彼の人に捧げる挽歌
第二章 脅迫
四月二十三日、金曜日。
時刻が午後三時半になろうかという時に、祐一の通っている学校の、今日の全授業の終了を知らせるチャイムが、高らかに響き渡った。
それは、教師にとっては一つの区切りでしかないが、学生にとっては、多少大げさではあるが、解放を知らせる祝福の鐘に近しい。
現に、祐一達のクラスにおいても、その多くが安堵の表情をしていた。
丁度きりの良いところでチャイムが鳴ったためか、教師は特に延長するでもなく、お決まりの予習復習についての注意だけを残し、教室を出ていった。
それを合図にしたかのように、学生達の多くが、一様に解放感を露にする。
机に突っ伏す者もいれば、近くの友人に話しかける者もいる。
祐一はというと、前者であった。
「つっかれたぁー」
そう言うなり、祐一はばったりと机の上に倒れ伏した。
大きく息をつき、疲労感を体全体で表現しているように見える。
そんな祐一に話しかける声があった。
「おい、相沢。石橋が来てるぞ。起きとけって」
「あー?」
「あとHRだけだろ。眠いくらい我慢しろ」
「はぁ、仕方ないな……」
ゆっくりとした動作で起き上がる祐一。
そして、大きな欠伸を一つ。
その視界の先では、もはや定例と言ってもいいだろう教師の話。
HRというものは、よほどのことがない限り、日によって大きく変わることは少ない。
結果、身を入れて聞く者も少なくなってくるのだ。
祐一も、言ってみればその一人に過ぎない。
祐一に限らず、誰もが少し浮ついた表情で話を聞いている。
おそらく、放課後のことについて思いを巡らせているのだろう。
部活に励む者もいるだろうし、友人と遊びに行く者もいるだろう。
その辺のことは承知の上なのか、特に教師も注意したりすることはない。
どこかおざなりのように注意や報告を終わらせると、それで全て終了となる。
「北川、別に起きとく必要もなかったじゃないか」
と、祐一が後ろを振り返りながら、文句を言う。
すると、北川と呼ばれた少年は、やれやれ、といった感じのため息をつく。
少しばかり芝居がかった動作である。
「何を言うか、相沢。オレが起きてるのに、お前だけ寝させてやるもんかよ」
「何? するとお前はあれか? 俺の安眠を妨害したかっただけということか?」
眉をピクリと動かして、祐一が少しだけ低い声で言う。
少し顔を突き出すようにしながら、こちらもまた大げさなくらいの表情を見せている。
その祐一の言葉を、これまた芝居がかった動作で制する北川。
「まぁ待て、相沢。このまま放っておいたら、お前はずっと寝てただろう。それこそ夜になるまで」
「む? ということは、お前は俺のためを思って……」
「暖かくなってきたとは言え、こんな教室で眠ってたら、体を壊すからな」
「北川っ!」
「相沢っ!」
ガシッと握られるお互いの右手。
熱く交わされる視線。
それはどこか儀式めいた行動にさえ見える。
と、そこに一人の少女が歩み寄ってくる。
「飽きないわね、あなた達……」
ため息をつきながら、疲れたような声で話す少女。
そのため息には、年季のようなものが感じられた。
二人との付き合いも、短いものではないのだろう。
「何を言うか、美坂。これはオレ達の友情の証なんだぞ?」
「うむ。香里にはわからないかもしれんがな」
「わかりたくもないわよ」
真顔で話しかけてくる二人に対し、もう一度ため息をつく、香里と呼ばれた少女。
それから、軽くウェーブがかかった黒髪を、手で背に流すと、腕を組む。
腕組みが癖になっている、ということが、その自然な手の動きから推察できる。
そんな三人のそばに、さらに一人の少女が歩み寄ってくる。
「祐一、放課後だよ」
「……」
「こっちも……ね」
「?」
柔らかい笑顔を浮かべながら、話しかけてきた少女。
