カップを傾ける。

温かい紅茶が喉を滑り落ちてゆく。

傾けていたカップを戻し、ほぅ、と小さく息をつく。

そんな単純動作の繰り返し。

家の庭先で、祐一は、のんびりとお茶の時間を堪能していた。

とは言え、もちろん一人で堪能してたわけではない。

カップに少し残っていた紅茶を飲み干すと、隣で同じくお茶を楽しんでいた少女に向かって一言。


「茜、お代わりくれ」

「ちょっと待ってくださいね」


差し出されたカップを手にとると、茜はゆっくりと紅茶を注ぐ。

こぽこぽという小さな音だけが、静寂の庭先に響く。

驚くほどに静かな一時。

ほのかに紅く染まった液体が、少しずつカップを満たしてゆく。

茜のゆっくりとした動作を、祐一はぼんやりと眺めている。

二人の間に言葉はない。

けれどそれがどこか心地いい。

ただ二人だけの時間。

いつもなら近くの電柱でさえずっている小鳥も、今日は遠慮してくれたのかもしれない。

ささいな邪魔さえ入らない、二人だけの静かな空間。


「はい、どうぞ」

「ん、サンキュ」


小さな笑みを口元に浮かべながら、カップを差し出す茜とそれを受け取る祐一。

そしてまた、二人並んでカップを傾ける。


「……ん、美味い」

「……」


祐一が呟いた言葉に、笑顔だけを返す茜。

一瞬だけ交錯した眼差しは、やがて空へと向けられる。

夏の真っ青な空とは異なる、どこか白っぽい空。

冬の間に凍りついた雲が、春の暖かい空に溶けてしまったかのようだ。

雲と空の境界が見えない。

そんなどちらつかずの青空から、春の太陽が静かに輝きを放っている。

降り注ぐ柔らかい日差しに、知らず目を細める二人。


「いい天気だな」

「はい……」


そう言ってまた、カップを口に運ぶ。

そよそよと、春の優しい風が、二人の頬をそっと撫でてゆく。

暖かな陽光と、くすぐったいようなそよ風。

思わず欠伸が出そうになるような、そんなゆったりとした時の流れ。

何でもないような一時。

でも何よりも満たされる一時。

隣に彼がいる。

隣に彼女がいる。

ただそれだけで、二人の心は満たされる。

言葉もいらない。

ただ二人、こうして並んでいられたら、それだけで幸せなのだから。


「静かだな……」

「静かですね……」


期せずして重なった二人の言葉。

少し見開いた目を見合わせ、それからくすりと小さく笑う。

頬が緩むくらいに平和な一時。

明るく街を照らす陽光が。

街から街へと春を運ぶ風が。

隣で笑うその人が。

互いの心に、幸せを再確認させてくれる。





「ワッフルはいかがですか?」

「ん……一個もらおっかな」

「どうぞ」

「じゃ、いただきます」


どこから出したのか、ワッフルを片手に、茜が祐一に問いかける。

祐一はそれを受け取ると、小さく齧る。

それに倣うように、茜もまた、手に持ったワッフルを少し齧る。

一瞬破られた静寂の空間は、けれどやはり、すぐに静けさを取り戻す。

動きもなく、音もなく、声もない。

まるでここだけ、時の流れが緩慢になってしまったかのように。

ゆったりとした時の流れ。

風の音さえ聞けそうなほどに静かな空間。

平和だった。















「あっかねー! いるー?!」


彼女が来るまでは。















停滞したかのような時の流れに抗うがごとく現れた、きっと誰よりも移り気なアナタ















