喫茶店。

     それはたびたび恋人達や社会人などが使うところ。

     まぁ、高校生も使うという事もあるにはあるところだ。





     その喫茶店と呼ばれる場所に二人の男がなにやら忙しく動いている。





     だが、その格好を見れば仕事では無い事は確かだろう。





     従業員の制服を着ているものの、持っているものが絶対に違うのだ。













    「北川、準備できたか?」

    「もちろんだ!」

















     彼らが用意していたのは……とても大きな丸いものだった。




































御代はいくら?

第六話

百花屋の舌戦? 詭弁を弄し集金せよ!』






















    「さぁ、やってきました!」



     用意が終わったのだろう、百花屋の制服を着た潤が客席に向かって大声で叫ぶ。



    「待ってました!」



     その潤の言葉に客席に座っていた者達が拍手で迎える。

     学校が終わる放課後というある意味中途半端な時間にコレだけの客が入っていることは稀である。

     この客達は全員が全員あることを楽しみにしてきているのだ。



    「はいよ! やってきました! 恒例のビンゴ大会!」

    「おいおい、待て! 恒例っても三日前からじゃないか!」

    「そんな細かいことは気にするな! お客さんが待っているだろう!」

    「細かくないって!」

    「なんだと! そんなこと気にしてお客様を困らせるヤツはこうだ!」



     何の前触れも無く潤の横にいた男がストレートを繰り出し、潤の頬をとらえる。

     その攻撃を受けた潤は、ありえない方向にありえない速度で飛んでいく。

     何処の誰が殴られた方向と直角に飛んでいくだろうか。

     しかも、その先には何故か桶が山積みされており、やかましい音を立てながら崩れ落ちていく。

     喫茶店に桶……絶対にありえないモノである。



    「さて、邪魔者は沈黙させたので、お楽しみのビンゴぉおおお!」

    「いえぇぇぇい!」



     潤を一撃で静めた男――相沢祐一は客席に向かって叫ぶ。

     ノリのいい客と隣に立っている潤がそれにノル。



    「って、いつの間に!」

    「ふっ、甘いぞ。この程度の攻撃ならば二秒で復活だ」



     思わずツッコミを入れる祐一に潤は笑って返す。

     いつも香里からくらっている攻撃に比べれば、冗談の一撃などさしたるものではなかったし、
     これは仕掛けなので、派手にふっとんだ振りをしただけである。

     桶も最初から仕掛けているものである。



    「まぁ、それは置いておいて。お待ちかね! 行きます!」

    「今日は二人でフルパワー! オラオラオラオラオラ!」



     ギシギシと玉が入れられた箱が悲鳴を上げるが、二人の手は緩まない。

     寧ろ、強くなっていく。

     本当に壊れそうかという時に、一つの玉が転がりおちた。

     青く、綺麗な玉で番号が刻まれている。



    「おっ! 今日のラッキーナンバーは!」

    「なんだよ! もったいぶらずに早く言いやがれ! 相沢!」

    「ええぃ! 黙れ北川! えっと、7番テーブルの方おめでとうございます! 本日は――」

    「うん? ちょっとまて相沢。ここにも玉が転がってるぞ?」

    「おお、本当だ。いやぁ珍しいな、で何番?」

    「38だ」

    「おいおい、誰だよ。ここは20番までしかねぇぞ!」

    「まぁ、いいじゃねぇか! ここはオレの独断と偏見で13番な」

    「おいおい! 二つもサービスか? 俺が店長から殺されちまう!」

    「まぁ、落ち着け。ここは両方とも足せばいいじゃないか」

    「おぉ! 頭いいな、北川!」

    「とゆーわけで!」



     そこで二人は大きく息を吸い、これまた大きな声で叫んだ。



    「20番テーブルのお客様! 本日は10%オフです!」



     祐一はダッシュして、20番テーブルのお客に10%オフと書かれた紙を渡す。

     知る人ぞ知る紛れも無い百花屋の割引券である。

     ちなみに当日のみ有効。

     その間に潤は道具を片付けていく。

     実に手慣れた行為であり、二分も経たずに全てが元通りになった。



    「それでは! またのお越しを!」



     優雅に一礼すると、二人は引っ込んでいく。











     二人がいなくなった客席は再び喧騒に包まれる。





















     イベントは終わったのだ。





























































    「おーい、北川。コレどうするんだっけ?」

    「洗うんだよ」

    「これは?」

    「洗うんだ」

    「……これもか?」

    「洗うんだ」

    「まじか?」

    「まじだ」

    「……はぁ」

    「溜め息を漏らすな、さっさとやるぞ」

    「……おう」



     元気なく呟く祐一の前には山積みされた皿、皿、皿。

     その山を見るだけで溜め息を吐くのは間違いでは無い。

     これだけ全部を二人で洗わなければならないのだ。



    「なぁ、北川ぁ……」

    「文句を言うな。黙ってやれ」

    「はぁ……」



     祐一が溜め息を再び吐いたのは当然のことだ。

