春…

 別れと出会いの多き季節…

 舞と佐祐理も卒業式を迎え、祐一の通う学校から祐一より一足先に巣立っていった。

 そう舞にとっては…本当の巣立ち…魔物との戦いという夢とも言える世界から抜け、

 現実と言う名の世界に旅たつと言う巣立ち…。










「新しい春」 龍牙作



















祐一 「ふむ、まさか今年度も同じ登校風景とはな。」

佐祐理 「あははーっ、講義は2時間ほど後からなんですけど、舞ったら、祐一さんと会いたいって。」


 ポカ


舞 「そんなこと言ってない。」

佐祐理 「でも顔にそう書いてあったよ。舞。」

祐一 「そうかそうか、そんなに俺に会いたかったのか。かわいいな舞は。」



 ポカ ポカ



舞 「二人とも変なこと言わないで…」

祐一 「お前な、そんな反応してたら、はちみつクマさんと言ったのと同じだぞ。」

佐祐理 「そうですね〜。早く告白したらいいのに。」

祐一 「卒業式でも言ったけどこいつはそういうの疎いからな〜」


 ポカ ポカ


 やや顔を赤らめて祐一と佐祐理を交互にチョップする舞…

 卒業式の光景が新年度が始まってからも行われているようだ。



 巣立ちと言っても…舞にはこの二人が側にいる。

 だが、こうして三人でいる姿こそ、この三人にとっては正しく、そして大事なこと…。



祐一 「ははは、ま、一緒に登校できるのは俺としてもうれしい。
    舞はうれしくないのか?」

舞 「ぽんぽこタヌキさん…」

佐祐理 「すごくうれしいんだよね?」

舞 「……はちみつクマさん。」

祐一 「お、赤くなったぞ。」

佐祐理 「りんごさんですね〜」


 ポカ ポカ


舞 「二人ともうるさい…」


 照れたり、チョップしたりと忙しい舞であった。

 実際、祐一と佐祐理と一緒に過ごすことは舞にとってはなによりもうれしいことなので、

 そこをつかれたらものすごく照れるのも無理はないことかもしれない。

 また新年度から祐一と一緒に登校することが出来ないと思っていた舞としては二重にうれしいのであろう。

 この辺りは祐一と佐祐理の気配りの賜物である。


 ちなみに通行人がこの三人を見たら不思議に思うであろう光景が続いているが、

 やや朝の早い時間帯なため、通行人にはおらず、三人だけの空間が形成されている。

 本人たちにとっては日常の一コマでありつつも、幸せなその時間の中…

 佐祐理はとあることを思い出したらしく、うれしそうな笑顔で何かを話そうとしている。


佐祐理 「あははーっ、舞ったら照ることないのに〜。
      それはそれとして…祐一さん、明日ですね。」

祐一 「は?」

佐祐理 「ふぇ?」


 ちなみに明日から彼らは連休のようなのだが何かあるようだ。

 しかし、祐一は心当たりがないらしく呆けている。

 佐祐理の方は佐祐理のほうで祐一の予想外の反応に戸惑っているようだ。


舞 「祐一…聞いていないの?」


 やや舞も戸惑っているようだ。

 どうやら舞も楽しみにしていたことが明日はあるようで、

 祐一のこの反応は不本意らしい。