そんな少女を、祐一が、ついと指差すと、香里はまた軽くため息をついた。
二人のやりとりを、当の少女は、不思議そうに眺めている。
「名雪は相変わらずだな、しかし」
「確かに」
「何も一々報告する必要はないのよ?」
祐一が呆れたような声で言った言葉に、北川が同意し、香里がツッコミを入れる。
名雪と呼ばれた少女は、それでも不思議そうな表情を崩さなかった。
軽く傾げられた首の動きに連動して、少し青みがかった髪が、静かに宙を流れる。
「まぁいいけどさ。名雪はこれから部活だろ?」
「そうだよ」
「それじゃ頑張ってこい」
「うん、わたし頑張るよ」
祐一の言葉に、ガッツポーズをとりながら微笑む名雪。
少しのんびりとした喋り方だからか、今一つ気合は感じられなかったが。
それでも、彼女なりに気合は入っているだろうことは、その後すぐに駆け足で部活へ向かったことからもわかる。
それを見送る三人は、少し苦笑気味にしていた。
「ホントにあいつは部活好きだな」
「走るのが好きなんでしょ」
「相沢はいつも体感してるじゃないか」
北川の言葉に、少し渋い表情を見せる祐一。
彼が言っているのが、朝の登校風景のことだろうとわかったからだ。
しかし、祐一が嫌そうな顔をするのも無理はない。
名雪、という少女は、祐一が居候している水瀬家の一人娘、すなわち祐一にとっては従兄妹にあたるのだが……
彼女は、壊滅的なまでに朝に弱い。
とにかく、いくつ目覚ましをかけてみても、彼女が学校に間に合う時間に一人で起きてくることは、非常に稀なことなのである。
結果、その家で居候している祐一は、いつも遅刻寸前の彼女に付き合って、毎日全力疾走で学校にくることになっているのだ。
その体力の浪費と疲労は相当のもので、引っ越してきた当初は、年頃の男女が一つ屋根の下云々と噂されていたのが、次第にそれも同情へと変わっていくことになるほどだ。
まぁ、変な噂が立ったりするよりは、双方にとって望ましいことではあるが、それでも朝早くから体力を浪費することになる従兄妹の朝の弱さには、祐一も頭を悩ませているわけだ。
色々と、対策も講じてみたらしいが、どれ一つ実を結ばず、結局今も、三回に二回は走って登校してきている。
「いっそお前も一度体験してみるか? 新しい世界が開けるかもしれんぞ」
「遠慮しておく」
「それが賢明ね」
祐一の提案を、即座に否定する北川。
隣では、香里がうんうんと頷いている。
彼女は名雪の親友なのだが、高校に入ってすぐの頃に、一緒に登校しようとして、僅か一週間で挫折したという過去があるのだ。
そのため、彼女の言葉には、かなりの感慨がこもっていた。
「まぁ頑張れ、相沢」
「そうよ、相沢君」
「他人事だと思って……」
気楽な二人の言葉に、少しばかり恨みがましいような視線を向ける祐一。
「まぁそれはいいとして、お前はこれからどうするんだ?」
「ん? あぁ、特に何もないし、このまま帰るつもりだけど」
「んじゃよ、ゲーセンにでも遊びに行こうぜ」
「おぉ、いいな」
北川の提案に、すかさずのってくる祐一。
楽しそうに何をするか、などについて喋っている。
「あ、香里も一緒に来るか?」
「あたしは遠慮しておくわ」
振り向いて聞いてみても、香里は軽く笑いながら手を振った。
まぁ、ゲームセンターにはあまり興味がないのだろう。
「そっか。それじゃまた週明けにな」
「またなー」
鞄を手にとって、二人が香里に手を振る。
同じく軽く手を振り返す香里。
見れば、もう教室に残っている人も少なくなっていた。
色々と話しているうちに、それなりに時間が経っていたらしい。
そして玄関に向かい、靴に履き替えると、そのままゲームセンターへと二人で向かっていった。
「それじゃまたな、相沢」
「おう、またなー」
ゲームセンターで遊んでいるうちに、あたりも夕暮れが近づいていた。