「あ、茜! こんなところにいたんだ。 やーっと見つけた。 捜したよー、もう。 今日休みだから、絶対どっかに出かけてるって思ってたのにさ。 まさか自分の家の庭にいるなんてねー。 これは盲点だったよ。 詩子さん一本取られちゃった。 あ、お茶なんか飲んでる。 いいなー、っていうか私もすんごく喉が渇いてんだよね。 やっぱりほら、最近すごく暖かくなってきたじゃない。 それで外を歩き回ってたら、どうしてもねー。 ってわけでちょっともらうね…………っはぁ〜、生き返るねー。 やっぱり茜の淹れてくれる紅茶はいいよ。 すんごく美味しいの。 や、お世辞じゃなくて。 もう最高。 お気に入りもお気に入り。 うん、詩子さんが保障してあげる。 まぁ、だからって何があるわけでもないんだけどさ。 でもほら、料理人の幸福って、食べてくれる人が美味しいって言ってくれることだって、よく聞くじゃない。 それと同じノリってことで。 あ、あ、それよりもさ、それよりもっ。 ねぇ聞いてよ茜ー、もうひどいんだから。 何がひどいって、うちのお父さん。 昨日の夜さ、食事中に、いきなりこんなこと言うんだよ。 『いくらなんでも、お前は落ち着きがなさすぎる。小学生じゃないんだから、少しは落ち着いたらどうだ?』ってさー。 もう失礼しちゃうよね、詩子さんのどこが落ち着きがないって言うのよ、ホントに。 大体さ、小学生を引き合いに出すってどうなのよ? 何? 詩子さんは小学生と同レベルだって言うの? それが親の言うこと?  それはいくら温厚な詩子さんでもカチンとくるよ。 まぁそりゃさ、かわいいかわいい娘なんだし、心配する気持ちはわかるけどさ、言い方ってものもあるよね。 それに、可愛い子には旅をさせろって言葉もあるんだし。 うるさく縛りつけるのもよくないって話。 あー、旅って言えばさ、ほら、今度のゴールデンウィーク。 土日があるから、5連休になるんだよね、実はさ。 せっかくだし、どっか旅行とか行かない? どこでもいいからさ。 や、海外とかなんて言わないよ、もちろん。 でもさ、高校最後の年なんだし、どっか出かけるってのもいいと思わない? 思い出作りに。 あー、ホントに行きたくなってきたよー。 ねぇねぇ、行くとしたらさ、どこ行きたい? どこがいい? 詩子さんとしてはどこでもいいんだけどさ、茜と一緒だったらね。 あ、でも、全国甘味処巡りとかはダメだよ? いくらなんでもそれは却下するから。 甘いものが嫌いってわけじゃなくても、そればっかり食べ続けるってのはちょっとねー。 ほら、よくテレビとかでさ、ものすごい大食いの人とか出ることあるけど、あれ見てると何か笑えるよね。 甘味王とか何とかいう王座を巡って、女の人ばっかりがケーキとかをばくばく食べてるのを見たときはもう、爆笑ものだったよ。 もうすんごいの。 茜は見てた? あれ。 なんかね、時間制限があったからかもしれないけどさ、とにかく勢いがすごいの。 よく覚えてないんだけどさ、お皿に乗ったお菓子に、チューブに入った黒蜜かけて食べる、みたいなお菓子のとこでさ、一人すごい人がいたのよ。 黒蜜のチューブを口に突っ込んで、そのまま飲み込んでたの。 っていうか吸い込んでたの。 も〜笑った笑った。 何もそこまでしなくてもいいじゃない? あれ、女捨ててるよ、絶対。 結構昔の話なんだけど、今頃何してるのかな? あの人。 って、あれ? 相沢君じゃない? なんだ、君もいたんだ。 ごめんねー、気付かなかったよ。 あ、もしかしてインドアデート? なーんだ、それで出かけてなかったんだね。 もー二人ともラブラブだねぇ、詩子さん妬けちゃうよ。 でも家に閉じこもってってのは感心しないなー。 若者らしくないよ、家の庭先でお茶飲んでるだけなんてさ。 枯れちゃうよ? そんなんじゃ。 おじいちゃんおばあちゃんじゃないんだから。 っていうかむしろさ、相沢君が茜を引っ張ってくくらいじゃないと。 それでなくても茜はインドア派なんだし。 大体、若い恋人同士がさ、こうやって縁側でぽかぽかとしながらお茶飲んでるだけって、それは二人とも何か違うって思わない?  思うでしょ? ね? ね? っていうかそれ以外認めないよ、私は。 もー、心配だよ、二人の友達としてはさ。 相沢君も少しは運動ぐらいしようよ。 部活だってやってないんだよね? 確か。 それはもったいないって。 青春だよ? 高校生だよ? 一度しかない十代だよ? スポーツとかで若さを燃やしても罰は当たらないよ。 っていうか、燃やさないと罰が当たるよ、むしろ。 何も大会に出て記録を残せなんて言わないって。 