騒がしい喧騒の中、水の流れる音が聞こえる。

     丼を水の中にいれ、スポンジに洗剤をたらし丼をこする。

     綺麗になった丼に男の顔はにやけていた。

     そして、男の横には何杯もの丼が積まれている。

     それは彼の戦果の証であった。



    「るんるんるんるんるん♪」



     男は鼻歌を歌いながら、更にスピードを上げる。

     見る見る内に丼の山が出来上がっていった。



    「はははははは! 俺って才能あるかも!」



     その男は手を休めずに叫ぶ。

     たがが皿洗いで調子に乗っている男の名……それを相沢祐一といった。




































御代はいくら?

第二話

牛丼屋の攻防! ただ明日のために集金せよ!』


























    「相沢君! そっちはいいからちょっと頼むよ!」

    「わっかりました! 店長!」



     丼洗いに生きがいを見出そうとしていた祐一に、店長が声をかける。

     言葉が足りないが、祐一は店長の言葉の意味を完全にわかっていた。

     要するに、接客の方を頼むということである。



    「へい! 注文は!」

    「大を一つください」

    「了解!」



     祐一は元気一杯に叫ぶと、品を取りに行く。

     ここは全国チェーン店の牛丼屋。

     彼がアルバイト先として選んだ場所であった。

     そう、祐一が思いついた金の稼ぎ方とは、シンプルにアルバイトだった。

     それをそこら辺のコネが大量にある潤にそれを頼み込み、ここを紹介してもらったのだ。



    「いやぁ〜持つべきものは親友だよな〜」



     本日でアルバイト三日目。

     相当に上手くいっている祐一は、上機嫌だった。

     時給700円で21時から24時までのアルバイト。

     よくもまぁこんな条件で雇ってくれたものだと感動していた。

     そこらへんは潤による手の回しがあったから可能だったわけではあるが。



    「はい、牛丼の大ね!」



     慣れた手つきで牛丼を作った祐一は、それを客に渡す。

     本当に勤めて三日なのだろうかと言いたくなるほどの手際の良さだった。

     相沢祐一18歳。

     やたらと器用な人間である。



    「すみません! 並二つ!」

    「こっちは大を三つね!」

    「はい! わかりました!」



     次々と出される注文に眩しいくらいの笑顔で受ける。

     この人当たりのよさでかなり評判があがっているということは祐一は知らない。

     祐一の人当たりのよさは老若男女問わず受けるのだ。

     注文を受け、再び手際よく牛丼を作成する。

     その腕前と人当たりの良さは店長からも良い評価をうけていたりする。



    「はい、牛丼二つです!」

    「あ、ありがとうございます」

    「こっちは大三つでしたよね!」

    「お、ありがとよ!」



     牛丼屋やファミレスなどではほとんど起こることの無い従業員と客の会話。

     これもまた祐一の人柄であるのかはわからないが、間違いなく店の中の会話は増えていた。



    「…………大盛り、つゆだくで」

    「あいよ! 大盛りつゆだくね!」



     注文を受けた祐一は再び牛丼を作りにいってくる。

     ふたたび手際よくそれを作っていく。

     そこで彼はふと何かよく見たことのある品だということを思い出す。

     そう、もう卒業した自分の学校の先輩がよく食べていたような品。

     大盛り・つゆだく。

     確かに彼女がよく頼む品である。



    「ま、まさか舞がいるわけねぇよな!」



     自分に言い聞かせながら祐一は品を持って運んでいく。

     そして、彼は見てしまった。



     座っていても女性としては高い背。

     艶やかなまとめられた髪の毛。

     何も考えていないようにみえる美人といって然るべき容姿。

     間違いなく自分のメモリーに当てはまる人物だった。



    「へ、へいお待ち!」

    「……ありがとう」



     心なしか震えている声で牛丼を渡し、とっとと引っ込む祐一。



    「うん? どうしたんだ相沢君は?」



     その祐一の姿を見て、疑問の声を上げるのは店長。

     いつも人当たりが良い祐一がそんな行動をするのが珍しくてしようがないのだ。



    「な、ななんで舞が!」



     知り合いにアルバイトしている姿を見ることはイヤである祐一は高まっている心臓を抑えながら呟く。

     考えてみれば牛丼が好きな舞が一人でくるなんてことは十分に考えられたことである。

     あゆのために金を稼ぐことが前提であったので、その可能性などは考えなかったのが原因であろう。

     もっともアルバイトなんだから目撃されるのは普通だと割り切ってはいるが、嫌なものはイヤだ。

    「て、店長! 俺、皿洗いに戻りますね!」

    「ダーメ。君はそっち」

    「うぐぅ、で、でも! 皿洗いがいないと!」

    「ダーメ。君はそっち」



     接客にでるのが嫌な祐一の逃げ場は自然と皿洗いになる。

     しかし、それを申し出た祐一は店長に切って捨てられてしまった。

     店長としても、接客面が上手い祐一を皿洗いに流すことは絶対に拒否する。

     経営には適材適所が重要なのだ。



    「うぐぅ……」



     自分の愛する女性の口癖を言いながら、再び彼は接客へと戻る。

     社会では上の命令こそが絶対。

     アルバイトでは店長こそが絶対。

     拒否することなんぞできるわけがない。