祐一 「聞くも何も…何の話だ?」

佐祐理 「旅行ですよ〜。」

舞 「題して……相沢、川澄、倉田、御三家仲良くしましょう企画一泊二日楽しもう旅行……。」

祐一 「ま…舞が冗談を…!? って、んなわけないか…しかし、なんというネーミング…じゃなくて何!?
    明日そんなものが!?」

佐祐理 「ふぇ〜…祐一さん、本当に知らなかったんですね?」

舞 「祐一……何故?」

祐一 「何故ってこっちが聞きたいわい! !? もしやこれを計画したのは?」

佐祐理 「祐一さんのお父様と聞いていますが?」

祐一 「あのくそ親父…俺を驚かせる気で教えなかったな…!」

佐祐理 「あははーっ、面白い方ですものね。祐一さんのお父様は。」

舞 「はちみつクマさん。」

祐一 「面白いと言うか…変人だ。それに海外にいるくせに、全く…。」

舞 「子は親に似る…。」

祐一 「ひ…ひどいぞ! 舞! 俺のどこが変人なんだ!?」

舞 「……なんとなく。」

祐一 「なんだそりゃーー!!」

佐祐理 「あははーっ、でも佐祐理も祐一さんはお父様に似ていると思いますよ。」

祐一 「佐祐理さんまで…うぅ……ぐれてやるーーーーー!!!」


 ポカ


舞 「祐一…ぐれるな。」

祐一 「誰のせいだ!」

舞 「誰のせい…?」

祐一 「……もういいです。」


 なんかもう祐一はどうでもよくなったらしい。

 ちなみに突拍子もないことを考える辺り、祐一と祐一の親はよく似ているように思われる。


佐祐理 「あははーっ、舞の勝ちですね。」

舞 「勝った…。」

祐一 「負けた…。」


 笑顔でジャッジを下す佐祐理、ちょっと得意げな舞、悲壮なまでの敗北感を漂わせている祐一…。

 何の勝負かは分からないが…一つの遊びが行われているのかもしれない。

 天然物の遊びを…


祐一 「………まあ、これくらいにしておくか。何はともあれ、舞と佐祐理さんと旅行できるのはうれしいし…
    それに…」

佐祐理 「三人で一緒に住むのは1年間お互いのことを良く知ってから、祐一さんが大学に入学したら
      許してくれると言うことでしたからね。」

舞 「三人一緒…早く暮らしたい…。」


 三人で一緒に住む…祐一があの冬の終わりに考えたこの夢は実現に向かって動きだしている。

 男女が一緒に住む事、ただそれだけでもいろいろな問題が存在するであろう。

 それは当然のことであり、実現は難しい夢だったが、

 倉田、川澄両家の親は娘の変化がよい方向に向かっていると感じ、

 真剣に彼らの希望を考えてくれ、話は割と良い方向に進んでいるようだ。

 相沢家は、息子への信頼と気配りと…加えて面白そうだからという理由でほぼ賛成しているようだ。

 尤も、何かあればそれ相応の覚悟はしているようであり、そのあたり祐一の親であることがよくわかる。


祐一 「ま、それで俺も今がんばってるわけなんだが……舞…すまんな。もう少し約束を果たすのは待ってくれな。」

舞 「はちみつクマさん…私は大丈夫…祐一を信じている。」

祐一 「こいつめ…かわいいことを言ってくれるな〜」(なでなで)

佐祐理 「舞はかわいいね〜」(なでなで)


