8/8 乙女祭り










1、『暗黙の』


 真希「七瀬ってさ」
 留美「ん? 何?」
 真希「折原にだけは素で話してるよね」

 ドガシャ

 留美「……い、いきなり何言い出すのよ」
 真希「ううん、なんでもない。自覚はしてるみたいだしね」
 留美「待って! それってどういう……」
 真希「私もいい人見つけたいなぁ」
 留美「人の話を聞けーっ!」






2、『隠蔽された事実』


 真希「七瀬ってさ」
 留美「ん? 何?」
 真希「結局のところ、辛党なの? 甘党なの?」
 留美「……なんでそんなこと訊くのよ?」
 真希「聞いたわよ、クリスマスのデート♪ で、結局折原のチョイスは七瀬にぴったりだったの?」

 ギリッ

 留美「あ、あんの馬鹿ーっ!」
 真希「あ、待ちなさいよ。おーい……まったく、質問にくらい答えなさいよ。足速いんだから……」






3、『できる女』


 真希「七瀬ってさ」
 留美「ん? 何?」
 真希「剣道強いんだって?」

 ズシャ

 真希「……怪我しなかった?」
 留美「あ、あははは……またあいつ? あいつなの!?」
 真希「どうどう。落ち着け、七瀬」
 留美「うぅ……あたしのイメージがぁ」
 真希「そんなに嫌かな? 私は格好いいと思うんだけど」
 留美「そ、そうかな?」
 真希「文武両道って良い響きじゃない? おまけに料理もできるし」
 留美「え? そ、そうかな? えへへ……」
 真希「唯一の欠点は男を見る目か……」
 留美「こらこらこらーっ!」






4、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 入門編』


 留美「嫌よ、そんなの! 絶対嫌!」
 浩平「そっか。まあ無理にとは言わないけどな」
 留美「き、急にしおらしくなってもダメなものはダメだからね!」
 浩平「いや、いいんだ。無理言って悪かったな」
 留美「……で、でも折原がどうしてもって言うんなら」
 浩平「はぁ。長森ならきっと喜んでやってくれたのに」
 留美「(ぶちっ)」

 翌朝

 留美「朝だよ、折原!」
 留美「もう時間ないんだから起きてよ!」
 留美「……」
 留美「……」
 留美「……」
 留美「……本当にやるの?」
 留美「……い、1回だけだからねっ」

 白雪姫は王子様の口付けで目を覚ますのでした。






5、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 基礎編』


 浩平「七瀬!」
 留美「きゃぁ!」
 浩平「好っきやで〜♪」
 留美「んぅ! ちょっ、バカ! どこ触ってるのよ変態!」
 浩平「かっかっか。身体は正直よのう♪」
 留美「いやだって、ばぁ……遅刻しちゃぅ……っ!」
 浩平「今日はサボるぞ」
 留美「だ、だめだよ、そんなとこぉ……じゃなくて、そんなことっ」
 浩平「こんなとき長森ならうだうだ言わずに悶えてくれるのに」
 留美「う、うそばっかり……ひゃんっ」

 赤ずきんちゃんは狼さんに食べられてしまいました。






6、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 初級編』


 浩平「……」
 留美「……」
 浩平「結局サボっちゃったな」
 留美「あんたのせいでしょ…………ばか」
 浩平「まあ、たまにはいいか」
 留美「いいわけないでしょ…………ばか」
 浩平「なあ、七瀬」
 留美「なによ…………ばか」
 浩平「俺のこと好きか?」
 留美「……」
 浩平「……」
 留美「そんなの決まってるじゃない…………ばか」

 シンデレラは王子様と幸せな日々を送ったそうな。






7、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 中級編』


 浩平「腹減ったな」
 留美「何か作ろうか?」
 浩平「悪いな」
 留美「いいわよ、それくらい。あ、エプロン借りてもいい?」
 浩平「だめだ」
 留美「……意地悪言わないで貸してよ。この制服お気に入りなんだってば」
 浩平「代わりにこれを着れば済むだろ?」
 留美「なんであたしがメイド服着なくちゃいけないのよ!」
 浩平「これは住井から譲り受けた新品同然の掘り出し物で……」
 留美「誰も入手ルートなんて聞いてないわっ!」
 浩平「長森なら喜んで御奉仕を……」
 留美「あー、はいはい。わかったわよ! メイド服でも巫女装束でも着てやろうじゃないの!」
 浩平「いや、巫女装束はしとやかで物静かな女性が着ないと無意味だし」
 留美「どーゆー意味っ!?」