     再び目の前に皿が追加されたのだから。

     潤のコネで百花屋のバイトを始めてはや三日。

     二人の仕事は基本的には皿洗いであった。

     時給は800円で放課後からの勤務となり、潤の分の50%は祐一に還元される。

     香里のせいで前回のバイト先の店長が修行のたびに出てしまったので、潤なりの責任の取り方だった。

     これで祐一の時給は1200円となり、一週間も働けば余裕で溜まるという計算だった。

     一週間連続で働けるということは普通無いが、これもまた潤のコネの力であった。

     コネ、別名パイプというものは実に恐ろしいものである。



    「おーい、北川君。客席の方にでてくれないかい?」

    「は? 私がですか?」

    「ああ、人手が少ないんでね。今日は相川君が休んでいてね」

    「はぁ、わかりました。じゃあ、今いきますね」



     店長に呼ばれ、走っていく潤を恨めしそうな目でにらみつける影が一つ。

     紛れもなく祐一である。



    「き、北川のやろう……いくらコネがあるからって……ひでぇ」



     そうだよな、コネがあるし信頼度が違うモンな……と呟きながら再び皿を洗う。

     三日間連続で洗って、赤くなった手の痛み堪えながら。

     祐一は店長がタダ単に近かったから潤を呼んだということに気づくことはなかった。





















































    「やれやれ、相沢には悪い事したなぁ……」



     でも店長の命令じゃ仕方ねぇか、と小さく漏らしながら潤はテキパキと注文を取っていく。

     嘗てここで働いていたことがあるので、勝手もわかっているし、メニューも全て記憶している。

     彼は何故自分がこんなことに物覚えがいいのかがわからないが、その記憶力を勉強にいかせないのが彼の悩みである。



    「あ、すみませーん」

    「あ、はいはい」



     一つ前のテーブルからの声に考えていたことを途中で放棄し、潤は注文を取りに向かう。

     そこには見覚えのある制服を着た見覚えのある女性が二人……いや、三人座っていた。



    「あの……」

    「で、これを厨房に届けて……」

    「ちゅうもんを……」

    「えっと、お冷の追加しないとな。全くオレもとんだところで抜けてるもんだ! いやぁ〜急がないとをぉおおお!」



     その集団を無視してスルーしようとしていた潤は襟首を掴まれて叫び声を上げる。

     何の心当たりも無ければ、今すぐにでも振りほどいて逃げ出したいところだが、生憎と彼には心当たりがありすぎた。



    「え、えと、お客様。お手を放してくださいますと……」

    「いつまで猿芝居する気かしら? 続ける気なら一週間ほど口をきいてあげないけど?」

    「はい! すみませんでした! 美坂さん、ご注文をどうぞ!」

    「よろしい」



     香里の目の奥に危険な光と口をきかないといった最終兵器をだされた潤は卑屈に応じる。

     彼にとって香里と口をきけないということは、死にも値する行為なのだ。

     そう、やたらと見覚えのある三人組……それは香里と名雪、それに栞だった。



    「あ、やっぱり北川さんでしたか」

    「わ、北川くんだったんだ。びっくり」



     何か嬉しそうな声で喋る栞に、全く驚いたように聞こえない名雪。



    「で、北川くんはなんでこんなところにいるのかしら?」

    「え、えっと……今度の文化祭の練習で」

    「へぇ、文化祭の練習? 随分と熱心ね」

    「だ、だろ! 今度は喫茶店をやろうと思ってたからな!」

    「それはそれはいい案ね。それで?」

    「それで、ウェイターの練習をしようとだな!」

    「ちなみに文化祭は――」

    「わ、びっくり。今度の文化祭って内は喫茶店やるんだ」

    「…………」

    「…………」

    「……あれ? どうしたの?」



     場の流れを全く考えていない名雪の発言によって、フリーズした潤と香里は暫し互いを正面から見詰め合う。

     二人の目は『水瀬さんだしな』『名雪だから』

     『気にしないですすめる』と言っていた。



    「それで、なんで北川さんはこんなところにいるんですか?」

    「え、えっと……それはだなぁ……」

    「バイトに決まってるじゃない」

    「あ、やっぱりそうなんですか! もしかしてお姉ちゃんへのプレゼントのためだとか?」

    「こ、こら栞!」

    「あーお姉ちゃん顔が真っ赤です〜。図星ですね〜」

    「し、栞といってもこれ以上からかうと怒るわよ!」

    「じょ、冗談ですから!」



     栞は自分の言葉に顔を赤らめる香里の攻撃に手を上げて降参する。

     目は口ほどにものを言う……ではなく、顔は口ほどにものを言うであった。

     祐一に『香里ほど色恋沙汰で顔に出やすいやつはいない』と称されているだけはある。

     ちなみに栞の言葉を聞いて、しまった! オレもそうすりゃ良かった! と心の中で叫んだ男がいたとか。



    「んで、それで結局なんでバイトしてるのよ」

    「まぁ、付き合いというか……なんというか」

    「……ひょっとして相沢くんがらみ?」

    「ま、まぁその通りだ」

    「え? 祐一さんバイトなんかしてたんですか? 知ってましたか、名雪さん?」

    「え? ごめん聞いて無かったよ……栞ちゃんもう一度言ってくれる?」