でもさ、こうやってまったりまったりしてるだけなんて、若者らしくないって。 もっとこう、何かに打ち込んでみようよ、スポーツでも何でもいいからさ。 そしたら、茜も惚れ直すよ、きっと。 ほらほら、少しはやる気になったんじゃない? ね? 少しはなった? んー、反応が鈍いなぁ。 やれやれだよ……さっき道端で見かけた野良猫みたいだね。 や、ここに来る途中で見かけたんだ、野良猫。 なんか日向ぼっこしてるみたいでさ。 んで、せっかくだし、丁度持ってた猫じゃらしで遊ぼうと思ったのよ。 でもこれがも〜、反応が鈍いのなんの。 目の前でちらちら振っても、全く動かないの。 無理やり目元に持ってたら、フンって鼻で笑う始末よ? 信じられる? フンって。 猫がフンって。 遊んでるんだか遊ばれてるんだかわからなくなっちゃったよ。 それに比べて、ちょっと行った先にある家のワンちゃんは人懐っこいよね。 詩子さんがちょっと口笛吹いたら、ぱぱーっと駆け寄ってきて、ぱたぱたって尻尾振ってるの。 全然吠えないしさ。 愛くるしい瞳でこっち見てて、もーホントいい子だなーって思えるの。 可愛がる人の気持ちもわかるなー。 あ、でもそんなので泥棒とか追っ払えるのかな? 人懐っこいのもいいけど、それも過ぎると問題だと思うんだよね。 まさか泥棒が来ても尻尾振ってたりはしないと思うけど。 ほら、こないだ、この辺りじゃないけど、ちょっと近くで泥棒が入ったって話。 結構ニュースになってたよね。 テレビとかには出なかったけど。 でも、もしテレビ局とか来てたら、すんごい騒ぎになってたかもね。 そういう現場からの放送みたいなヤツ見てるとすごく思うんだけどさ、たまに後ろの方で、ジャンプしたり両手でピースサイン作ったりしてる人とかいるよね。 あれ、恥ずかしくないのかな? 特に両手でピースサインとか。 あり得ないよね。 まぁそりゃさ、騒ぎたくなる気持ちはわからないでもないけどさ。 でも、度を越しちゃいけないと思うんだよ。 あー、今日はホントいい天気だよね。 五月晴れって言うの? もう心も浮き立っちゃうような陽気って感じ。 せっかくだから、次の連休までとっといてほしいんだけどなー。 あ、あ、忘れてたよ、連休どうする? 茜ー。 やっぱりどこも行かないって選択肢はなしにしようね。 もうすぐ受験勉強もしなきゃなんなくなるしさ。 やだよねー、受験勉強とか。 で、茜はどこ行きたいんだったっけ? って、確かおんなじところだったよね。 ちょっとボケてたかな、失敗失敗。 でもあそこ結構レベル高いよね。 大丈夫? って、あぁ茜は心配してないよ。 茜は結構成績もいいしさ。 問題は相沢君、君だよ。 大丈夫なの? 受験勉強。 茜と一緒のところにいきたいんなら、もっと勉強もしないとね。 遊んでばっかりでしょ? 同じクラスの折原君とかと。 ゲームセンターとかでしょっちゅう遊んでるしさ。 まぁ遊びたくなる気持ちはわかるけど。 あそこのゲームセンターって結構充実してるし。 最新機種とかが普通に入ってるって大きいよね。 学校からもあんまり遠くないし、駅にも近いから、色々と便利だしさ。 って、そう言えば茜も知ってるよね? 駅前に新しいビルが建つってこと。 もうびっくりだよねー、すんごい急ピッチで工事が進んでるんだって。 何か、いろんな専門店がたくさん入る予定らしいよ? 楽しみだなぁ。 あ、完成したら一緒に行こうね、約束だよ。 でも大丈夫なのかな? こんなところにおっきな店とか作って。 ここってそんなに賑わってるわけじゃないし。 完成してすぐに店をたたんだり、とかになったらイヤだよね。 けど、駅前だから、他のところからもお客さんは来るだろうし、その心配はないかもしれないけどさ。 かと言って、混み過ぎるのも問題だよね、よく考えれば。 安くていい品はすぐに売り切れ、とかなりそうだし。 バーゲンの時とか、すんごいことになりそうだよ。 ビルの前から、延々と行列が続いてたりとか。 行列の最後尾で、ここから何時間待ち〜とか。 