色々と楽しんでいたが、一通り遊んだので、切り上げて帰ることにした。
特に急ぐ理由もないため、喋りながら、ゆっくりと歩いて帰宅の途につく。
そして、その途中で北川と別れ、祐一はそのまま一直線に家へと帰る。
さすがに日も暮れて、次第にあたりも暗くなりつつある。
ポケットに手を突っ込んだまま、祐一は歩調を変えずに、ゆっくりと歩く。
「ん?」
ふと視線を感じたような気がして、思わず振り返る。
けれど、視界には誰の姿もない。
人が歩く音も駆ける音もしない。
気のせいだったのか、と首を傾げながら、それでも再び歩き始める。
彼の住んでいる水瀬家まで、もうすぐのところまで来ていた。
「ただいま」
郵便受けから新聞や手紙などを取り出して、祐一は玄関の扉を開けた。
靴を脱いで、手紙類をチェックしているうちに、リビングの扉が開いて、一人の女性が顔を出した。
「おかえりなさい、祐一さん」
「あ、秋子さん」
聞こえてきた声に、祐一は笑顔に変わり、それから再度帰宅の挨拶をした。
秋子、と呼ばれた女性は、優しく微笑みながら祐一を出迎えてくれた。
その包み込むような温かさを感じさせる声音の持ち主は、それこそ二十代と言われても信じてしまうような若々しい容姿をしていたが、実は名雪の母親にあたる。
実際、顔立ちや声など、似ている要素は多い。
それにしても若すぎる、というのが祐一の引っ越してきた当初の認識だが、それは今も変わっていない。
その温かい声や表情を裏切らず、きめ細やかな気配りを忘れない、優しい女性であり、祐一が心から尊敬する数少ない人物の一人でもある。
何でもできる、と思わせるくらいに、彼女には隙がない。
ともあれ、いつものように出迎えてくれた秋子と一緒にリビングに入りながら、祐一が手紙や新聞を手渡す。
「あ、これは祐一さんにですね」
「え?」
渡された手紙などを見ていた秋子が、そう言って、一通の封書を祐一に渡してきた。
不思議そうな表情をしながら、それを受け取る祐一。
「誰からだろ?」
そう言いながら、手渡された封書をひっくり返して裏を見る。
そこには何も書かれていない。
そして、再度表を見直す。
明らかに手書きではないとわかる文字の羅列。
パソコンで書いて、それをプリントアウトしたのだろうか?
「何も書いてないんですか?」
秋子が尋ねてくるが、祐一は頷くことしかできない。
「誰なのかな?」
「心当たりはないんですか?」
疑問を表情に浮かべたままの祐一に、秋子が聞く。
それでも、祐一は首を横に振るのみ。
実際、彼にはわざわざ手紙を送ってくる相手など見当がつかない。
あるいは、前に住んでいたところにいる友人かもしれない、と一瞬思ったが、それなら名前くらい書いてくるだろう、と思い直す。
それは、家族や他の親戚だとしても同様だ。
と言って、ダイレクトメールの類でもなさそうである。
真っ白な封筒であることから、そう考えるのが妥当だ。
もしダイレクトメールだったりすれば、もっと目を引く文句が表に書かれていて然るべきだからだ。
それ以前に、封筒を見ても差出人がわからない時点で、広告の意味がない。
胡散臭さが増すだけだ。
結局、開けてみないことには何もわからない、と結論付けた。
「それより祐一さん、着替えてきてくださいね。もうすぐ夕食ですから」
「あ、わかりました」
悩んでいた祐一だったが、秋子の言葉にはっとして、一つ頷くと、自分の部屋へと向かう。
制服のままで悩むことでもない、と思ったからでもあるのだが。
ともあれ、祐一は、手元の白い封筒と睨めっこしながら、階段を上っていった。
自分の部屋に入ると、扉を後ろ手にしめて、鞄を机の横に置いた。
そして、封筒を机の上に放ると、制服から私服に着替える。