 キリギリスは飢え死にする最後の瞬間まで信念を貫いたのかもしれない。






8、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 上級編』


 浩平「お前、メイド服も微妙だな」
 留美「うっさい!」

 働きアリもたまにはストを起こす。






9、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 応用編』


 瑞佳「わぁ!? 七瀬さん、なに言ってるんだよ〜。いくら私でもそんな恥ずかしい真似出来ないよ!」
 留美「折原ぁ!」

 羊を飼ってないウソツキだっているだろう。






10、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 実戦編』


 浩平「大変だ、七瀬! 俺の傘がない!」
 留美「どうするの? 雨、土砂降りよ?」
 浩平「きっと誰かに盗られたんだ!」
 留美「人を疑うのはよくないわ。そもそもあんた傘持ってきてなかったんじゃ……」
 浩平「前振りはともかく俺も入れてくれ」
 留美「……」
 浩平「相合傘だぞ? 乙女だぞ?」
 留美「……」
 浩平「ながも……」
 留美「じゃあ瑞佳に入れてもらったら?」
 浩平「嫌だ。七瀬の傘がいい」
 留美「……どうして?」
 浩平「漢女らしくデカイ傘持ってるから」
 留美「死んでこい!」

 レンガのおうちじゃ話にならない。






11、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 恋愛編』


 浩平「というかだな」
 浩平「長森と自分を必要以上に意識してるのはお前だろ?」
 浩平「俺が好きなのは俺の言うことを何でもホイホイ聞いてくる長森じゃなくて」
 浩平「何だかんだと口ごたえしながらも、結局は俺のために動いてくれる七瀬なんだってば」
 浩平「乙女らしくない、不器用で大雑把で暴力的で」
 浩平「でもそんじょそこらの乙女には負けないくらい、純粋で優しくて可愛いお前が好きなんだよ」
 浩平「わかったか、留美」

 留美「お願いだからそういうセリフはカンペなしで言ってよ……」

 それなら、雪女はどうして男を殺さなかったの?






12、『あの娘にだけは負けたくないのっ! 番外編』


 留美「ねえ、折原」
 留美「1つだけ聞かせて」
 留美「もしも折原の恋人が、あたしじゃなくて瑞佳だったとしたら……」
 留美「も、もしもの話だからね? 別に深い意味はないのよ?」
 留美「で、そう、もしも折原の恋人が瑞佳だったとしたら……」

 留美「デートするときもこういうところに連れてくるの!?」
 店主「あいよっ、キムチラーメン2丁お待ちー」
 浩平「アホか。そんなわけないだろうが。あ、店主、追加で餃子も」
 店主「おう。お嬢ちゃんも他になんか食うかい?」
 留美「炒飯追加! あんたの奢りだからね、折原ぁ!」

 マッチを売れば少しは変わる。






13、『お約束』


 留美「あんたなにやってんの?」
 浩平「いやな、ちょっと数えてるんだ」
 留美「何を?」
 浩平「えっと、地震。雷。火事……後はなんだったかな?」
 留美「あんたねぇ……親父でしょう?」
 浩平「ああ、ななぴーか。なるほど、一番怖い」

 その後、浩平は三日学校を休むこととなる。






14、『この際』


 七瀬「ほ、星を見るのも乙女よね……」
 七瀬「そうよ、そうに違いないわ!」
 七瀬「文化部入部がことごとく失敗した以上、贅沢言ってられないしね……」
 七瀬「でもやっぱりちょっと抵抗が……」(ちらっ)

 美凪「へい、かまーん」

 揃えた膝を両手で叩きながら。






15、『乙女だもん! 料理変』


 留美「いつもいつもクッキーばかりだって失礼なことばかり言って……みてなさい!」

 一日後

 留美「ほ、ほら! 私だってやればできるのよ!」
 浩平「……」
 留美「さぁ、食べなさい! さぁ!」
 浩平「……クマさんクッキーにキムチはやめろ。絶対やめろ」
 留美「……自覚はあるわよ」






16、『乙女だもん! 登校変』


 留美「なんでももっとはやくおきないのよ!」
 浩平「ふっ、俺のもっと寝たいよオーラの力を甘く見るなよ。貴様の攻撃など無に等しい」
 留美「何をいばっとるかー!」
 浩平「げふっ!」
 留美「って、寝るなー! 遅刻するじゃない!」
 浩平「…………そらは青かった……」






17、『乙女だもん! 授業変』


 教師「つまりここは……であるからして……」
 留美「ふーん」
 浩平「ぐがー」
 教師「……は……なり」
 浩平「ぐがー」
 留美「……」
 浩平「ぐがー」
 留美「起きんかぁ!」
 浩平「げふっ」
 留美「って、まだ寝るって言うの!」
 浩平「があっ! げふっ!」

 教師「あー……七瀬。お前廊下に立ってろ」






18、『乙女だもん! 就寝変』


 留美「〜♪〜♪〜♪」
 浩平「……」
 留美「よし! 髪を梳かすの終わり♪ 後は寝るだけね」
 浩平「……」
 留美「対暴漢用の竹刀も用意したし。お休み」
 浩平「……」(縄で縛られており、手も脚もだせない浩平)






19、『乙女だもん! 睡眠変』


 留美「あんたはいつもいつも! ムニャムニャ……」

 ドコン!