お店ができるのは嬉しいけど、行列に並ぶのとかは勘弁してほしいよ。 ほら、よく行列のできる店とかあるじゃない。 何時間も何時間も並んで、それでラーメン一杯とか。 何時間も何時間も並んで、それでアトラクション一回とか。 かけるリスクのわりに、リターンがどうにもつり合ってない気がしない?  美味しいのもわかるし楽しいのもわかるけど、さすがにそのために何時間も待つ気はしないなぁ。 時は金なりって言葉もあるし、待つのにも限度はあるよ、やっぱり。 あ、バーゲンの場合は別ね。 こっちはリスクとリターンが割に合ってると思うから。 まぁ何にしても、完成してからかな、こういう話は。 あ、そだ、ワッフル一つもらうね。 うーん、美味しい。 やっぱり疲れてるときは甘いものが一番だよ。 何ていうの? 癒されるーって感じ。 食べ過ぎるのはよくないけど、一個や二個なら大丈夫だと思うし。 ってわけでもう一個もらうよ。 うんうん、美味しい美味しい。 あぁでも、まだこんなに残ってるんだ。 っていうかさ、茜、こんなにおんなじの食べ続けて飽きないの? いつも思ってたんだけどさ。 何ていうか、いくら美味しいものでも、ずっとおんなじの食べ続けてたら、いくらなんでも飽きると思うんだよ。 カレーが好きな人だからって、毎日毎日毎食毎食、ずうっとカレーばっかりだったら、さすがにイヤになるでしょ?  あぁ、あの人は例外ね、あの人は。 だってほら、某みさき先輩は食堂の主だったわけだしさ。 カレーの王女様だしさ。 とにかく、いっつもいっつもワッフルばっかりって、さすがにどうかと思うのよ。 ほら、幼馴染としても心配になるっていうか。 別の楽しみも見つけてほしいっていうか。 世の中には、もっとたくさんのものがあるんだよ? 世界を探せば、美味しいものだって楽しいことだって、それこそ数え切れないくらいにあるはずだって。 ここらで自分の枠を突き破っちゃおうよ。 ついでにその甘味の度合いも、この際だからどうにかしてみたりとかね。 うん、それがいいよ、そうしよう。 いや、悪いっていうんじゃないよ? でもね、良いってわけでもないと思うんだよ。 甘いものもいいけどさ、世の中それだけじゃないって。 甘くなくても美味しいものだってたくさんあるわけだし、そういう中にも茜の好みに合うものだって、きっとたくさんあるはずだよ。 長い人生だけど、一回きりの人生でもあるわけだしさ。 ここらで意識改革を試みるのもいいかもしれないよ? 思わぬ発見があるかもしれないし。 そもそも相沢君も問題だね。 甘いものがダメって、それは君、よくないよ。 もったいないよ、絶対に。 大体だね、茜と付き合ってるのに、甘いものが食べられないって、それはちょっとおかしいって。 どうするの? それが原因で気まずくなったりしたらさ。 少しでも努力してる? 甘いものが食べられるようになるために。 実際、アレルギー反応とかそういうのがあるわけでもないんだし、どうにかできないわけがないんだよ。 ピーマン嫌いな子だって、がんばればピーマン好きになることだってあるんだよ?  少なくとも食べられるようにはなるはずだよ? ちゃんと努力はしなきゃ。 とりあえずはあれだね、いきなり蜂蜜練乳とか食べろなんて言わないからさ、普通のものからでもチャレンジしよう、うん、そうしよう。 とにかくね、明日からなんていわないで、今からでもほら、食べる食べる。 ってよく見たら食べてるね、もう。 うんうん、感心感心。 言われてすぐに取り組むってトコは好感触だね。 君のそういうところ、詩子さんも好きだよ。 あぁ、安心してね、茜、別に相沢君とったりしないから。 あくまでも友人としてってことだよ。 でも暑いねぇ、今日は。 まだ春なのにさ。 そもそも昨日の夜は普通に肌寒かったよね。 それが何? 昼になった途端に、いきなり暑くなったりしてさ。 これはもしかしてイヤガラセとかそういうの? 春のいたずら? もうイヤになっちゃうよ。 太陽は意地悪だーってね。 今年の夏も暑くなりそうだし。 