制服をきちんとハンガーにかけ、私服に着替え終わると、そのまま机に向かう。
引き出しからハサミを取り出すのも面倒に感じたので、封筒の上部を手で破っていく。
幸い、中身を一緒に破ることもなく、封筒を開けることができた。
中にあったのは、一枚の便箋。
四つ折にされたそれを、丁寧に開いてみる。
そこに、同じく手書きとは思えない文字で書かれていたのは、こんな文章だった。
『復讐の時はきた。
絶対に、お前を許してやるつもりはないぞ。
自分の犯した罪を悔いながら、裁きの時を待つがいい』
「……なんだ、これ?」
手紙に書かれていた言葉に、しばらく絶句していたが、思わず疑問の言葉が口をついた。
けれど祐一にしても、これが何なのか、全くわからないようなバカではない。
これがいわゆる脅迫状と呼ばれるものであり、それが自分に対し名指しで送られてきた事実に、少し混乱しただけだ。
けれど、混乱するのも仕方ないだろう。
普通、いきなり脅迫状を受け取って、微笑みながら余裕で対処できるような人間は少ない。
そんな手紙を送られることに慣れているのならばいざ知らず、幸いと言うべきか、祐一は、こんな物騒なものを受け取ったのは、これが初めてである。
もっとも、こうして送られてきた時点で、幸いでも何でもなくなってしまったのだが。
「うーん……」
思わず腕を組んで考え込む祐一。
脅迫状を送られてきたのは事実だ。
けれど。
「……誰なんだ?」
思い当たることがない。
誰かが自分を恨んでいるとしても、全く心当たりがないのだ。
少なくとも、自分の過去を振り返ってみても、復讐という物騒なフレーズが出てくるほどの悪行を行った記憶はなかった。
あるいは、自分の知らないうちに傷つけてしまった人がいるのかもしれない、とも考えたが。
「それにしても……」
過激な表現、過激な言葉。
果たしてここまでの憎しみを抱かれるようなことを、自分はやったのだろうか?
いくら考えてみても、納得し難かった。
これは別に、自分を弁護して、というものではない。
“罪”や“裁き”といった言葉が出るということは、祐一のせいで誰かが傷ついた、ないしは誰かが死んだということだろう。
それはわかるのだが、当の本人に、自分のせいで誰かが死んだ、という記憶がないのだから、どうしようもない。
知らないうちに誰かを傷つけたり、死に追いやったり、といった行動を、自分がとっていたとも思えない。
少なくとも、今は全く想像がつかない。
だから、首を傾げるのみだ。
「まさか、いたずらか?」
ふと思いついた可能性。
実際、名雪と一つ屋根の下で暮らすことになって、それらしい視線や手紙の類が皆無というわけではなかったのだ。
もっとも、それはこれよりも遥かにソフトな文面だったが。
ともあれ、犯人やその動機に心当たりもないし、今は脅迫状だけだし、とりあえず騒ぎ立てるほどのこともない、と結論付けることにする。
秋子や名雪、舞や佐祐理といった親しい人達がこれを見れば、きっと心配するだろう。
それで、もしこれが誰かのいたずらだったりすれば、たまったものではない。
となれば、こんなものは見せない方がいいだろう。
「っと。夕飯だったな」
既に夕食ができているらしいことを、秋子が言っていたことを思い出して、祐一は、手紙をとりあえず机の引き出しにしまいこむと、部屋を出た。
今は静観しておくことに決めたらしい。
「お、名雪。おかえり」
「あ、祐一、ただいまー」
階段を下りたところで、丁度帰宅したところらしき名雪を見て、祐一が出迎えの言葉を言う。
名雪も、祐一の姿を認めると、嬉しそうに微笑みながら、ただいま、と言った。
少し上気した頬を見るに、走って帰ってきたらしい。
既に大分暗くなってきているから、それも無理なからぬところだ。
「もう夕食だぞ。着替えて下に来いよ」
「うん」
