色とりどりの綺麗なものが棚に陳列されている。

     その一つ一つには値札はついており、小さなものから大きなものまで様々な種類があった。

     姿かたちは、犬、猫、猿等や恐竜、それになんだかよく分からないものまである。



     そんな中、可愛いといっても間違いは無いエプロンを付けた一人の男が、来店した女性から金を受け取り出口まで案内する。

     その女性の手には、小さな赤い猫のぬいぐるみが入った袋がさげられていた。



    「ありがとうございましたー!」



     男の元気一杯の声が店内に響く。

     頭を下げているので、エプロンがヒラヒラと舞っているが彼はお構い無しである。



    「元気な男の子は見ていていいね。相沢君、次も頼むね」

    「まっかせてください!」



     30歳を超えたくらいの女性の言葉に、彼は胸を叩いて返事をする。

     そして、彼は再びぬいぐるみを整理し始める。

     彼の名を相沢祐一。

     今度はファンシーショップで働き始めた18歳の春。




































御代はいくら?

第三話

先輩との決戦! 贈り物のために集金せよ!』






















    「ふぃ〜ファンシーショップだから危ないかと思ったけど……全然余裕じゃん」



     祐一は軽く空調がきいた店内でぬいぐるみの整理を始める。

     春とはいっても、北のほうなので少しばかり寒い。

     南の出で、春といえども彼にとっては秋ぐらいの寒さであるのだ。

     店長はそんな祐一を気遣って空調をつけていてくれる。

     どれくらい気が回るかは言わずともいいだろう。



    「北川に紹介されたときはびびったが、中々どうしていいじゃねぇか」



     あまり客来ないし、と心の中で付け加えるのを忘れない。

     日給五千円で雇われた一日限りの日曜日の仕事。

     なんでも、正規従業員が急用で来られなくなったらしい。

     そこで、登用されたわけではあるが……はっきり言って客が来ていない。

     祐一にはそれは楽なのではあるが、自分を雇ってわざわざ金を減らす必要もないと思っている。



    「相沢君、少し私は出かけてくるから、店番頼むね」

    「あ、わかりました! お子さんのプレゼントを選んでくるんですよね」

    「こらこら! なんで知ってるの!」

    「あっ、いやぁ……北川からの情報で」

    「北川君かぁ……まぁ、いっか。お願いね」

    「わかっております! 私にお任せを!」

    「じゃあ、行ってくるね」

    「行ってらっしゃいませ!」



     カランカランと小気味の良いベルの音が鳴ると、店長の姿は外へと消えていった。











    「……よっしゃ! 店長いないうちに、店を綺麗にしておくか!」



     誰もいない店の中で、祐一は叫ぶと、雑巾をもって棚の掃除を始める。

     こんな店では清潔感や見た目が重要だからだ。

     ぬいぐるみを一つ一つどけ、丁寧に雑巾をかける。

     その行為を何回も何回もやっている内に、彼はある事に気づいた。



    「……ってか、汚れて無いじゃん!」



     そう、彼の叫び通り埃一つたまっていなかったのだ。

     これは店長と、今日休んでいるバイトの人の努力の結果である。



    「じゃ、じゃあ! 床の掃除を!」



     体を動かしていないと落ち着かないといったある意味社会人が欲しがっている特殊能力を持っている祐一はモップを取りに走る。

     数分後、モップを持ってきた祐一はまたもや愕然とした。



    「ゆ、床が光ってい<るじゃねぇか!」



     普通はモップを取りに行く前に気づくのだが、彼はそんなことはしていない。

     彼の手からの制御を失ったモップが音を立てて光っている床に転がる。

     その床は嫌味なほどに磨かれており、鏡の如くモップを映していた。



    「ば、バカな……お、俺は負けたのか?」



     膝をつき、祐一は天を仰ぐ。



    「神よ! 私に教えてください! 私はどうすれば!」



     手を組み、大げさに叫ぶ。

     彼は気づいてなどいない。

     ここにはツッコミ要員がいないことを。






     少しして、彼はその事実――ツッコミ要員がいないこと――に気づくがその姿を止めない。

     ここまできたら既に意地である。

     もの凄く下らない意地ではあるが。



    「あのー……祐一さん? 何をしているんですか?」

    「ああ、神よぉ!