ほらよく言うじゃない、冬が寒かったら、次の年の夏は暑くなるとかって。 この前の冬は寒かったしさ、きっと夏は暑くなるよ。 あー、そんな季節に受験勉強かー。 何かもう、今からやる気がなくなっちゃうような話だね。 だからといって勉強しなきゃなんないわけだし。 うー、困るよホントに。 でもどうする? まさか夏休みの四十日間、ずうっと勉強漬けってわけじゃないよね。 それはさすがにムリがあるよ。 合間にでもさ、海とか行こうよ。 もちろん相沢君も連れてっていいから。 荷物持ちとか……あぁ、うん、何でもないよ、何でも。 とにかくさ、気分転換は必要だしね。 あ! だからゴールデンウィーク! ゴールデンウィークはどうするの? まだ返事聞いてないよ。 って、いきなり答えられるわけもないか。 茜にも予定があるだろうしね。 うん、じゃあ明日中にでも返事してくれたらいいよ。 まだちょっと時間もあるわけだし。 せめて日帰りでもいいから、どっかに遊びに行きたいんだよねー。 せっかくの連休に家でまったりしてるだけなんて、それは青春に対する冒涜だよ。 高校最後の年を堪能しないなんて、それは嘘だからね。 でも、一年なんてあっという間だよね、きっと。 来年の今頃は私達どうしてるのかなー? みんな揃って同じ大学に通えてたらいいよね。 私達の知り合いって、みんな同じ大学目指してるね、そう言えば。 あの二人の先輩は、もう既に通ってるしさ。 ほらこないだ会った時、色々と話聞いたじゃない。 思い出したら、もっと行きたくなっちゃった。 茜もそうでしょ? それに相沢君も。 学部とかも充実してるし、食堂の料理は美味しいし……って、これは別の意味で心配というか、そういうのはあるけど。 学校もきれいだったしさー。 噴水とか時計塔とかがあったりして、もうどっかの公園かと思っちゃったよ。 でもいいなぁ、キャンパスライフ。 憧れるよね〜。 現実は厳しいとかよく言うけどさ、意外にこれがそうでもなかったりするんだよね。 絶対楽しいって。 あー、でもそのためには勉強がんばらなきゃいけないのかー……うぅ、苦もなく楽があるわけじゃないってことかぁ。 うん、がんばらなきゃね、お互いにさ。 そっちの学校は、今どう? 受験生らしい空気とかあったりする? 受験生らしい空気って何なのよって感じだけど。 いやほら、何ていうか、ぴりぴりした空気っていうか、微妙な緊張感というか。 そういうのがあったりしない? うちは少しそんな感じで、ちょっと落ち着かない空気があったりするよ。 意味もなく焦っちゃったりしてさ。 読んでもないのに参考書開いたりしてる人とかもいるし。 先生なんかも、も〜う毎日毎日うるさいの。 やれお前らはもう受験生なんだぞ、とか。 やれ受験生としての自覚を持て、とか。 やれまだ一年あるんじゃない、もう一年しかないんだぞ、とか。 言われなくてもわかってるのにさ。 ボケちゃったのかなって思うくらいに何度も何度も繰り返すんだから、聞かされる側はたまったもんじゃないよ。 またお母さんもおんなじこと言うしね。 顔を見れば、勉強してるの? とか。 受験生でしょ? とか。 どこだっておんなじなんだろうけど、やっぱり気持ちいいもんじゃないよね。 壊れたテープレコーダーみたい。 あぁ、そういえばさ、家でずっと使ってたテレビが、こないだついに壊れちゃったんだよ、実は。 で、買い替えの話になってるんだけど、それが結構長引いてるの。 要するに、ブラウン管テレビを買うか、液晶テレビを買うかって話で。 私は断然液晶だね。 だってさ、あれはかっこいいよ、ちょっと。 ブラウン管テレビだったら、あんな薄くはならないって。 壁にぴたーって貼り付いたりしちゃうんだから。 フラットテレビとかは、まぁ結構いい線行ってるけど、でも今イチかな。 けど液晶は高いって話になったりして。 んで話が平行線のまんま。 せっかくだからかっこいいのがほしいよねぇ。 あぁでも、今はまず携帯電話がほしいかな。 料金の問題とかもあるから、大学生になってバイト始めてからの方がいいとは思うんだけどね。 