 浩平「……(血の気が引いていく)」
 留美「いつになったら自分で! ムニャムニャ……」

 ドガン!

 浩平「……」(無言ながら死を悟る)

 ガコン! ベガン! ドガキン!






20、『乙女だもん! 早朝変』


 留美「……はぁーいい朝だわ」
 留美「って、どうしたのよ! 血だらけじゃない! きゅ、救急車ー!」
 浩平「……(お前がやったんだよお前が)」






21、『乙女だもん! 夜中変』


 留美「…………」
 浩平「……な、なんて逞しい寝方だ……」

 しかし縄で縛られてるが故動けない浩平






22、『乙女だもん! 試験変』


 留美「はあっ!」
 留美「てぃっ! やあっ!」
 留美「はぁ……はぁ……な、なんで実技のテストがこんなのなのよ……」

 足元に折れた竹刀の山

 瑞佳「あれ? 七瀬さん。どうしてこんなところにいるの?」
 留美「えっ? 体育の実技でしょ?」
 瑞佳「また冗談ばっかり言って。そんなのじゃないよ」
 留美「嘘……」
 瑞佳「本当だよ?」
 留美「折原ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」






23、『乙女だもん! 同時刻変』


 浩平「殺気!? 気づかれたか!?」

 彼の命滅亡まで後365秒。






24、『乙女だもん! 別世界変』


 浩平「うーん、芋焼けないなぁ……」
 留美「火力が足りないのよ」
 浩平「あ、そっか。火力があればいいのか!」
 留美「……?」
 浩平「ほれ、これ」
 留美「……竹刀を持たせてどうする気?」
 浩平「いいか、コマンドは236+攻撃だ。ここにちゃんとコントローラーも……」
 留美「いっぺん死んできなさい!」
 浩平「ぐあああああーーーーーーっ!」

 竹刀より生まれた炎に包まれる浩平。






25、『殺し文句 その1』


 留美「ねえねえ。折原、折原」
 浩平「んー? どうした?」
 留美「今度の土曜日さ、デートの約束してたでしょ?」
 浩平「………………おぅ」
 留美「……」
 浩平「い、いや別に忘れてたわけじゃないぞ?」
 留美「……」
 浩平「本当だってば! バカだな〜。俺がお前との約束忘れるわけ……」
 留美「……」
 浩平「すいません。忘れてました」
 留美「素直でよろしい」

 振り上げた竹刀をゆっくりと下ろす留美。






26、『殺し文句 その2』


 留美「で、あたしも色々考えたんだけど」
 浩平「おー」
 留美「やっぱり祝日だし、混むと思うのよね、映画館とか遊園地とか」
 浩平「おー」
 留美「かといってラーメン屋は却下だし」
 浩平「おー」
 留美「それで折原はどこか行きたい場所あるかなーって」
 浩平「んー」
 留美「……まさかとは思うけど、どこでもいいとか言わないでよ?」
 浩平「お、お前エスパーか!?」
 留美「あんたねぇ〜」
 浩平「い、いや俺としてはだなっ」
 留美「何よ?」
 浩平「お前と一緒なら本気でどこでもいいんだが……」

 振り上げた竹刀をゆっくりと下ろす留美。
 頬を赤らめながら。






27、『ある意味』


 浩平「七瀬は確か、携帯持ってなかったよな?」
 留美「うん、持ってないよ」
 浩平「じゃあ、今流行ってるアイドルの名前とか詳しいか?」
 留美「あぁ、あたしそういうの全然ダメ」
 浩平「俺以外の男と付き合った経験は?」
 留美「あるわけないでしょ。剣道一直線だったんだってば」
 浩平「休日に女友達と遊ぶとしたらどこへ行く?」
 留美「友達の家か、あたしの家」
 浩平「……ふむ、よくわかった」
 留美「何がよ?」

 浩平「筋金入りの世間知らずだな。でもまあこれはこれで純粋なわけだし、ある意味乙女だとは思うけど」






28、『きゃっち みー いふ ゆー きゃん』


 浩平「思うんだが」
 七瀬「なに?」
 浩平「七瀬はさ、髪型変えた方がいいんじゃないか?」
 七瀬「え、あ、か、髪型の話?」
 浩平「おう。そうだな、試しに1回束ねてみたらどうだ?」
 七瀬「お、折原が……そう言うならあたし……」
 浩平「いや、俺がどうとか、そういうことじゃなくて」

 繭「みゅー」






29、『よく似て非なるもの』


 舞 「剣を捨てた私は……本当に弱いから……」

 浩平「だとよ。お前とは大違いだな」
 留美「……何が言いたいのよ?」

 竹刀なしでも充分――(以下検閲不能





30、『春待つ人』


 七瀬「……遅いなぁ、折原」

 昼下がりの公園。
 空を見上げながら。






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