 ポカ ポカ


舞 「そんなことない………それに、祐一…私のほうがお姉さん。」


 祐一に頭をなでられたことがやや年上として不本意らしい。

 尤もすごくうれしくはあるのであろうが…

 ちなみに祐一に感化されたのかわからないが…佐祐理も舞のことをなでたりすることがあるようだ。

 こちらは断るに断れないらしく、舞は不問にしている模様。


祐一 「そんなこと言っても………なあ、佐祐理さん。」

佐祐理 「そうですね〜……あ…。」

舞 「佐祐理……どういう意味?」

佐祐理 「あははーっ…」

舞 「佐祐理…。」


   少々舞に気圧されている佐祐理…心なしかいつもの笑顔も引きつっている…。


 舞も祐一への年上として手前からか、やや強気。


祐一 「まあまあ、気にしちゃだめだぞ、舞。舞は俺より年上、年長者何だから心の大きいところを見せてくれ。」

舞 「む……。」


佐祐理 「祐一さん、助かりました〜。」

祐一 「いや…俺がまいた種だし…」

佐祐理 「あははーっ、それもそうですね。」


 彼女としては珍しく感じる舞のプレッシャーから開放された佐祐理はほっとした面持ちで祐一と小声で会話を交わす。

 確かに原因は祐一なので、多少苦笑が含まれているようだが、楽しそうではある。

 この三人の時間はどんな形であれ…舞だけでなく佐祐理にとってもうれしい時間なのであろう。

 さて、そんな朝のひと時ももう終わりのようだ。


祐一 「お、もうここまで来たか…じゃ、俺はこっちだから…。」

佐祐理 「あ、そうですね。では祐一さん。また後で…」

舞 「帰りも一緒…。」

祐一 「ああ…今日こそは俺のほうが早く待ち合わせ場所についてやるぞ!」

佐祐理 「負けませんよ〜〜〜」

舞 「勝負…。」


 といつものごとくお別れのようだ。


 ちなみに帰りも一緒に帰るようだが…さすがに学校前は祐一が恥ずかしいとのことで

 この分岐点で待ち合わせるようだ…ただ、祐一はこの二人よりはやく集合場所に着いたためしがない。

 二人が高校にいたころから同じようなことあったため祐一にとっては一つの謎だった。











 さて、放課後、結局祐一は先にはこれず悔しく思いながら明日からの旅行に話を咲かせつつ帰路についた。


 現在はまだ舞も佐祐理も自宅から大学に通っている。


   そしてここは川澄家。


   舞と舞の母であり、舞に良く似た女性である川澄真弥は明日の準備を行っている。


真弥 「こんなところかしらね。」

舞 「はちみつクマさん。」

真弥 「ふふ…はちみつクマさんか…祐一君って本当に面白い子ね。」


 コクリ

 少し恥ずかしくなったのか、卒業してからはだいぶ慣れた『はちみつクマさん』も言わずに、舞はただ頷く。


真弥 「ふふ…恥ずかしがらなくてもいいのに……さて荷物はこれでOKね……後は…
    舞の服を選ばなくっちゃね。」

舞 「何故…お母さん?」

真弥 「我が娘ながら…本当にこういうことには疎いこと……
    好きな男の子の前にはちゃんとした姿でいたいでしょ。舞。」


 ポカ


真弥 「母親にもチョップするんだものね…この子は……
    祐一君のこと嫌いなの?」

舞 「ぽんぽこタヌキさん…祐一は壮絶に嫌いじゃない…。」

真弥 「レベル上がったわね…そこまで言うなら好きって言えばいいのに…。」


 ポカ


真弥 「やれやれ……ふふ。」


 舞の母、真弥は過去生死をさまよった身ではあるが、舞の力の発現により、すっかり元気になった。

 しかし、その力のために舞が迫害を受けたこと考えると真弥は舞のことを本当に心配していた。

 加えて自分のために使った力が舞を辛い目にあわせていることを考えるとどうにもやるせなかった。

 だからこそ…舞の全てを受け入れてくれる人が現れることを真弥は切に願っていた。

 そして…その受け入れてくれる人物…相沢祐一。

 真弥は彼と、そして親友の倉田佐祐理と舞が末永く仲良くやっていけるよう…

 できる限りのことをしていくつもりのようである。


 そして、母として娘の恋がどうなるかも楽しみにしている。

 今までは心を檻に閉じ込めてしまった娘の恋を…幸せを感じながら見守れる。

 それが普通にできると言う事も彼女にはとてもうれしく感じられるのであろう…

 本当にうれしそうな笑顔である。



真弥 「まあ、明日の朝は結構余裕あるから、ゆっくり考えましょ、舞。」

舞 「……はちみつクマさん。」



 お互いを大切に思っている親子が楽しげに明日へと歩んでいく…。

 お互いが思いあうことは今も昔も変わりない…

 だが、この春から一人の少年のおかげで本当にうれしそうに笑うことが二人とも出来てきたのかもしれない。

 この春は…舞だけでなく…この親子にとっても新しい…そして本当の春とも言うべきものなのかもしれない。








 そして次の日……


 三家族は少し小高い丘で桜のきれいな場所に出かけた。

 相沢夫婦にいたっては今朝、飛行機で飛んできたようで…倉田夫妻をずいぶん驚かせたようである。

 祐一たち三人もその家族も旅行の中で親睦を深めつつ、楽しい時間を過ごしたようだ。