でもほら、欲しいものはしょうがないというか。 そもそも携帯あったら便利だしね。 茜達とは学校が違うってこともあるし、やっぱり連絡手段は欲しいと思うわけ。 あ、あ、携帯買うときは一緒のにしようね。 でも迷うよね〜、いろんなのがあって。 一年後とかになったら、もっと違う機種とかも出てるんだろうけど、どんなのがいいかなー。 でもあれだけ頻繁に新機種とか出すとなると、作ってる人達って大変だろね。 だってさ、半年もしないうちに新しいのが出たりするしさ。 パソコンとか、ホントにすごいよ、あれは。 出た時には二十万とか三十万とかしたのが、ほんの数ヶ月で十万以下になったりするし。 私達には嬉しいことだけど、作ってる人はどんな気持ちなんだろうね。 昔の家では、ご飯の度に、お百姓さんに感謝するように、とか言ってたって話を聞いたことがあるけど、それと同じ感じ。 感謝しないとねー。 お百姓さんって言っても、今はちょっと違うんだろうけどさ。 何ていうの? 合理化の流れっていうか。 今も色々機械を使ってるけど、いつかは全部機械がやってくれるようになったりしてね。 ドラえもんの世界だね、それじゃ。 でも秘密道具とか欲しいかも。 どこで聞いた話か忘れたけど、受験でドラえもんの秘密道具の実現可能性について論じろ、とかいう問題があったんだって。 すごいよね、いろんな意味で。 受験の題材にドラえもんが使われたってとこも、ドラえもんの秘密道具に実現可能性があるってとこも。 いや〜、科学ってすごいよ。 ドラえもんが一家に一台あったら面白いだろうね。 まぁ、怖い気もするけど。 だってさ、危険な道具とかもあるでしょ? 爆弾とかさ。 ちょっと危ないと思うんだよ。 まぁちょっとどころじゃないかもしれないけど。 でも、ドラえもんの時代の人達って、そんなにいい人ばっかりだったのかな?  スイカの中身だけを吸い取るとかいう道具を創るようなシャレっ気がある人はいたみたいだけど。 でもそんな道具があったら楽しいかも。 スイカ割りに使うスイカを、前もって中身吸い取っちゃったりしてさ。 で、割ったら種しか出ないの。 ウケるよ、これは。 あ、そういえばスーパーでスイカ売ってたのを見たんだよね、こないだ。 気が早いったら。 やっぱりスイカは夏に食べなきゃ。 肌寒い夜とかにスイカ食べるのって、何か違うよね。 そもそも値段もちょっと高かったし。 でも買う人がいるから置いてるんだろうね、きっと。 私にはよくわからないけど。 ほら、秋刀魚なんかは、やっぱり秋に食べたいでしょ? 鍋は冬に食べたいでしょ? それとおんなじ。 季節の食べ物は、やっぱりその季節に食べるのが一番なんだよ、絶対。 一番美味しい季節なわけだし、それに何より、その季節以外食べられないからこそ、より美味しく感じられるしね。 あ〜、食べ物の話なんかしてたら、ちょっとお腹が空いてきちゃったかも。 でも、さすがにこれ以上ワッフル食べるのもなんだし……どうしようかなー……どっか行って何か買うってのも…… あ! 忘れてた! お母さんに買い物頼まれてたんだった! あちゃー……忘れてたよ忘れてたよ。 まずいよまずいよ。 わ、もうこんな時間だし。 ちょっと茜とおしゃべりして、それから買い物して、それでも間に合うはずだったのに〜。 やっぱり茜を探す時間のロスが大きかったかな。 って、こんなこと言ってる場合じゃないんだって。 じゃ、茜! また電話するから。 っていうか電話してくれても全然構わないよ。 っていうかむしろ大歓迎だよ。 話したいこともたくさんあるしねー。 やっぱりほら、電話って色々といいじゃない。 寝っ転がりながらでも、普通にしゃべってるように相手には聞こえるし。 詩子さんとしては、ちゃんと会って話すのも好きだけどね。 要はどっちでもいいってことだね、うん。 って! また忘れちゃうよ! こんなことしてちゃ。 それじゃ茜、また今度。 絶対どっかに遊びに行こうね。 それとついでに相沢君も。 それじゃーねー!」