一言二言言葉を交わすと、名雪は階段を上っていった。
祐一はと言うと、別に階段の下で待つ理由もないからか、そのままリビングに入る。
「あら、祐一さん。名雪、帰ってきたんですか?」
「はい。すぐに着替えて下りてくるように言っておきましたけど」
テーブルの上に料理を並べながら、秋子が、名雪のことを祐一に聞いてくる。
祐一は、それに答えると、テーブルに歩いていく。
湯気の立つ出来立ての料理から漂ってくる美味しそうな匂いに、祐一も食欲を刺激される。
それこそ、レストランを開いてもやっていけるだろう、と思えるほどの腕を持つ秋子の毎食の料理は、祐一にとっても大きな楽しみだ。
この家にやってきてからというもの、祐一の食糧事情は、すこぶる順調である。
「そう言えば、祐一さん。さっきのお手紙は何だったんですか?」
料理を並べ終わると、秋子が席につきながら、祐一に尋ねてくる。
名雪はまだ下りてきていない。
「あ、あぁ、大したもんじゃなかったです。広告みたいなもので……」
「そうですか」
少し言い淀んだ祐一だったが、秋子は特に追及するでもなく、微笑みながら話を終わらせた。
こういうさり気ない気配りも、秋子のいいところだ、と祐一は思う。
「お待たせー」
と、丁度そこで名雪がリビングの扉を開いた。
笑顔のまま、遅くなってごめんね、と口にして、そのまま席につく。
それを潮に、話は終わりを告げた。
「それじゃ、いただきましょうか」
「いただきまーす」
「いただきます」
秋子の言葉に、祐一も名雪も手を合わせてから、食事を開始する。
今日の出来事などを話しながらの、楽しい食事。
名雪が部活のことについて話したり、祐一がゲーセンでの出来事を話したり。
秋子は、そんな二人の話を楽しそうに聞いていた。
ときどき相槌を打ったりしながら、とても幸せそうに。
こういう風に、家族の時間を大事にする人だと知っているから、祐一と名雪もまた、食事の時間が楽しみなのである。
そうして食事は進んでいったが、結局最後まで、祐一が受け取った手紙のことは、この場では明らかにされることはなかった。
食事の時間だけでなく、その後の団欒の時間、交代で入る風呂の時間になっても、祐一は話を切り出さなかったし、秋子も聞こうとはしなかった。
そうして、夜は更けていき、名雪が舟をこぎ始めたのを潮に、祐一も自分の部屋に戻ることにした。
「おやすみなさーい……」
「おう、明日は休みなんだし、ゆっくり寝ろ」
「そうするよー……」
ふぁ、と大きな欠伸をしながら部屋に入る名雪を、苦笑しながら見送ってから、祐一も自分の部屋に入った。
明日は創立記念日のため、学校は休みなのだ。
名雪の部活も午後かららしいので、ゆっくりと寝られるというわけだ。
祐一も、明日は、舞と佐祐理の三人で遊びに行く予定になっていた。
行き先は、動物園である。
これは、舞の強い要望によるものだ。
可愛らしい動物をこよなく愛する舞は、動物園に遊びに行くというだけで、目を輝かせる。
そんな舞を微笑ましく思えばこそ、祐一も佐祐理も、動物園に行くことに反対などしないのだ。
いや、むしろ二人も楽しんでいる、と言えるだろう。
それがまた、三人の強い絆を示している。
「……寝るか」
約束の時間もある。
寝坊するわけにはいかないのだから、早めに寝るくらいで丁度いいかもしれない。
そう考えて、ベッドへと向かい、掛け布団の中にもぐりこむ。
「……」
ベッドに入り、目を閉じると、一瞬脅迫状のことが頭を過ぎったが、すぐに首を振って、思考の外に追いやろうとする。
けれど、すぐに忘れられるわけもない。
それだけ、衝撃だったということでもあるのだが。
とは言え、実際に何かあったわけでもないし、目を瞑っているうちに、次第にまどろんでいき、やがて規則正しい寝息が聞こえるようになった。
〜続く〜