 代議士である倉田氏も、相沢夫婦の独特な調子でずいぶん砕けた様相を見せていた。

 そして初日最後のイベントは……






祐一 「夜桜とは…我が親ながら乙なものを…。」

佐祐理 「あははーっ、そうですね。でもとてもきれいです。夜の桜もいいものなんですね…。」

舞 「きれい…。」

祐一 「企画した当人である大人は酒盛りを始めて…花より団子っぽいけど…。」

佐祐理 「あははーっ…。」

祐一 「むぅ……俺も飲んで…」

舞 「祐一……お酒は二十歳になってから…。」

祐一 「そ…そんな怖い顔しなくても分かってるさ、舞。
    うん、はっはっは。」

舞 「それならいい…」

祐一 「ま…夜見る桜もいいな…やや散り始めてその花びらが月の光に照らされて…
    柄じゃないけどきれいだと正直思うよ。」

佐祐理 「そうですね〜…あ…でも、飲み物とかはいりますね。佐祐理とってきますね。」

祐一 「力仕事は俺が…。」

佐祐理 「あははーっ、祐一さんは舞と一緒にいてあげてください。それじゃあ、ちょっと行ってきますね。」

祐一 「あ、佐祐理さん!?」


 気を利かせたのだろう。佐祐理はそそくさと二人を残して離れていった。


祐一 「行っちゃった……。でも舞と二人残ったからって…なあ……舞………?」



 ふと舞の方を見て祐一は固まってしまった。

 舞はただ桜の散るさまを真剣にきれいだと思いつつ眺めているだけ…

 だが…その様は澄んだ月明かりに照らされ…

 闇夜の中、月の光に照らされ、散り行く花びら、そしてその中心にいる少女…

 かつて祐一が校舎の中で始めて魔物と戦う舞を見たときとある意味似た…

 幻想的な光景が形作られていた…。

 ただあの時とは明らかに違う何かが…

 心に来る衝撃があったが…




舞 「祐一…どうした?」


 声をかけられたことに気付いた舞が祐一の方を振り向いたが、

 祐一は直接は反応せず…ただ…

祐一 「………すごく……綺麗だったぞ…舞。」


 ポカ ポカ ポカ


祐一 「……褒めたのにこれか…?」

舞 「恥ずかしい…。」

祐一 「全く……」


 先ほどは本当に舞の姿に感動すら覚えたのだが…

 チョップが来たことでやっぱり舞かとあきれ半分、安堵半分な気持ちの祐一。

 元々、舞の容姿は美しいと言うに値するものだろう。

 加えてどこか幻想的な雰囲気もある。

 だが、その心根はどこまでも純粋で、照れやだったり、なんだりと幼い子どものままのような心も併せ持っている。

 それはこれまでの剣を持った生き方のみをしてきたから…

 これからは剣を持たない弱い女の子として生きるから…

 祐一はこんな困ったヒロインと自分は佐祐理さんと共にとばっちりを食いながら一緒に生きていくんだなと再確認していた。



祐一 「舞は…舞か…とはいえ、せっかく感動したのにぶち壊されたのだから、これぐらいはさせていただかなくては…」

舞 「?……!? ………むくぅ」



 不思議な理由で舞の口に顔を近づける祐一…。

 舞は最初祐一が何をするか良く分からなかったようであるが…












 ほんのひと時……時間が止まる…












 ポカ ポカ ポカ ポカ ポカ ポカ ポカ ポカ












祐一 「痛いぞ、舞。」

舞 「祐一…ものすごく恥ずかしい…。」

祐一 「うむ。トマトさんだな、舞。」


 ポカ


祐一 「く……くく……。」


 祐一が笑っている間、舞はすっかりすねたようで、そっぽを向いている。




祐一 「舞、俺は舞のこと好きだからな。これからもよろしくな!」



舞 「………祐一のことは……」




 顔を赤くしながらまだ祐一の方は向かず…








舞 「………鮮烈に嫌いじゃないから…。」













 春…



 新たな始まり…



 一人の少女の始まり…



 一つの親子の始まり…



 少年と少女の始まり…



 新しい春…



 それが始まっていく。












-------------------------------------------------------------------------------- あとがき

 こちらでは初めまして、龍牙と申します。K9999さんのHP開設のお祝いと1万ヒットのお祝いに
 遅ればせながら書かせていただきました。

 見ての通りこのお話は舞エンド後のお話です。

 ちなみに舞さんたちの親御さんたちは私の別作品でも使っているオリジナルなものです。

 私はほかにもSSはかいているのですが…舞さんメインは始めてですからうまく書けたかどうか…
 いささか自信ないですが……このようなものでよければ受け取ってください。K9999さん。

 それではK9999さん、HP運営のほうこれから大変かと思いますが頑張ってください。

 微力ながら応援とお力添えをさせていただきます。


 最後にこの作品を読んでくださった方に御礼申し上げます。















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