やってきた時と同様に、嵐の如く去ってゆく詩子。

彼女の幼馴染だという茜にも、そこに居合わせた祐一にも、一言も喋らせることなく、言いたいことだけ言って、そのまま去っていったわけだ。

彼女が走り去る音が消えると、またも静寂に包まれる茜の家の庭先。

さっきまでの喧騒が嘘のように、そしてそう思えるくらいの不自然さを感じるほどに、そこは静かだった。

何も言わない祐一と茜。

ただ黙ってカップを手で抱えているだけ。

そんな沈黙が少し続いたが、やがて祐一がゆっくりと茜の方を向く。

そして茜もまた、それがわかっていたと言うかのように、ゆっくりと祐一の方を向く。

静かに交わされる視線。

お互いの瞳が交錯し、また少しだけ、停滞の時間が訪れる。

だがそれも僅かな間。

祐一が、ゆっくりと口を開く。


「何ていうかさ」

「はい」

「まぁ、わかってるだろうけど……」

「はい」















「お代わり、くれ」

「大丈夫です、ちゃんと準備できてますから」


そう言うと、茜が祐一のカップに紅茶を注ぐ。

こぽこぽという音が、場の空気に浸透してゆく。

そして、祐一のカップに注ぎ終わると、次いで自分のカップにも新しく注ぎ直す。


「はい、どうぞ」

「ありがとな」


そっと微笑みを交わして、それから二人並んで、揃ってカップを口に運ぶ。

小さく小さく喉が鳴る。

次いで、ほぅ、とため息。

ゆったりとした時間。

のんびりとした空間。

揃って目を細める二人。


「結局、何しに来たんだろな、あいつ」

「さぁ……まぁ、詩子ですから」

「あぁ、柚木だからな」


そこで小さくくすりと笑う。

まだ湯気の立つカップを傾け、残ったワッフルに手を伸ばし、二人は肩を並べて空を見る。


「どうせだったら、のんびりとお茶を飲んでいけばよかったのに」

「んー……俺達に遠慮してくれたのかもよ?」

「かもしれませんね」


微笑みながら、次のワッフルに手を伸ばす茜。

同じく、微笑みながらそれを眺める祐一。

日は少し傾いてきていたが、空はまだ、青さを失ってはいない。

まだもう少し、この時間が楽しめそうだ。

そんなことを思いながら、祐一はカップを口に運ぶ。

風も少し勢いが強くなってきてはいたが、それでもまだ暖かさを失ってはいない。

まだもう少し、この時間が楽しめそうです。

そんなことを思いながら、茜はワッフルを口に運ぶ。

似た者同士の、そんな風景。

少し離れた垣根の上に、いつのまにやら一匹の子猫。

にゃあ、と。

子猫が小さくそう鳴いた。


















後書き



要するに、誰が主人公なんだか、とか、結局マイペースなのは誰なのか、とか、そういう話です。

……いやもう、色々とごめんなさい(土下座)

何と言いますか、途中の詩子さんのマシンガントークのシーンを飛ばした方も多いかと思いますが、それは正解かもしれません(笑)

書くのも苦労しましたが、読むのはそれに輪をかけて大変でしょうし。

ほんっと意味のない話ばっかりですから。

とにかく話が長くなるように、と。

ただひたすらに、ぐだぐだと書きまくりました。

完全に思いつきの産物ですし、贈るのもなんだかなー、と思わないでもなかったのですが、何か祐一×茜を御所望の方がおられまして。

いちおーその方に捧げる勢いで(オイ)

笑って流していただければ幸いです。

それでは〜。





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