    「祐一さ〜ん?」

    「私は何を!

    「祐一さ〜ん。起きてますか?」

    「ああああああ! 私はぁ!

    「はぇ〜祐一さん壊れちゃいました……えっと精神病院の電話番号は……」

    「神よぉおおおおおお!

    「えっと、急患です。精神に異常がありまして……場所は……」

    「って、佐祐理さん! 何やってるんですかぁ!



     ひたすらにツッコミを求めていた祐一は、真面目に精神病院に電話を始めた佐祐理の携帯を問答無用に奪い取る。

     そして、切りのボタンを素早くプッシュした。

     本当に来られては困るというか、またバイトを失ってしまうというか、いろいろまずい。



    「あ、祐一さん正気にもどりましたね」

    「じょ、冗談は止めて下さい……し、心臓に悪いですから!」

    「あははーっ、無視されてちょっと佐祐理も嫌でしたから」

    「ちくしょー佐祐理さんも人が悪くなったなー」

    「あはは。そんなことありませんよー」



     実際には繋がれてなかった携帯の電話。

     ツッコミを待つ自分の上を行く攻撃。

     人が悪くなったというか、お茶目になっているのに疑いはないだろう。



    「はぁ……で、それで! なんの御用ですか?」

    「えっと、ぬいぐるみを買いに来たんですよーそうしたら祐一さんがなにかしているところが見えたわけです」

    「あ、そうですか。ぬいぐるみを買いに来たんですね。どんな物が良いですか?」

    「えーと……お馬さんがいいです。これくらいの」



     そう言って佐祐理は両手を広げる。

     可愛いといって間違いの無い笑顔、その行動に祐一はまたしてもダメージを負った。



    「な、なんで俺の周りにはこんなに魅力的な女性が多いんだよ……

    「はぇ? 何かいいましたか?」

    「い、いえ! なんでもありません!」



     ぼそっと呟く祐一の言うことは間違っていない。

     彼の周りにはそれはもう美しい女性が集まっている。

     あゆという自分の愛する人がいても、聖人君子ではない祐一は時折それらの女性に惹かれてしまうのだ。

     もちろんあゆに対する感情とは違うが、それでも彼は他の女性に惹かれてしまう自分を責めてしまう。

     良くも悪くも真面目な人間であるのだ。



    「え、えっと、つまり一メートルぐらいのものですね?」

    「はい」

    「こっちです……って、そういえばなんで佐祐理さんが!」

    「はぇ? 今更何を言っているんですか? さっきからずっと話してましたよ?」



     佐祐理の言うとおり、本当に今更である。

     何をとち狂ったのか、祐一は佐祐理を一般の客と見ていた。

     というか、祐一はそこに佐祐理がいるのを当然だと感じていたのだ。

     ちなみに気づいたのは佐祐理の動作を見てからである。



    「あ、あの……ここで俺が働いていたのいうのは是非内密に……」

    「あははーっ、舞から言われてますからわかってますよー。頑張ってくださいね」

    「あ、はい」



     舞のやつ……黙ってるっていったくせによ、と心の中で毒づく祐一。

     佐祐理さんに何処に行ってたのか訊かれてポロっと漏らしてしまったんだろうな…と祐一は予測するが、まさにその通りである。



    「あ、祐一さん! これ可愛いです」



     そう言って、佐祐理が持ってきたのは茶色のふさふさとした馬のぬいぐるみ。

     背中に鞍がついていて、つぶらな瞳がトレードマークの一品だった。



    「佐祐理さん……ちなみにいくらもってます?」

    「はぇ?」

    「予算のことです」

    「あははーっ、一万円ぐらいですよ」

    「一万円ですか……じゃあ無理です……」

    「はぇ?」

    「それは一万五千円ですから」

    「ふぇ〜残念です……」



     手持ちのお金が少ないことを教えられた佐祐理は、それを元の場所に戻す。

     どこか寂しげに見える後姿であり、少々罪悪感が芽生えてしまうのは仕方がないかもしれない。

     なにせ、とてつもなく残念そうに見えるのだ。



    「さ、佐祐理さん! こっちのは一万円ですよ!」

    「え? どれですか?」

    「ここのです」



     その姿を直視することに耐えられなくなった祐一は一つの棚を指差す。

     そこには先ほどと色が違い鞍が付いていないものの、つぶらな瞳をした馬のぬいぐるみがあった。



    「わぁ〜これも可愛いですねーこれが一万円ですかー?」

    「はい。これは一万円丁度です」

    「あははーっ、色も一杯ありますー……悩みますねー」

    「どうぞ、好きなだけ迷ってください」

    「じゃあ、お言葉に甘えて……」



