐一の手にあった板が悲鳴を上げる。

     風邪の熱のせいで体調が悪かったし、何よりもあゆのためにバイトを しているのに自分のせいにされるのが腹が立って仕方がなかった。



    「そんなものじゃ騙されません! 何をしたのですか!」



     祐一の行動に怯えもせず栞は食って掛かる。

     彼女らしからぬ行動だった。



    「何もしていないと言ってるじゃないか!」

    「騙されません! 絶対に何かしたに決まってます!」

    「――っ! 栞!」



     ただでさえ風邪で体調と共に精神も安定していない祐一の感情のダム は決壊した。

     あゆのために働いている自分に責任を問われることで、彼の怒りは頂 点に達したのだ。

     祐一は拳を握り締め、栞に踊りかかろうとした。



    「相沢! 落ち着かないか! 何をする気だ!」

    「離せ北川!」

    「ちっ! 相沢のヤツ完全に頭に血が昇ってやがる! 美坂、水瀬、栞 ちゃんのほうを頼む!」

    「わかったわ」

    「わかったよ」



     祐一が踊りかかったショックで腰が抜けた栞を香里と名雪が助け出す 。

     栞は恐怖で震えていた。

     あそこまで怒りという感情をむき出しにした祐一は見たことがなかっ たから。



    「離せ! 北川!」

    「落ち着かないか! 今、お前が考えるのはなんで月宮さんが泣いてい るかだろうが!」

    「黙れ! 俺は今――」









     ――パシン









    「落ち着いたかね、相沢くん」

    「店長……何を……」

    「もう少し冷静になりなさい。君はあゆちゃんのためにアルバイトをし ていたんだろ?」

    「あ……はい」



     いつもとは全然違う店長の毅然とした態度に祐一は毒気を抜かれてい った。

     それを感じた潤は、手を放し祐一を解放する。



    「相沢くん、君は自分が何をしていたのかをもう一度考えてみなさい。 よく考えなさい」

    「あ……はい」



     店長の一撃により完全に毒気を抜かれた祐一は胸に手を当て考えてみ る。

     今の彼には店長が自分の叔母のように見えた。

     それほどにいつもの店長とは違っていた。



     そして、祐一は考え始めた。

     自分が何をしたのか。

     したくは無かったが自分が原因と決め付けて考えてみた。

     だが、何も思い浮かばない。

     当然である、何もしていないのだから。



    「わかりません……俺は何もしてないんです」



     答えにたどり着かない祐一は店長に助けを求める。

     彼は本当にわからなかった。



    「ねぇ、祐一」

    「なんだ、名雪?」

    「何もしてないの? 本当に? 何もしてないの?」

    「ああ、何もしてない。何もしてないんだ……」



     繰り返す名雪の言葉に再び少し苛立ちを覚えながら祐一は返す。

     彼は何もしていないのだ。

     そう、何もしていない。



    「祐一……それがいけないんだよ」

    「何がだ? 何がいけないんだ?」



     名雪の言葉が分からずに祐一は困惑する。



    「……じゃあ、あゆちゃんと話してる?」

    「……え?」

    「あゆちゃんとお話してあげてる? あゆちゃんと一緒にいてあげた?  答えて」

    「……あ……」



     祐一は名雪の言葉にそれ以上何も言えなかった。

     彼はたったいま理解した。

     過去を振り返るまでも無かった。

     彼は何もしていなかったのだから……

     一緒にいることはおろか、話をした記憶すらなかったから。



    「栞……ごめん」



     全てを悟った祐一は素直に頭を下げて、謝罪の言葉を栞にかけた。

     先ほどは栞に怖い思いをさせてしまった上に、それは全て自分の間違 いだったのだから。



    「祐一さん、もういいですし、それを言うのはもう一人居ますよ」

    「……そうだな。ありがとう」



     自分が悪かったのに怒るどころか笑ってくれた栞に感謝の言葉をかけ ながら、彼は走り出そうとする。

     今は一分でも早くあゆを探しに行きたかった。

     すぐにでも謝罪の言葉をかけたかった。



    「相沢くん、待ちなさい」

    「……なんですか?」

    「忘れ物だよ」



     店長が投げたものを祐一は受け取る。

     それは封筒だった。

     ずっしりとした重みを感じる封筒。



    「これは……」

    「バイト代だよ、持っていきなさい」

    「……ありがとうございます!」



     店長にお礼の言葉をかけると、祐一は一目散に走っていった。











     手には金の入った封筒を持って。











     ただひたすらに走っていった。











































決算

  目標額                        35,000

  所持金                        24,100

  収入                             不明

  支出                              0

  結果                             不明

  目標差額                           不明




























































後書き

T:えっと、お待たせしました第八話!

T;話が変で長すぎる八話!

T;ごめんなさぁっぁぁぁぁぁい!

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