     栞の上げた疑問の声に二人は固まる。

     そう……二人は固く口止めされていたのだ。

     決して名雪だけにはいわないでくれと。

     別に名雪が金を食うからではない。

     というか、寧ろ、祐一の知り合いは誰も金を食わない。

     問題は、名雪の口の恐るべき軽さだった。

     何せ、一緒に住んでいるということを臆面もなく堂々とクラスメートに喋った人間である。

     祐一がアルバイトをしているということが知られた日には全員に広まってしまうだろう。



    「いいですよ。祐一さんがアル――

    「コールの取りすぎで酔っ払ってな、後始末が大変だったんだよな? なぁ、美坂!」

    「え、ええ! 相沢くんたら飲めもしないのに御酒なんてのむから!」

    「御酒は二十歳になってからだよ〜祐一」



     名雪の勘違い発言を訊き、誤魔化せたと悟った二人は溜め息を吐く。

     第一の難関を乗り越えたのだ。

     そして、二人の顔には安堵が浮かんでいた。

     ……一秒後には音を立てて瓦解したが。



    「えぅ〜邪魔しないでください〜。えとですね、実は祐一さんがここでバ――

    「ットを振り回して暴れたことがあったんだよ! アレにはびびったよな、美坂!」

    「え、ええ! 御酒で酔っ払った相沢くんがバットを持って暴れたのよ! アレには驚いたわ」

    「う〜祐一って酒乱だったんだ〜」



     今度は第二の関門を乗り越え、二人は更に溜め息を吐く。

     何せ、いろんなところをたらいまわしにされてきた――しざるをえなかった――ので、ここのバイトまでなくすと後がない。

     というか、名雪にバレてもアルバイトをなくすことにはならないのだが、何故か今の二人の頭にはバレる=首の方程式が成り立っていた。



    「お姉ちゃん……恨みでもあるんですか?」

    「い、いや! こ、これは違うのよ!」

    「もういいです! えとですね、名雪さん。祐一さんはお――

    「もいでを作るためにここでバイトしてるんだよ! なぁ、美坂!」

    「え、ええ! こんなお店でわざわざバイトして思い出を作ろうとしてるのよ! って、北川君!」

    「はっ! しまった! 口が滑った!」



     思わず口を押さえて叫ぶ潤に、香里がフォローを入れるべく動こうとするも、今回ばかりは名雪は勘違いしてくれなかった。

     二人の『勘違いしてくれオーラ』は無駄にその場に漂っただけであった。



    「わ、祐一ってバイトしてたんだ。びっくりだよ」

    「はぁ……名雪誰にもいわないって約束できる?」

    「当然だよ〜」

    「相沢くんがバイトしてる目的は――」

    「ふんふん」



     バレてしまっては仕方がないと早々に悟った香里は被害減少のための行動を開始する。

     何故祐一がバイトをしようとしているのかに始まり、何故隠そうとしていたのかでしめる。







     これもこれも祐一を考えての行動だったのだが……今までの会話を全て店長に聞かれていたとは思わなかっただろう。

     そう、でたらめな話を店長にきかれていたのである。







     つまり――

















    「相沢くんは酒乱で、バットを振り回して、挙句の果てに私の店をこんなもの呼ばわりしてバイトしていたのか……許せんな」

















     となるわけである。

















     最後がとってもとっても余計だった。

















     ついでに店長は潤の事を信用していた。

















     つまり、その恋人のような香里の発言も信用している、それはもう完全に。

















































    「きたぐぁぁぁああああああああ!」

    『ゆ、ゆるせぇ! オレが悪かった!』

    「どうするんだよ! 今回俺何もしてねぇのに、首だぞ! 説明しろぉ!」

    『お、落ち着け! バイト代一切入らなかったのは、置いておいて落ち着け!』

    「俺の三日間のあかぎれ生活をかえせぇぇぇえええ!」

    『う、埋め合わせはするから! 絶対だ!』

    「早く次を探しといてくれよ! もう時間がないんだ!」

    『あ、ああ! まかせろ!』

    「頼んだぞ! まじだぞ!」

    『わ、わかった!』

    「じゃあな!」

    『………どうすりゃいいんだよ……』

    『もうあいつこの町でバイト……できねぇぞ……』

































決算

  目標額                        35,000

  所持金                        24,100

  収入                              0

  支出                              0

  結果                         24,100

  目標差額                       10,900






































































後書き

T:え、えと……だんだんとつまらなくなってま……すね。

T:えとえと……うわぁっぁあぁぁあああん!(脱兎)

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