     祐一の言葉を受けた佐祐理は、一つ一つ丁寧に棚から取り出し、吟味していく。

     一つ一つ手に持っては笑う佐祐理の姿は天使のような錯覚を覚えさせた。

     もちろん、それを見て祐一が頭を横に振ったことは言うまでも無い。











    「あの……すみません」

    「あ、はい」



     突然の後ろからの声に、祐一は振り返る。

     そこには小さな女の子がたっていた。    

     小さな女の子は、実は数分前からそこに立っていたのだが、中々話しかけることができなかったのである。

     ただでさえ、知らない男の人に話しかけることは難しいのに、その上楽しそうに喋っているのを邪魔するということができるはずもなかった。



    「どうしたの? 小さなお嬢ちゃん」



     言葉の主がまだ小さな子どもだと知った祐一は口調をかえる。

     元来子ども好きなので、扱いには慣れているし、固い言葉を使う必要はない。

     寧ろ、固い言葉を使えば拒絶させられてしまう。

     柔らかい感じと、笑顔を見せることが必須条件である。



    「これ……ください」



     そう言って差し出されたのは、小さなうさぎのぬいぐるみだった。

     赤い目とふさふさの耳が特徴的である。



    「千円になるけど、いいかな?」

    「えっと……これだけしかないです……」



     小さな女の子の手に握られていたのは一枚の五百円玉。

     その他にはなにも握られていなかった。



    「……買えませんよね?」



     その女の子は祐一の方を見上げる。

     その顔は寂しさというのだろうか……そういう表情だった。

     祐一はその顔に見覚えがあった。

     どうしても欲しいの物があるのに、何もできないときの顔。

     しかもその欲しいものは私情を挟んだものでなく、人のためになにか欲しい時の顔だった。



    「っと、そうだお嬢ちゃん。実はそれって五百円なんだよ。買うかい?」

    「え、でも……」

    「ほら、ここにちゃんと値札がついてるでしょ? 五百円って」

    「さっきは千円って……」

    「お兄ちゃんの見間違いさ。お兄ちゃんここに来るの初めてなんだ。だから間違えたんだよ」

    「……そう…なの?」

    「ああ、そうさ。買いますか?」

    「じゃあ……ください!」

    「はい、ありがとうね」

    「お兄ちゃんありがとう!」

    「こっちもありがとう」



     小さな女の子は、買ったばかりのウサギのぬいぐるみを大事に抱えてドアを出て行く。

     その姿を祐一は見送った。

     もちろん値札などは嘘。

     たまたまちかくにあったものを貼り付けただけである。

     そして、そっとレジに自分の財布から五百円玉を取り出しいれる。

     我ながら損な性格だと思いながらも、止められなかった。

     自分の愛する女性が重なっては、止められようはずもない。

     そう、あの奇跡が起こったときのあゆのことを思えば。



    「消えるわけねぇからな……」

    「あ、祐一さん。これくださいね」

    「あ、はーい!」



















     考えている事を中断し、祐一は佐祐理の元へと走る。



















     今は自分はただのアルバイトの男性だし、あゆは身近にいるから。



















     ただ、失敗点は佐祐理の持っていたぬいぐるみは一万円のものでなかったことに気づかなかったことか……





































    「北川……次……」

    『相沢……お前なぁ……』

    「何も言うな! 何もいわんでくれ!」

    『一日ぐらいはちゃんとこなせよ……』

    「いわないでくれ!」

    『はぁ……明日までに新しいの探しとくな』

    「ありがとう……北川」

































決算

  目標額                        35,000

  所持金                        24,900

  収入                    5,000=5,000

  支出         500(差額)+5000(差額)=5,500

  結果                         24,400

  目標差額                       10,600




































後書き

T:ふぇぇ、三話あがりました♪

T:今回も祐一くんは自滅!

T:さぁ、先を急ぎますね♪

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