    「どうか舞が気づきませんように! 気づきませんように気づきませんように……」



     接客に戻った祐一は呪詛の言葉のように『気づくな』を連射する。

     それほどまでに見つかるのが嫌だった。

     知り合いがそんなことでからかう人物で無い事はわかっているが、絶対に話題に出ることは間違いがないのだ。

     それに一応これはドッキリ作戦である。

     噂が伝わって、あゆに届くのは阻止しなければならない。



    「……すみません、おかわり」

    「あ、はい」



     きたああああああああ!

     人知れず祐一は心の中で叫ぶ。

     あの舞が一杯で牛丼を満足することがないことは最初からわかっていたので、口調は震えていない。

     そのかわり腕がふるえているが。



    「…………祐一のおごりで」

    「はい、了解しました……ってなにぃ!」

    「祐一……うるさい」

    「な、なんで俺がおごらないといけないんだよ! 不条理じゃねぇか!」

    「……ぽんぽこタヌキさん。不条理じゃない」

    「なに!」

    「祐一が私を無視した」

    「がっ! ばれてたのか!」

    「無視した」

    「うっ」



     ぷくーといった擬音語がよく似合いそうなほどに舞の頬が膨らんでいく。

     子どもっぽい仕草だが、やたらと可愛い。

     ちょっと見とれてしまった祐一は必死に頭を振る。

     自分には愛する女性がいるのに見とれてしまったことを必死に頭を振って否定する。

     なんというかそういう男である。



    「……だから祐一、おごる」

    「勘弁してくれよ、俺がなんでここにいるかわかるだろ?」

    「……なんで?」

    「お、お前なぁ……俺はアルバイトしてるよな?」

    「はちみつクマさん」

    「アルバイトってなんでするとおもう?」

    「お金がいるから」

    「わかったか?」

    「……はちみつクマさん。ごめん、祐一」

    「いや、わかってくれたら嬉しいぜ。それに秘密にしてくれると嬉しいんだけど」

    「はちみつクマさん」



     そう言って、目の前でしょんぼりする舞。

     やはり牛丼を食べたい事に変わりはないのだが、佐祐理の金銭管理が厳しく近頃は牛丼を食べられないのだ。

     まぁ、一ヶ月に15回牛丼を食べに行けば、金銭管理をされても文句はいえないだろう。

     家で作ってあげますという言葉に、お店の方の味も美味しいといわれて食べにいかれては佐祐理もちょっと怒る。



    「よ、よし! じゃあ、賭けをしようじゃないか!」

    「……?」



     その舞を見かねた祐一は賭けを持ち出す。

     賭けの意味がわからずに、舞は首を可愛く傾げる。

     その行為にまたしても祐一が頭を激しく振ったのはここだけの秘密である。



    「今から20分以内に牛丼の大盛りを五杯食べたら支払いは俺が持ってやる!」

    「いいの?」

    「でも、食べられなかったら支払いはお前が持つんだぞ?」

    「……やる」

    「よしきた!」



     暫く考えた後、舞はこくんと頷く。

     それをみた祐一は、賭けの対象となるものを取りに走り、再び舞の元へ帰る。



    「よし! 10分から始めるぞ! 準備はいいな!」

    「はちみつクマさん!」

    「始め!」



















































    「あ、悪夢だ……あ、ありえない」





     目の前で次々と置かれていく丼。



     これほどまでに時間が早く過ぎてくれと祈った時は無かった。



     三つ目の丼が重ねられる。



     時間はまだ10分を回っていなかった。



     いつの間にか集まった野次馬が歓声を上げる。



     また一つ丼が積まれたのだ。



     そして……三分後。



    「ごちそうさま」



     最後の丼が置かれた。

















    「これは夢だァァあああああああああ!

































     その時、牛丼屋で現実を享受できない男の悲鳴が響いたとか。

































































    「北川、新しいバイト……頼む」

    『お、おいおい。まだ一週間とたってねぇじゃねえか!?』

    「お願いだ……頼む……もうあそこにはいけない」

    『な、なにがあったのかは知らんが……まぁ、いっか。ちょっと待てよ』

    「すまないな」

    『よし、適当なの見つけたぞ! 次は……』

















































決算

  目標額                        35,000

  所持金                        25,000

  収入                  600×3×3=4,800

  支出    500×5(昼飯代)+400×6(牛丼代)=4,900

  結果                         24,900

  目標差額                       10,100


































後書き

T:えっと、漸く二話を上げました。

T:お、面白いかな(あせあせ

T:読んでくださった皆様、ありがとうございますね。

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